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上手から盗め、下手から学べ

 喋りのプロと言われたらどんなお仕事を想像しますか?お笑い芸人、司会、アナウンサー、店員、車掌‥。

 僕は、伊集院光さんがすぐに思いつきます。いや、職業じゃなかったんかーいっ。すいません。でも伊集院光さんって、伊集院光っていう職業だと思っているんです。もちろん、他の人はなれませんよ。人の名前なので。

 ラジオの帝王と呼ばれている伊集院さん。ラジオで聞いていると情報が声だけなのでよりわかると思うんですが、喋りの最後の方、結構息切れしているんですよ。

 オチに行くまでに感情とパワーをふんだんに使っているので、唾が飛ぶくらい前のめりで話しているのが伝わってきます。

 技術とかではなく(技術もわからないように入れているんだろうけど)それよりも『ねええ!!聞いて!!』があるんです。こうやったら上手く聞こえるかな?とか、声を高さをどうこうではなくこの“聞いて!!”という気持ち。

 これが笑っちゃうくらいあるんですよ。わかった、わかった聞くからとなってしまうような。聴き終わって気づいたんですが、頬が痛いんですよ。ずっと力を入れて笑っていたんです。それも声を上げてワハハということではなく、ニヤニヤが続いていた状態。

 ラジオなので巻き戻せばいいんですが、自分の笑で伊集院さんのトークが聞こえなくなるのが嫌なんです。それくらい聞いていたい。


 話は少しそれますが、演技論の一つに“上手から盗め、下手から学べ”というのがあるんです。
 「芸は盗んでも犯罪にならない、上手い人のを見て取り入れてごらん。ただ、先輩からしてみると盗めるものなら盗んでみろという感じだけどね。」

 一言一句この通りではないですが、皆さんも知っているような声優さんに言われた言葉です。

 どこがすごいのか?何が素人なのか?それがわかっていないのは盗む前の問題ですよね。お金は物が買えるとわかっているから盗む。金品はお金に換えられるとわかっているから盗む。

 この芸はなぜお客さんを沸かせているのか?この演技はなぜ1発でOKが出たのか?がわかっていなければ、すごいかどうかもわからないので盗みようもないんです。

 先輩の喋りを一言一句書き写して真似して喋ってみる。ボイスサンプルを聞いてそっくりにやってみる。演技,ナレーションをどういうふうに取り組んでいるのか聞けるチャンスがあったら事細かく聞いてみて、自分のその意気込みでやってみる。

 ‥全然わかんないです。難しく考えて過ぎているだけかもしれませんが、本当にわからない。

 おそらくですが、原因はなんとなくわかっています。それは“自分の言葉ではなく、借りてきた言葉だから。”

 あちこちオードリーという番組が好きで毎週見ているんですが、あるときふと気づいたんです。

 「これくらい、若林さんなら言い返せるだろうになんでいい返さないんだろう?」

 僕だったらこうやって言ってこうして‥と、いわゆる論破しにかかる構想を組み立てていたんです。ですが、若林さんはゲストの方に全然ダメじゃないですかーと言われたとき「くうぅ、何も言い返せない」とその言葉を食らっていたんです。

 あ、だからだ。だから僕は気づけないんだ、と。

 言い負かした自分は気持ち良くなれるかもしれませんが、ショー、エンタメになっていない。誰も僕の論破なんて聴きたくないんですよ。
 しかもその論破に使う言葉もどこかで得た読みかじり聞きかじりの言葉。

あなたは何が言いたいの?

 これが曖昧だった。だから僕の喋りはふわっとしてしまっているんだって。人の言葉を使っているうちは自分の頭が働かない。

 人の言葉を受けて、自分の技を出す。プロレス好きな僕はこれを“言葉の受け身を取る”と名付けました。

 受け身を取るには、その技がどういう技なのか知っていなきゃいけません。技を出すときには、その技を出せるくらい体を鍛えていなきゃいけません。

 気持ちが前のめりすぎてしまってうまくまとめられなくなってしまいましたが、技を出す前に頭ばかりを使うのではなく、どんどん出してみる。そうすれば自分に足りない力がわかってくるから、ということを信じて今日も走ります。

 あ、長めの朗読を頑張って収録したので是非聴いてください!凄く聞いてほしい!!!



 聲優・ナレーター
 有野優樹


 noteメンバーシップ“声と喋り研究所”


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