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昼酒場〈京極スタンド〉に充満する空気は、昭和のホンモノの香り

レトロ居酒屋は数あれど、多くはレトロ調に造作してみました系。
あとは、ワケあって移転したけど昔の佇まいを再現しました系。
日本三大酒場といわれる大阪阿倍野の〈明治屋〉などはこの再現系だ。
いずれにしても、後世造られた点でホンモノとは言いがたい。

しかしこの〈京極スタンド〉は違う。
関東大震災で浅草から京都に移り住んだ初代が、京極の地で昭和2年創業。

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大正築という建物も店内も、すべてが往時のまま。
昼から飲めるとあって、老若男女が罪悪感に苛まれず豪快に飲む。

画像6©京極スタンド公式

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京極とは文字どおり「京の極み」、つまり端っこだ。
平安京の西の端が西京極(にしきょうごく)大路、東の端が東京極(ひがしきょうごく)大路。
〈京極スタンド〉が面している寺町通が実は旧の東京極大路で、秀吉が寺を集中させてから寺町通と呼ばれるようになった。
今は京都の街のど真ん中のこの地も、平安京では東の端だったのだ。

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イカゲソは文句なしのプリプリ。

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一番人気というコロッケは、昼過ぎにはもうないことが多い。

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ん? 右上になにやらカラフルで楽しそうな伝票が写っている。

昔のまんまの会計伝票だ。
係の名は有名なオーナーの名だから消さずに残した。

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料理は上に、飲み物は下につけていくようになっていて、注文の都度スーッと赤鉛筆で金額が加算される。
たとえばここで「もろ瓜470円」と「生中550円」を頼むと、きっと青線で書き込んだようなチェックが入るのだろうと勝手に想像。

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なんだかとても楽しい。
「もろきゅう」ではなく「もろ瓜」なのも楽しい。

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一般に、老舗には長年培われてきたその店のルールがある。
たとえば注文の仕方とか、会計の仕方、店内撮影の可否、タバコの作法、果ては食べる順番まで、店によっていろいろある。
で、その暗黙のルールを踏み外すと、たとえ知らなかったからとはいえ、店員や他の客から厳しい目を向けられることも、たまにある。

この〈京極スタンド〉でも会計時に少し注意されたことがある。
うわ厳しいと思わないでもなかったが、ずっと100年やってきたという店の風格に、こちらも従わなければと納得もする。
以前紹介した〈進々堂 京大北門前〉も店内撮影禁止だけど、店の歴史を思えばそんなルールも堅苦しくはない。

冒頭で紹介した大阪の居酒屋は老舗といえど、店は最新ショッピングモール内に再現された、いわばニセモノ。
ここも店内撮影禁止で、カメラを取り出すだけでも店員が飛んできて威丈高に叱責されるが、何を偉そうにとしか思えない。
そこがホンモノとニセモノの違いだと心から思うのである。

昼酒場〈京極スタンド〉に充満する空気は、昭和のホンモノの香り。

(2021/10/22記)

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