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次代の未来に繋ぐ責務が大人にはある

前職では、中学生や高校生を前にして講演することが度々あった。

当時、商品開発を軸とした村おこしをおこなっていたが、教育委員会や校長からの依頼となると、話す内容は営業的なものではない。
地域の誇り、自分の役割、使命、大切にすべきもの、興味、関心。
話したのはだいたいそんなところだ。

横文字で言えば、ブランディングということになるのかもしれない。
地域のブランディング、自らのブランディング。

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ある過疎の地域の中学校では、講演前に校長から、地域のためにがんばれと子供たちには言わないでほしいと言われ、唖然とした。

子供たちの可能性を狭めたくない、ここにしか選択肢がないという狭い視野を持たせたくないという校長の考えは分かる。
が、子供たちはその過疎の地に生まれ、暮らし、育ってきた当事者だ。
自分たちのルーツであるその地域に対する問題意識は、仕事でふらりと赴任しただけの校長よりよほど高いに違いない。

もちろん地域から一歩も出るななどという了見の狭い話ではない。
勉強のため、力を蓄えるために、むしろ積極的に外に出るべきだ。
自分を知るためには、外から自分を見ることほど重要なことはない。
客観的に地域を見つめ、そのうえで帰る、帰らないはそれぞれの思うところで決めればいい。
少なくとも、将来、地域に関わる道もあることだけは、その地にいるうちに子供たちに伝える必要がある。

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講演は午後が多かったから、初めはだるそうな生徒の方が多い。
しかし大半の生徒は、話の中ほどから顔をもたげ、視線を向けてくる。
講演の終盤には、多くの生徒の目の色が変わり、こちらの言葉を強い力で心に吸い込んでいることが伝わってくる。
中学生、高校生は本当に学びたがっているのだと思う。

耳を傾けてくれたうちいったい何人が、話した内容をこの先も心に留めてくれるかは正直分からない。
でも、未知のものを吸収しようとする真剣な目は、大人がすでになくしてしまった尊いもののように思えた。

学びたい子供がいる限り、大人はきちんと向き合わなければならない。
成功者となって社会にどんな足跡を残すかなどちっぽけなことだ。
自分が自分が、ではなく、次代の未来に繋ぐ責務が大人にはある。

(2021/10/25記)

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