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「アンダーウェア」はパリの夢を見るか?ネトフリにおけるマンガvsロムコム
アン・ハサウェイ主演の映画「プラダを着た悪魔」(2006年公開)をご存知だろうか。この映画でメリル・ストリープ演じるミランダのモデル(と言われている)、ファッション雑誌「ヴォーグ」編集長のアナ・ウィンター。つい最近、彼女が初めて映画について口を開いたとして話題になった。
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「アンダーウェア」(2015年公開)は日本で制作されたネットフリックスのドラマである。ランジェリー専門店で働くことになった主人公繭子(桐谷美玲)の上司であるデザイナー南上を演じている大地真央。彼女の演技はミランダと違ってコミカルだが、おそらく「プラダ」の影響を受けている。
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そしてネットフリックスの最新ドラマ「エミリー、パリへ行く」(2020年公開)である。題名通りパリを舞台にフレグランス・メーカーのマーケィング担当としてシカゴから送り込まれたエミリーが主人公のロムコム。彼女のフランス人上司もまた「プラダ」の香りがするのでありました。
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今日のノートでは、この2つを通して日本とアメリカのドラマの違いについて考えてみたい。
ロムコムは「チキン彼氏」から
一般論であるが、アメリカのドラマはまず主人公が窮地に陥るところから始まる。エミリーの場合は、パリに行く予定だった上司が急遽マタニティ休暇をとることになったため、代わりに1年滞在するというラッキーな状況...。しかし第二話でパリに来るはずのボーイフレンドはさっさと電話一本で「辞退」してしまう。立派な「チキン(元)彼氏」の誕生を嘆くエミリー。実際には「こんなはずじゃなかった」というリアクションなのだが、視聴者が期待しているのはもちろんパリのロマンスであるし、もっと言えば第一話から階下のイケメン・シェフがその相手になることは見当がついている。(そう言えば「プラダ」でもアンディのボーイフレンドはシェフだった。)
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恋をしない「アンダーウェア」
一方の繭子は、まったく男の影がチラつかない。新しい勤務先 Emotion での第一日目から物語は始まるが、日本のドラマによくある「田舎コンプレックス」が彼女の「慰めな自分」を実感させる設定になっている。彼女にとっての銀座は、エミリーにとってのパリであるが、エミリーと違って彼女には一緒に寿司屋に行ける友人がいたりする。
しかし、このドラマでは「恋」はよくセリフに登場する。デザイナー南上も第2話で「お客様は私達のランジェリーに恋をしていらっしゃいますので」という理由で、前金2500円の17回払いを独断で決めるくらいであり、「恋」は支払いすら上書きしてしまうのである。もちろん、彼女たちのロマンスの対象は「お仕事」である。
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パリに入りてはパリに従え
一方「エミリー」ではパリにアメリカ人として住み働くことがチャレンジであり、当然ながらフランス人はステレオタイプばかりである。よそ者には冷たく、男は女と見れば声をかけまくるし(「シカゴにボーイフレンドがいるってことは、パリにはいないんだね?」)、ランチは常に2時間、上司同士の不倫は公然の秘密なのだ。何しろここは「愛」の都市だからである。
エミリーの親しい友達は二人。トリリンガルのベビーシッター(アジア人だから?)と、階下のイケメンの彼女であるフレンドリーなブロンド美人。ベビーシッターの彼女は、中国でシンガーとなる夢を諦めてパリに来たというバックグラウンド。友人の結婚式で散々嫌がった挙げ句、いきなりシーアをカラオケで歌ってしまう。
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パリの風景を楽しみたい視聴者、特に「あわよくば自分もパリに行けば...」という夢を(パスポート保持率48%の)アメリカ人視聴者に訴えかけるロムコム。エミリーのファッションは「プラダ」のアンディと比べてどこか垢抜けない。にも関わらず毎回ある程度のkawaiiラインをクリアしてくるところは、むしろ日本の視聴者がアレコレ言って楽しむのにうってつけかもしれない。
ランウェイの彼方に
「アンダーウェア」の第七話、繭子がEmotion初のランウェイ・ショーを企画・制作するというエピソード。「恵比寿ガーデンホールで行う規模のイベントを素人が仕切るリスク」を考えると、これはマンガの世界。ショーの一週間前のリハーサルでいきなり倒れる繭子。彼女が企画を変更しようとすると、南上の顧客だった元芸者のおばあさんが着物を貸し出してくれるとか、周囲のご都合サービスは「友情・努力・勝利」の世界。
目を覚ました繭子は、ランジェリー+着物という(どう考えても)「それお客さんの前に出していいんですか」な組み合わせを前にして企画の変更を言い出す。「自分のやりたいこととギリギリのスケジュールの間で悩む」という、ここでも「仕事がロマン」。
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彼女のトラブルを救うのが「行きつけのバーにいる」「バケーションがなくなって(渋々)仕事をする気になった舞台演出家」という設定。ここでも「仕事 > ボーイフレンド」なロマンス感。彼の言う「人をアッと驚かせる仕事はプロにしか出来ない」は、彼も仕事に恋をしていることを示すセリフ。
「エミリー」も大御所デザイナーとの仕事がシーズンの最後の大円団。彼女のランウェイはとにかくカラフル。「アンダーウェア」の張り詰めた緊張感のあるショーとは真逆のスタイル。
![画像8](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/37280879/picture_pc_90a9e70a791f3e0441fe2763afc3ca7e.jpg?width=1200)
マンガ vs ロムコム
「アンダーウェア」のマンガ的表現は、内容よりもその演出によく特徴が出ている。人物の撮り方、セリフの言い回し、一つ一つの会話をマンガのコマのようにして繋いで撮影されている。これは日本のドラマの伝統的な制作方法。いかに役者の目がキラキラと輝いているように見せられるか、あるいはいかに役者たちが美しい空・星・街に囲まれていると感じさせられるか。そこにあるのは様式美であり、日本が世界に誇る「クールさ」をドラマの形で世界にマーケティングしている、と言えないだろうか。
「エミリー」のテンポと音楽の使い方は、制作しているMTVスタジオの個性。フランスで2000年代初頭から盛り上がっていたハウスやエレクトロといったダンス・ミュージックの系統やヒップホップも含めて選曲の幅は広い。絵の撮り方は、景色がよく見えるショットから人物のアップ、さらにトークへ、映像を繋ぐテンポを音楽に合わせて整えることで盛り上げる工夫。そこは「プラダ」がそもそも大きなスクリーンで見せた演出を、パリを舞台にして異なるリズムで再現した、と言える。
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その昔、ミュージック・ビデオ専門の放送局として誕生したMTVは「ファッション雑誌を眺めるように飽きさせないメディア」などと評されたものであるが、その流れは脈々と映画やドラマに受け継がれていることが2020年の今日でも理解できる。「プラダ」こそはその一つの頂点だったのだろう。
ロマンスの先にあるもの(ネタバレ)
「アンダーウェア」の第八話では、とうとうランウェイがエピソードの中心。主人公の奮闘をコミカルに描いた「プラダ」とはタッチこそ違えど、登場人物の仕事に対する熱い思いがセリフの端々に。まさに「仕事こそがロマンの対象」であり仕事の成果で「パーフェクトを目指す」。ロムコムのように次から次へと現れるオトコとライバルたちをゲームのように攻略する暇はない。
「エミリー」のシーズン最終話、階下のイケメンは独立のための資金の目処をエミリーのおかげで無事に発見。その独立騒動中に起きた諍いからライバルの女友達は消えて、大御所のデザイナーとの仕事にも成功、エミリーはクビにならずに済む、という完全な「恋と仕事の両立=予定調和」な展開。すべてがハッピーエンドでないことには、新しいロマンスを次のシーズンで育むことは出来ない、という見本のよう。
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生まれも育ちも異なる3人の主人公。ドラマに共通するのはハッピーエンドぐらいである。と思いきや、常に「ワタシ vs アナタ」なロムコムのパターンと「仕事(=恋)に一生懸命」なマンガの王道。両方とも「プラダ」に流れを見つけたり、が今日の結論のよう。
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