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特別研究員コラム④:脳の仕組みから考えるアンラーニングに必要な「対話」 ~Vol.2~ 

 Vol.1では、「感情」を司る脳と「思考」を司る脳の切り替えについてお話しました。今回は、新しい仕事に取り組む際に、上手く脳を切り替えるにはどうしたらよいかについて考えてみました。

・「アンラーニング」と「メタ認知」

 新しい環境に適応して行くには、脳の機能を理解し、自分自身の置かれた状況を客観的に見直す必要があります。心理学では、自分自身を客観的にみつめ考察を深めていくことを「メタ認知」と呼んでいます。
 仕事をしていると、環境の変化に合わせて、今までの考え方から、新しい考え方に切り替えるため、「メタ認知」が必要になる時って、どうしても出てきてしまいますよね。メタ認知が進み、どんな切り替えが必要か自身で適切に把握できると今までの経験を棚卸し、取捨選択することができるようになります。この棚卸のプロセスはアンラーニング(学習棄却)と呼ばれ、できそうでできない難しい課題とされています。
 アンラーニングという言葉から、皆さんはどんな印象を受けるでしょうか?自分が今まで積み上げてきた経験を全て捨てなくてはいけないのだろうか、今までのやり方を二度と活かしてはいけないのだろうか。そんな印象を受けてしまうと、不安感が高まってしまうかもしれません。不安感が高まると、新しい行動を避け現状維持を貫こうとするという悪循環に陥ることはご説明した通りです。
 確かに「棄却」という言葉からは「捨てる」といった意味を連想してしまいそうですが、アンラーニングとは、学習によって得られた自身の価値観やスキルを客観的に認識することで取捨選択し、不足している新たな考え方やスキルを習得する、という学びの修正を意味します。つまり、自分がもっている価値観やスキルの中で現状に合わないと判断したものは、一旦使用を停止し、成長や進化のために新しいことを学び、自身をアップデートさせることがアンラーニングです。
 現状の自分の立ち位置をよく把握し、今までの経験から使えるものと使えないものを判断し、使えるものは手を変え品を変え使い続け、使えないものは記憶の片隅にしまっておく。そしてまた切り替えが必要な時に再度見直す。アンラーニングは、自分自身で自分自身を客観的にみつめ、自分に備わっているものとそうでないものを考察することができないと上手くいきません。アンラーニングを上手く進めるうえで重要になるのがメタ認知だと言えます。

メタ認知とは、自己の認知に対する認知的なプロセスや、認知に関する知識を表します。メタ認知には認識的側面と活動的側面があるとされます。

・認識的側面:自身の認知行動を把握することができる能力
「知識を監視する」「知ることについて知る」「認知についての認知」
「自身の理解についての理解」

・活動的側面:自身の状態を把握し、自身の行動へと反映・修正させていく活動
「メタ認知的モニタリング」「メタ認知的コントロール」

出典:心理学用語の学習 https://psychologist.x0.com/terms/116.html

・メタ認知に必要な「対話」

 でも皆さん思い返してみてください。感情に囚われているとき、自分自身を客観的に「メタ認知」できたことありますでしょうか?このNoteを読んでくださっている方の中にも、そんなこと、やれるんだったらとっくにやってるさ、と思われた方もいらっしゃるのではないでしょうか。自分自身を客観的に捉えることって、実はとても難しい。では、どうしたらよいか?
 私は、感情の囚われから抜け出し、自分自身を客観的に見直すメタ認知を進めるために必要なことは、「対話」ではないかと考えています。対話は、聞き手側が自身の価値判断をできるだけ排除し、話し手のありのままを受け入れるように聴くことで成立します。こうすることで話し手は、この人には自分のありのままを受け入れてもらえると感じることができ、心理的安全性が高まり、不安を大きく軽減することができるとされています。すると不安にとらわれていた脳に、思考をもたらす余裕ができるようになります。
 対話により安心することで、自分がなぜ不安にとらわれていたのか認知し、更に、そんな自分はどんな行動を起こすべきなのか、メタ認知をすることができ、思考が深まります。経験値の高い中高年にとって、アンラーニングはハードルの高い課題ですが、「対話」による「メタ認知」がそのハードルを下げてくれる可能性があるんです。

・私の対話体験とアンラーニング

 最後に、なぜこのような話題を今回持ち出したのかということに触れたいと思います。実は月に一度の、このVCラボのミーティング自体が、心理支援専門家が巧みに織りなす対話スタイルで行われているからです。
 専門家のメンバーが、企業人事19年+心理支援勉強中の私の意見を真摯に聴いて下さり、重なる部分を言語化してフィードバックしてくれる。それがあって初めて、今ここで求められている立ち位置を認識することができ、自分自身に備わっているもの、足りないものを踏まえたうえで、じゃあどうしよう?ということをメタ認知することができる。もし聞き手の価値判断や否定のニュアンスを大いに含んだフィードバックを受けていたら、不安が高まり、成長するための変化を拒んで、脳が安全だと判断した企業人事としての考え方を頑なに主張し続けてしまっていたでしょう。そして、私の心理支援専門職を目指す研究員としてのアンラーニングは行き詰まり、新たなキャリアの扉を自ら閉じることになっていたかもしれない。
 そう考えると、毎回会議での対話体験が、私の切り替えスイッチを押してくれ、これからの心理支援専門職としての成長を後押ししてくれているように思い、心にじんわり温かなものを感じるのです。

特別研究員プロフィール
黒木 貴美子  (クロキ キミコ) 
ビジョン・クラフティング研究所 特別研究員
某大学院にて臨床心理学勉強中
精神保健福祉士