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エッセイ:大学3年目夏夜のベランダ

梅雨が明けて夏が来た。
大学生になって迎える何度目かの夏の空はやはり何回みても透き通る空の色で他の季節に比べてどこか特別だ。ただ、それ以上に夜の夏に愛おしさを感じるようになった。夕立で雨の匂いになった洗濯物をつまみながらそんな感傷的な気持ちになった。

夏というのは特別な季節で、五感をより明瞭なものにさせる。

20をすぎてはじめての夏は酒とタバコで味付けをした。友達とプールに行ったり自転車で熱いアスファルトを駆け抜けたのは遠い過去の思い出で、三ツ矢サイダーの代わりにストゼロを、wiiリモコンの代わりにタバコを手にして夏の空気を吸っている。 酒も煙草も味だけが好きでやっているけれど、夏の情景と合わさるとそれらが持つ陰的要素は蒸し暑さによって翳りを増していくように見えて、そんな紫色の空間がぼくはすきだ。

いつから夏の空を見て過去を思うようになったのか、たった20年ででさえ思い出すことが出来ない。人が口を開けば夏で騙るのは中高の青春と汗の味と田舎の夏休み。ぼくがどんなに涼やかな夏夜のベランダを好ましく思っていても、大学生のゴミみたいなこの生活を美しい思い出として思い出すことはないのかと思うと悲しい反面、この初夏は過去の自分でも未来の自分のものでもない、いま令和元年を貪るぼくだけの32℃だという喜びも感じる。
でも4箇所蚊に刺されたのでやっぱり夏はクソ。

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