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猫に九生③

三回目は、教師。
知識は生きる術だから。子どもたちがお腹を空かせず、理不尽な目に逢わずに生きていけるように。
「マオ先生。黒雲母は薄くて爪で剝がせるんですよ。透かして見ると、先生の目みたいにきらきらしてて綺麗でしょう?」
はにかみながら言う子。遥かに長く生きているのに彼らの持つ感性には敵わないなと思う。
教えているようで教えられる日々。
私は、よく彼らへ本を読み聞かせた。言葉は世界だ。新しい言葉を知るたびに、受け取れることも言い表せることも増えていく。
一人一人の持つ素晴らしい世界を自由に表現できるように。

 四回目も、教師。
「マオ先生、これなんて読むの?」
「マオ先生、練習するから教えて!」
「マオ先生、私の将来の夢はね・・・。」
たくさんの子どもたちと出会った。どの子にも共通しているのは、『色々なことを知りたい。できるようになりたい。』というまっすぐな気持ち。そして、夢を語る時の曇りなき瞳。命へのありがたみが無い私にとって、彼らは刹那的な花火のように力強い美しさを持つ存在に感じた。
私は通過点に過ぎない。でも、彼らの人生を少しでも豊かにできるのなら、限りなく広がる未来へと繋げていけるなら、私の存在にも意味があるのではないか。何より、彼らのそばにいてその成長を見届けたい。
五回目、六回目、七回目、八回目・・・数えきれないほど長い間、私は教師として生きた。
『私の命・・・。』

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