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確かに仕入れてお湯を入れるだけだけど
その青春は僕の思いつきから始まった。
「カップ麺、やろうや」
高校3年の、ある日のホームルーム。
文化祭のクラス模擬店を何にするかの話し合いが行われていた。
が、なかなか決まらなかったので、提案してみたのだ。
「は? 何?」
僕としてはなかなかの妙案だったのに、クラスからは疑問符だらけ。
「どういうこと?」
「いや、だからカップ麺仕入れて、お湯入れて売るねんて」
それ以外に何がある。
お湯も入れずそのまま売ったら、単なる商店ではないか。
いや、もちろんクラスの皆もそんなことは百も承知で、ホンマにそんな模擬店やるん? という疑問符だったのだろうけど。
結局、対案も出ず、カップ麺屋に決まった。
しかしクラスのボルテージは下がり気味。
なんかおもんない、仕入れてお湯入れるだけとか青春ちゃう! みたいな。
言い出しっぺの僕ですら、おもしろくする要素はなさそうに見えた。
カップ麺は味も分量も決まっているから工夫の余地がないのだ。
であれば、売ることを楽しめるようにするしかない。
注文が止まらない状態をクラス中が実感できれば一体感は作れる。
そしてきっと、青春になる。
周りの人に、どんなカップ麺がいくらなら食べるか訊いて回った。
カップ麺の仕入れはもちろんのこと、コンロとヤカンの調達にも奔走した。
お湯さえ切らさなければ、どれほど混んでも3分で出せるはずだ。
成果を出すための準備、出た成果の共有。
おそらくそれはマーケティングの初歩なんだろうけど、この経験は10年後に携わった村おこしに大いに役立つことになる。
そして迎えた文化祭当日。
3年8組の教室は文字どおり即席ラーメン屋に模様替え。
たぶん300円くらいに設定したと思うが、店は大盛況。
着席して商品を選び、3分待てばラーメンが出てくるのだから、売れる。
焼きそば400円などの同業他クラスと比べ、安くて早くて味の失敗もない。
飛ぶように売れ、在庫がすぐピンチ。
これが売り切れたら閉店?
いや、つまらないと言っていたクラスの皆の表情が、売れに売れて楽しいに変わっているのを見るとこれで終わりになどできない。
あと一押し!
数名で手分けして、近くの小さなスーパーや酒屋、駄菓子屋まで出かけて手に入るカップ麺を根こそぎ買い漁り、走って学校に戻る。
それらもどんどん売れて、次は電車で隣駅まで行って仕入れ、さらにまた売れ…夕方ようやく皆でふうっと息をついた。
長い一日が終わった。
確かに仕入れてお湯を入れるだけだけど、クラスの皆で共同作業をやり遂げた感はピカイチ。
それは皆の表情を見ても分かった。
後列右に突っ立つ僕は、誰よりも青い出で立ち。
懐かしい青い春のひとコマ。
(2022/7/19記)
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