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カーリノベーション×デジファブで踏み出す、ニューノーマルな時代における「ものづくりの聖地」への一歩

バンライフ」という言葉を耳にしたことはありますか?バンライフとは、車(バン)を生活空間に改装し車中で暮らす、場所に縛られないライフスタイルのこと。

今回ご紹介する渡鳥ジョニーさんは、日本でいち早くバンライフを実践したバンライファーの先駆者です。そしてバンライファーとして生活する側、2020年2月には「バンライフの聖地をつくりたい」という想いから、一般社団法人LivingAnywhereが運営する「LivingAnywhere Commons」の八ヶ岳北杜拠点(以下LAC八ヶ岳)のプロデューサーに就任しました。

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▲ LACとは、場所やライフライン、仕事など、あらゆる制約にしばられることなく好きな場所でやりたいことをしながら暮らす生き方をコンセプトに、ともに実践することを目的としたコミュニティ。2021年1月現在、その拠点を全国11箇所に展開している。

そんなジョニーさんとVUILDが展開するサービス「EMARF」がタッグを組み、CNCルーター「ShopBot」を用いたバン改装プロジェクトが2020年9月に発足。今回は、SNSで反響を呼んだ自家用車改装のプロセスを公開すると共に、バンライフのリアル、そしてプロジェクトを通して見えた今後の事業展開の可能性について、渡鳥ジョニーさんとプロジェクトを担当した黒部と戸倉に話を聞きます。

人類の常識を覆す?バンライフをはじめたきっかけ

ジョニーさんがバンライフを始めたのは2018年頃。その以前は地方での豊かな暮らしを満喫していましたが、当時の奥様との離婚をきっかけに東京に戻ることになったのが契機となりました。

ジョニーさん「スーツケース2つという少ない荷物で東京に来たものの、高い居住コストや満員電車のある生活に価値を見出せませんでした。荷物も少なかったことから部屋はビジネスホテルほどの規模で十分だったので、それなら車でもイケるのではと思ったんです。

小屋を建てるというアイディアもありましたが、都内では現実的ではないし、場所に縛られてしまう。そう考えると、自由に移動できる車がぴったりだと思い、バン購入に踏み切りました。当時は素人だったため、プロの大工さんに手伝ってもらい改装を行いました。」

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東京でのバン生活を「都市型バンライフ」と呼んでいたジョニーさん。24時間車中にいるのではなく、バンをパーソナルな空間として位置付ける一方で、日中は、近年都心部で増えてきているシェアサービスを存分に活用する生活を送りました。

当時、選択肢にはなかったものの存在は知っていたという「ShopBot」。今後、機械を取り入れて2作目、3作目へと進化させると共にバンライフの文化を発展させていくことを視野に入れていたジョニーさんは、1作目はプロトタイプとして考えて制作していたといいます。

ジョニーさん「東京に戻ってきたということもありますが、もともと、バンライフ自体が一大マーケットになると思って始めたんです。

これが10年前だったら違ってくると思いますが、インフラが整備された現代において、ネットが繋がればどこでも仕事できるし、オフグリッドの技術も発展してきているので、今までできなかったことができるようになってきている。都市や固定された建築、土地で暮らすという人類の常識が塗り替えられるだろういうことを直感で感じました。」

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とはいえ、日本における既存のバンライフの文脈においては、そのライフスタイルが普及するにはまだ十分な環境が整っていませんでした。

ジョニーさん「場所に固定されずに自由に生きる暮らしは、まだ日本の社会に浸透していないし、プロダクトとしても流通していません。車が快適に停められる環境の整備も必要だし、文化としてももっと成熟してほしいと思っていました。」

1作目のバン改装の経験を経て2020年2月にたどり着いたのがLAC八ヶ岳。バン改装やバンライフのための環境整備などを思う存分実験できるその場所で、「バンライフの聖地を作る」というジョニーさんの想いが、事業として立ち上がりました。

汎用性を考慮したプロジェクトの在り方とプロセス

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あらゆる多様性と創意を受け入れ、既存のインフラに頼らない未来の暮らしを実験する場所として2020年10月にオープンした「LAC八ヶ岳」ですが、LACの事業責任者である小池さんの発言が、VULDが協働することになった今回のバン改装プロジェクトのきっかけになりました。

「LAC八ヶ岳に車で来て、3Dスキャン、部材加工、組み立てまで含めて、たったの1日でバンが改装できる場所になれば面白いんじゃない? 」

このなんとも挑戦的とも言える発言ですが、せっかくなので、バンライフで有名なジョニーさんとVUILDが、タッグを組んでやってみることに。2020年11月29日にLAC八ヶ岳で予定されたお披露目会での公開を目指して、バン改修プロジェクトがスタートしました。

① 車を用意する
今回改装に使用したのは、LACの拠点アドバイザーとして全国を走り回っている梅田さんが社用車として使っていた日産ラフェスタ。

もともと自動車屋さんだったという梅田さんが、後部座席やタイヤハウスを取り払って、何もない状態にして引き渡してくれました。

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② iPadで車を3Dスキャンする
車の複雑な凹凸を計測するため、iPad Pro(2020年モデル3月発売 Lidar搭載モデル)と、「pronoPointsScan」というアプリを用いて3Dスキャンを行いました。

戸倉(VUILD)「当初は高価な機器を使うことも考えていたのですが、今後の汎用性を考えたときに、iPadを使った方がユーザーのハードルが下がるだろうということで、iPadでスキャンすることにしました。」

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③ データを処理する
スキャンの方法にもよりますが、取り出したデータは専用処理ソフトで処理する必要があります。今回は、「CloudCompare」というソフトを用いて、「点群」と呼ばれるデータを位置合わせをすることで線データにしていきました。

戸倉「実際にはデータ処理後に、レーザー測定器やメジャー、型取りゲージを使って実測もしています。というのも、スキャンが甘い箇所や部分的に精度が出てない場所があったので、そういった部分を実測で補完したんです。

スキャンの仕方次第で精度に誤差が出てきてしまうので、今後は実測やデータ処理をしなくてもいい方法を展開できたらと考えています。」

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④ 「Rhinoceros」で3Dモデルを作る
ジョニーさんが思い描くかたちを実現するために、共に意見を交わしながらVUILDチームでモデリング。ジョニーさんが考案した「ニューノーマルな茶室」というコンセプトとスケッチを元に、かたちにしていきました。

戸倉「ジョニーさんが主体となって進めたことで、これまでVUILDがやって来なかった色味やディテールを取り入れることができて新鮮でした。」

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⑤ EMARFで書き出し
完成した3Dデータを、VUILDがサービス開発したオンラインプレカットサービス「EMARF」に送信することで、加工データと加工見積りを素早く出力できます。

今回のプロジェクトでは、内装の木フレーム / 床 / 奥壁 / 家具フレームの4箇所をEMARFで出力しました。フレームに用いた仕上げの曲げベニヤ材は現在EMARFでは対応していないため、別途データを作成しShopBotで加工しています。

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▲今回「EMARF」で出力した部材の金額は計約10万円。

⑥ 切削・研磨・塗装・組み立て
組み立ての際には、車に一本もビスを打たずに完成させた点がポイントになっているそう。

戸倉「空間が車にスポッと収まるデザインを考案したので、今回のように後部座席を外して構造変更を行った車であれば、空間を解体すれば車検にも通すことができます。3Dスキャンすることで躯体に傷をつけずに新陳代謝していくことができる改修のあり方は、古民家やビルでも応用できると思います。

今回はiPadを使っていますが、最新のiPhoneにも同様に3Dスキャンを可能にする『Lidar』というセンサーが搭載されているようなので、今後利用のハードルはより低くなっていくのではないでしょうか。」

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一念発起しないとできない?バンライフのイメージが変わった瞬間

今後の汎用性を考慮しプロジェクトを進めてきたVUILD戸倉と黒部ですが、あまり馴染みのない「バンライフ」に対して、当初はどのような印象を持っていたのでしょうか。

黒部(VUILD)「このプロジェクトに関わる前は、バンライフはハードルが高いという印象を持っていました。大きい車がないとできないとか、脱サラしないとできないとか、すごくお金がかかるイメージです。

今回は天井が低い普通車を使ったので、名目としては『茶室』ということになりましたが、実は大人も寝転がれるし、仕事もできそうな居心地のよさがあります。実際に改修してみてバンライフがとても身近に感じましたし、技術の進化とともにどんどんスタンダードになっていく可能性を感じました。」

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ジョニーさん「僕自身も、このプロジェクトをきっかけに車のサイズに対する考えが変わりました。車にいる時間が長いのであれば広々としているに越したことはないと思うのですが、ラフェスタのサイズ感でも、出張程度であれば快適に過ごせます。

なにかを作る時は、制約があるからこそ知恵を絞ってクリエイティブな発想が生まれると感じていて、今回のバン改装は、コンセプトカーという位置付けとしてはうまくできたかなと思っています。なにより、VUILDのふたりには楽しんでもらいながら短期間で形にできたことが何よりの収穫です。」

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戸倉空間が移動する、みたいなところが面白いですよね。建築や空間って基本的には場所に固定するものなので、その場所や敷地を最大限に読みこんでその地に最適なものを作ろうとしますが、バンライフの場合はそもそもが車の中だから、場所に問わられず、どこでもその空間が楽しめます

今日は富士山のふもとだけど、次は北海道の雪景色でお茶しよう、みたいな感じで、同じ空間なんだけどその環境を勝手に取り込んでいっちゃう『借景』みたいな

車のような小さなスペースでもこういう空間が作れて、しかも外から見たらただのラフェスタでしかない、というのが相当面白かったです。」

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ジョニーさん「今回のバン改装のテーマは『ニューノーマルな茶室』ということでしたが、そもそも車自体がニューノーマル的なものだと思っています。

これまで、移動手段としての車だったのが、生活空間をはじめとした様々な空間としてもあり得るという意味合いで、今後も広がっていく市場だと思っています。今回は、茶室という遊び感覚のテーマで出発しましたが、コンセプトを変えていろいろ挑戦してみたいです。」

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バンライフに持っていた印象が、実際のバン改修を通して払拭されるきっかけとなった今回のプロジェクト。デジタルファブリケーションを使ったバン改装は、如何に一般化することができるのでしょうか

戸倉「今回公開する手順がこなせればできるとは思うのですが、こういうプロセスを全力で可視化して発信していくことがVUILDの役目の一つでもあると思っているので、ぜひ真似していただけたら嬉しいです。

それこそこのプロジェクトのきっかけになっているのは、LAC八ヶ岳に車を持っていって1日で改装するというアイディアなので(笑)、それが実現したらいいですよね。」

LAC八ヶ岳にShopBotの導入が決定!ニューノーマルな時代のニューノーマルな場所づくり

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今回のバン改装プロジェクトとLAC八ヶ岳のオープンで、「バンライフの聖地を作る」という野望に一歩近づいたジョニーさん。1作目のプロトタイプを制作した時とは異なる手法でバン改装を行ったことには、どのような発見があったのでしょうか

ジョニーさん「今回は自分で描いたラフと世界観をVUILDさんに伝え、それをデザインに落とし込んでもらったのですが、この経験を踏まえ、今後は自分でも手を動かして作れるようになりたいと思っています。

実際の制作現場を目の当たりにしてわかったのは、デジタルファブリケーションは完全に人の手をフリーにしてくれるわけではないということ。今後は、デジファブの強みを踏まえた上で、制作のプロセスをより効率的にする必要があると感じました。」

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今回の制作は川崎にあるVUILDの工房で行いましたが、昨年11月28日に開催されたお披露目会を経て、LAC八ヶ岳にもShopBotが導入されることが決まりました。今後、LAC八ヶ岳は、どのような場所になっていくのでしょうか。

ジョニーさん「『HACOTORA』*の話もあるように、軽トラやトレーラーなど、車にいかに面白い箱を乗っけるかというところにもっと伸び代があると考えています。そのため、今後は研究開発含め、色々なことをやっていきたいです。

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▲浜松初・新しい移動型店舗のデザインコンペティション「HACOTORA」は、ニューノーマルな時代に合わせた、⼈が集まりつながりが⽣まれる場所として新しい移動販売⾞のデザインを募集をしています。応募締め切りは1月31日(日)。最優秀賞には30万円の賞金と、実物製作の機会が贈られます。詳しくはこちら

また、2021年2月にはLAC八ヶ岳内に工房ができるので、キャンプのついでにものづくりができる場所にしたい。宿泊設備も実験スペースも十分にあるので、作りたいものがある人が思いっきりものづくりに打ち込める、まさに“メイカーズ・イン・レジデンス”がもうすぐ始められます。」

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自分たちでつくる移動型の暮らし カーリノベーション×デジファブの新たな地平/VUILDERS TALK vol.2

今回お話を聞いた渡鳥ジョニーさんと黒部と戸倉が、ものづくりのリアルにフォーカスしたトークイベント「VUILDERS TALK vol.2」に登壇します。ShopBotの導入を間近に控えたLAC八ヶ岳と渡鳥ジョニーさんのさらにディープな話が聞けるかも? ぜひ今後の活躍にもご注目を!

※イベントは終了しました。アーカイブの視聴はこちらから!

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▶︎ プロフィール

渡鳥ジョニー
VLDK / LivingAnywhere Commons 八ヶ岳北杜 プロデューサー
1980年千葉県生まれ。2004年 慶應義塾大学環境情報学部卒業後、広告業界にてウェブデザイナー/エンジニアとして勤務。2011年 震災をきっかけに移住した熊本で、暮らしかた冒険家として活動する。2014年 ベースを札幌に移し 札幌国際芸術祭に出展。2018年 都市型バンライフを開始し、2020年よりLivingAnywhere Commons八ヶ岳拠点起ち上げに携わる。WITHコロナ時代の働き方や暮らし方を実験中。

VUILD株式会社 黒部駿人 
デザイナー / フォトグラファー
1993年埼玉県生まれ。2015年芝浦工業大学工学部建築学科を卒業後、東京藝術大学大学院美術研究科デザイン専攻へ進学。在学中に1年間のパリ留学を経験し、DGT ARCHITECTS(現ATTA フランス・パリ)でのインターンとTakuji SHIMMURA photography (フランス・パリ)でアシスタントを行う。2018年にVUILD株式会社に入社し、まれびとの家や屋台、スツールなどの設計と竣工写真の撮影を担当している。

VUILD株式会社 戸倉一 
デザイナー / デジタルファブリケーター
1994年兵庫県生まれ。2018年滋賀県立大学を卒業後、同大学院に進学。竹などの地域材料を扱ったデザインビルドを専門に学ぶ。2019年12月より、VUILD株式会社に参画。小規模建築/インテリア/プロダクトなどの設計製作・施工管理を担当。2019年12月より、VUILDに参画。小規模建築/インテリア/プロダクトなどの設計製作・施工管理を担当。

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