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周囲を痺れさせるイカした婆さんだったのかもしれない

麻婆豆腐を外で食べるとすれば、ここしかないと思う店がある。
横浜の〈景徳鎮〉だ。

昔、東京で勤めていたとき、同僚とどこかの観劇に出かけたあとで、横浜に住む上司が晩ごはんにぜひと勧めるので中華街まで足を伸ばすことに。
みなとみらい線はまだなく、石川町からとぼとぼ歩いて向かった。
それが四川料理〈景徳鎮〉との出会いだった。

四川料理の店というのはわざわざ中華街を探さずとも、あちこちにある。
とはいえ、四川といっても看板だけ? と疑いたい店も多い。
それほどまでに「四川」は中華を想起させる便利なワードなのだろう。
「丸亀」を冠したセルフうどん屋が、実は神戸の焼鳥屋の運営なのに似る。
でもこの〈景徳鎮〉は心配ご無用、無愛想な店員も含めて本格四川だ。

これまでに何度足を運んだかしれない。
満席や臨時休業でやむなく近くの別の四川料理の店を訪れてガッカリしたことも何度かあるほど。

そんな〈景徳鎮〉を代表する麻婆豆腐はこれ。
メニュー名は「四川マーボー豆腐(本場の辛さ)」。

あ、赤い…真っ赤。
見ただけで胃が痛くなる方もいるだろう。
花椒でビリビリに痺れ、唐辛子、辣油の辛さで息を呑む。
麻婆豆腐が好き、という方も要注意の激辛だ。

麻薬や麻酔という語から分かるように、「麻」は中国語で「痺れる」の意。
でも、なるほど花椒で痺れるから「麻婆」なのか、というのは早合点だ。
このメニューの考案者が顔にあばた(=麻)のある婆さんだったから、というのが正解だからややこしい。
案外、周囲を痺れさせるイカした婆さんだったのかもしれない。

うまい店に共通して言えることだが、この〈景徳鎮〉もただ痺れるとか、ただ辛いとかではなく、きちんと旨み、そして鹹みを感じられる。

〈景徳鎮〉には「マーボー豆腐(普通の辛さ)」という別メニューもある。
食べたことはないが、自信がない場合や体調が思わしくない場合、翌朝トイレで悶えたくない場合はどうかこちらを。
これでもふつうに辛いらしいけど。

自分で作る時は、とくに四川にはこだわらないので、唐辛子や辣油はほどほどにするが、花椒はたっぷり入れる。
周囲を痺れさせるイカした爺さんを目指している。

(2021/8/25記)

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