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【so.】福岡 則子[昼休み]

「何だよ今の音」

 保健室のある教室棟へ入ろうとつだまるの右手を引っ張りながら渡り廊下へ歩いていくと、うちのクラスのやつらが立ち尽くしていた。辺りには何か部品じみたものが散らばっている。

「人じゃない!」

 伊村が声を上げて、委員長がそこへ近づいていった。

「みんな安心して、これは人体模型です」

 どうやら人体模型が落っこちてきたみたいだとやっと理解した。自殺かと思って誰かが悲鳴を上げて、でも落ちてきたのは制服を着た人体模型だったってオチか。あたしはつだまるの手を離して現場へ近づいていった。

「ホントだ。気持ちわりー」

 和泉が人体模型を蹴ったりしている。

「どこ行ってた? サボり?」

 ヨシミが声をかけてきたので、質問には答えず聞き返した。

「何が起きたわけ?」

「ワタシもいま来たから。人体模型が落ちてきたんでしょ」

「わざと?」

「知らないよ。人体模型って制服着てんの?」

「あー。わざとか」

 誰がこんな酷い嫌がらせしたんだろうか。

「おいっ! 教室に戻れ!」

 叫びながら三条が走ってきたから、やれやれと思いながら教室へと歩き出した。

「これさー、体育館に呼び出されるんじゃね?」

 ヨシミが言う。

「全校集会?」

「聖オモンパカールじゃん」

「あり得る」


 まったくヨシミの予想通りに、教室へ戻って少ししたら校内放送が入り、体育館へ全校生徒が移動するよう言われた。また長い集会になるかもしれない。お腹が空いたからパン買いに行きたいんだけどな。この展開、新藤とかキレるんじゃないだろうか。そんなことを考えながら歩いていると、大和が話しかけてきた。

山浦がいなくなってない?」

 それで見回してみたけれど確かに体育館へ向かう行列の中に山浦の姿は見当たらない。

「アイツが犯人?」

「えー、わかんないけど」

 それっきり大和は何も言わなかったけれど、体育館へ着いてクソ寒い床に座らされてから、あたしは今日、山浦がいたかどうかを思い返してみた。山浦は、サトミ繋がりでヨシミとも話していた奴だから接点はあったけれど、たぶんお互いにあまり好いてはいない関係性だと思う。だからあまり意識していないというか、今日あいつがどの授業に出ていたかとか、全然興味がない。それでも、体育の授業にいなかったのは覚えていた。

「…その日の終業式に於いてわたくしは「命のありがたみを知る」という内容のお話をいたしました」

 あ? ああ、年末のことか。かれこれ10分以上、聖オモンパカールこと校長先生は話し続けている気がするけれど、誰がまともにあの話を聞いているんだろう。

「生徒数の少ない本校に於いて、生徒ひとりひとりが朋友であり、姉妹のような関係であってほしいと常々わたくしは望んでおりました」

 ヨシミと姉妹とか、無理だろと思った。山浦とか。サトミと仲が良かったのは知ってるけど、サトミは年末に突然自殺したし、自殺はヘアピン無くしたのが理由かと思ったら、面談で三条はヘアピン無くしてなかったとか言うし、いよいよ意味が分からない。別にいじめがあったわけじゃない。だから尚更「なんなんだよ」ってウンザリ感だけを抱えて年を越して今に至るんだ。その上、人体模型の自殺ってか。この挑発的な出来事は本当に山浦の仕業なのかもしれない気がしてきた。


「ヨシミさあ、4時間目、山浦っていた?」

 集会が終わって再び教室へ向かう羽目になった途中、大和がヨシミに尋ねた。あたしは美術の時間をバックレたので、山浦がいたか興味あった。アイツがいなかったなら、決まったようなもんじゃないか。ヨシミは笑って言った。

「いなかった」

「やっぱり」

 それを聞いて、あたしは前をボンヤリ歩いているつだまるの背中に声をかけた。

「山浦でしょ? 犯人」

「マジで?」

「いないじゃん、アイツ」

 近くを歩いていたヨシミがそれを聞いて、振り向いて言った。

「ホントに死ねば良かったのにねー」

 一瞬で場が凍りついて、それはすぐに意外な人物によって破られた。

「アンタが死ねば良かったよ」

 近寄ってきた埋田がヨシミの頬を張って、そのまま去っていった。

「それはないわ。見損なったわ」

 あたしもさすがにヨシミを擁護はできなくて、そう口にすると歩き出した。つだまるがついてくる。その後にさらに誰かついてきたみたいだけれどいちいち振り向く気も起こらない。
 少し先の方を歩いていた和泉がこちらを向いて立っていて、近づいていくとあたしに尋ねてきた。

「何があったん?」

 あたしもつだまるも答えずに歩いて行く。大和の声がして、ついてきたのが誰だかわかった。ホント分かり易い女だな。

「サエさんがね、ヨシミにビンタしたの」

「はぁ? なんで? それになんでアンタらが逃げてくるわけ?」

 いちいち説明させんなよ。その場にいろよ。めんどくせーな。そう思ってあたしも、きっとつだまるも黙っている。

「のりんとヨシミってさー、1年の時はそこまで仲悪くなかったよねえ?」

 あたしの中にぼんやりとあった思いを、的確に和泉が指摘して、あたしは驚いて顔を上げた。目が合うと、和泉はさらに言葉をかけてきた。

「ヨシミと、何かあったん?」

 そうだ、確かにそうなんだ。高1の時は今ほどヨシミと仲が悪かった覚えはなくて、和泉と3人でよくつるんでいたのだ。明確にケンカとか、事件があったわけじゃない。考えてみても、あたしには答えがなかった。

「思いつかないんだよねぇ」

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