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so.

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「so.(エスオー)」は、女子高のとあるクラスの一日の間に起こる出来事を、様々な時間、それぞれの視点から綴る群像劇です。
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2017年7月の記事一覧

【so.】三条 宗雄[昼休み]

【so.】三条 宗雄[昼休み]

 確かに何かが衝突したような強い音と、その後に響いた女子の悲鳴。昼休みに入ってすぐの気の緩みなど微塵も許してはくれない事態らしい。どうも渡り廊下の方から聞こえてきたようで、走り出すと埋田と栗原が渡り廊下から校舎へ入ってきたのが見えた。

「埋田! 栗原! 教室に戻ってろ!」

 そう叫びながら渡り廊下へと飛び出すと、岡崎がカメラを片手に写真を撮りまくっているのが目に入った。

「おいっ! 教室に戻

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【so.】伊村 正乃[昼休み]

【so.】伊村 正乃[昼休み]

 いつまでも尻餅をついたままでは情けない。僕はすぐに立ち上がると落下した人体模型に近づいた。何人か近づいてくるかと思ったけれど僕以外には誰も動くものはない。

「人じゃない!」

 制服を着て上半身だけになった人体模型を観察しながら、僕は周囲に聞かせるように大きな声で言ってやった。それでやっと近づいてきたのはただひとり、委員長。

「みんな安心して、これは人体模型です」

 その言葉に安心したのか

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【so.】細田 直己[昼休み]

【so.】細田 直己[昼休み]

 ヨシミが駆けていったので少し距離を取りながら渡り廊下へ出ると、選択授業を終えて戻ってきたらしい面々が軒並み立ち尽くしていた。どうも誰かが自殺したらしい。

「人じゃない!」

「みんな安心して、これは人体模型です」

 伊村と委員長の安全宣言が出て、落ちた正体は制服を着せた人体模型なんだと分かった。誰の仕業だろう。いい趣味をしているなと思った。それでもヨシミからまた問い詰められては敵わないので、

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【so.】田口 吉美[昼休み]

【so.】田口 吉美[昼休み]

 渡り廊下へ出たら大勢が固まっていた。みんなの視線の先に何かが落ちていて、それを伊村が確認している。

「人じゃない!」

 伊村の叫びを受けて、委員長もそこへ近づいていった。

「みんな安心して、これは人体模型です」

 事故なのか? 何なのか? いまいちよく分からないけれど、ふつうは人体模型には制服を着せないはずだ。つまり意図的に落としたのだろうと思えて、率直に怒りを覚えた。動き出した騒ぎの輪

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【so.】福岡 則子[昼休み]

【so.】福岡 則子[昼休み]

「何だよ今の音」

 保健室のある教室棟へ入ろうとつだまるの右手を引っ張りながら渡り廊下へ歩いていくと、うちのクラスのやつらが立ち尽くしていた。辺りには何か部品じみたものが散らばっている。

「人じゃない!」

 伊村が声を上げて、委員長がそこへ近づいていった。

「みんな安心して、これは人体模型です」

 どうやら人体模型が落っこちてきたみたいだとやっと理解した。自殺かと思って誰かが悲鳴を上げて

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【so.】新藤 五月[昼休み]

【so.】新藤 五月[昼休み]

 渡り廊下へ墜落したのが人体だったら、まともに見たらこの後ソーセージドッグを食べられなくなるかもしれないと思った。肉とケチャップからあらぬ想像を掻き立てられそうだからだ。もしやハセベのパンのおばちゃんに恨みを持つパン屋による嫌がらせじゃないのか。4時間目まで考え抜いた今日最高の打線の1番バッターを汚すなんて絶対に許せない。ハセベのおばちゃんのためにも別のパン屋に浮気することは控えようと心に誓う。で

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【so.】栗原 信子[昼休み]

【so.】栗原 信子[昼休み]

 たまき、やったねって、少しだけ痛快な気持ちがした。凍りついているこの空間を見せてあげたいなと思った。

「みんな安心して、これは人体模型です」

 委員長が検死報告みたいに言って、誰かの自殺じゃないって分かると、途端にみんなの緊張が和らいだような感じがした。

「悪趣味ですよね」

 荘司さんが呟いた。

「人体模型が?」

 たまきの計画に乗ったわたしまで批判されたような気がして、ちょっとカチ

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【so.】埋田 寿惠[昼休み]

【so.】埋田 寿惠[昼休み]

 たまきの意思を汲むなら、何も知らなかった体でわたしも中庭にいたほうがいい。そう気づくと、慌てて教室を飛び出て、階段を駆け下りて渡り廊下へ飛び出した。委員長が地面に散らばっている残骸を確認して、それが人体模型だとみんなに説明している所だった。たまきの急な思いつきとはいえ、栗原さんまで巻き込んで起こした事件が、あっという間に消費されているのを目の当たりにして、儚いなと思うと涙が出てきた。もう、涙もろ

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【so.】神保 昌世[昼休み]

【so.】神保 昌世[昼休み]

 凍りついた時間を動かせたのは、真っ先に中庭へ墜落した何かへ近づいていった伊村さんだった。

「人じゃない!」

 その叫びで、委員長も伊村さんの側へ近づいていって確認すると、みんなに言い聞かせるように大きな声で言った。

「みんな安心して、これは人体模型です」

 みんなの安堵のため息が聞こえるような気がしたけれど、私は胸がどきどきして動くことが出来ない。無意識に、それまで並んで歩いていたカネッ

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【so.】和泉 美兼[昼休み]

【so.】和泉 美兼[昼休み]

「人じゃない!」

 中庭に墜落した何物かへ真っ先に駆け寄った伊村が叫んで、次に委員長の安全確認も終わった。

「みんな安心して、これは人体模型です」

 はっ、人体模型かよ。年末のことがあって未だピリピリしたムードの中、悪趣味な事をするやつがいるもんだなと思った。とりあえずの野次馬根性で近づこうかなと思ったら、わたしの左手を誰かが強く握ってきた。振り向けば、さっきまで一緒にデッサンを見せ合いなが

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