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創作に対する真剣なまなざし

昨日、新開地に出かけた。
かつて「ええとこ、ええとこ、新開地」と謳われ、天下の大衆芸能を東の浅草とともに二分したあの新開地だ。

神戸の繁華街が三宮に移り、また娯楽の変化もあいまって、中心だった新開地は今は見る影もない。
ただ、朝からハシゴ酒を楽しむには絶好のエリアであり、B面の神戸としてさかんにPRもされている。
昨年の〈ぐるめぐる神戸〉でもここをみんなでふらっと飲み歩いた。

2年ほど前に知り合い、ここしばらくいろいろとやり取りをさせていただいている方から、少し会いませんか?と話があったのは6月頃だったか。
遠方の方だが、8月なら神戸で時間が作れるかもしれないからと。
オンラインではお会いしたことがあるが、リアルではまだ一度もお会いしたことがなかったので、僕はぜひ!と即答した。

仮にその方を森さん(仮名)としておこう。

森さんはあまり長居はできないそうで、なら三宮あたりで適当にランチを済ますしかないかと思ったが、それはあまりにもったいない。
ふと、森さんの記憶に残る店であり、僕が森さんと知り合うきっかけにもなった店を思い出し、行ってみることにした。

それが新開地の名店〈グリル一平〉だ。

僕は元町店や三宮店は行ったことがあるが、この新開地本店はない。
森さんもこの本店は初めてとのことで、互いにテンションが上がる。

新開地の駅で待ち合わせだったので、その5分前に店頭を確認しに行った。
めちゃくちゃ並ぶ店なのでちょっと恐れをなしながら。
すると開店20分前の時点で人っ子一人並んでいない。
なんや楽勝やん…

駅の改札で森さんと初めましての挨拶を交わし、店に向かう。
駅に来る前にちょっと見に行ったら誰も並んでなくて拍子抜けしたんです、などと言いながら店に戻ると…

オーマイガー!
わずか10分ほどの間に20名以上が並んでいた…
どこから湧いてきてんあんたら!と心折れそうに思いながら、自分たちもその湧いた2人なのだと心を落ち着かせた。
でも店内は思ったより広く、1巡目で入れたからノープロブレム。

〈グリル一平〉、昭和27年創業。
洋食の町・神戸で、おそらく五指に入るであろう超人気店だ。
仕込みに6日間を要するというデミグラスを食べない手はない。
震災まではもう少し黒光りするビターなデミグラスだったそうだが、時代の変化に合わせてややマイルドになったそうだ。
支店の元町店や三宮店はさらにもっとマイルド化しているそうで、ここ本店のものがもっとも創業時の味わいを残しているのだとか。

僕はそのデミグラスを心ゆくまで堪能できる〈ビーフカツレツ・オールドスタイル〉をオーダー。
「硬い肉を叩いて叩いてペラッペラに伸ばした昔ながらのカツレツですけどいいですか?」と確認が入る。
京都系の分厚いビフカツが人気の今、きっとこの昔のビフカツを食べてイチャモンつける輩がいるのだろうと推察。

開店と同時に一気に満席になった店は、厨房が戦争状態に。
サービススタッフもてんてこ舞いのはずだが、さすが毎日のことだけあって涼しい顔でこなす姿に惚れ惚れする。

10分ほど待って出てきたビーフカツレツがこれだ。
いやぁん、もうめっちゃうまそうなんやけど。

こんな反則級にうまいビフカツは初めてだ。
何かの本で「薄い肉でソースを食べてもらう」という店主の詞は見かけたことがあるが、まさにそう、デミグラスのうまさが際立っている。

涙を流しながらゆっくり食べるべきうまさだったが、気づいたら5分ほどですっかり平らげてしまっていた。
後続の長蛇の列を思い、店をあとにする。
ちなみに森さんの頼んだハンバーグも極上にうまそうだった。

お茶でもしますかと案内したのは、〈ぐるめぐる〉でも行った神戸で現存する最古の喫茶店〈エデン〉…休業。
盆休みかなと思い、扉に掲げられた貼り紙を見てわが目を疑った。
「当分休みます。換金するのでお申し出ください」
換金とはおそらくコーヒーチケットのことだろう。
体調を崩されたのだろうか、このまま閉店になってしまう予感さえ孕んだ貼り紙に強い衝撃を受ける。
ムリのない範囲で復活いただけると嬉しいのだけど。

代わって訪れたのが〈コーヒの店 アキラ〉。

喫煙OKの黄ばんだ内装の、これも昔ながらの喫茶店。
新開地には昔ながらがあふれている。
タバコのニオイは嫌いだが、それでも入ろうと思わせる魅力がある。
新開地中の店に出前でコーヒーを届けるオアシス的存在だ。

クリームソーダを頼む森さん、かわいい。
この水色は想像していなかったが。

渇いた身体に冷たいドリンクが染みわたる…うまい…うますぎる…

森さんとは「創作」について深い話を交わした。
森さんはnoteについてもよくご存じで、noteだからこそできること、あるいは逆にnoteの限界についても盛り上がる。

とても考え方が似ていることが嬉しかったが、森さんは僕の一歩も二歩も先を歩かれている。
僕も自身の創作にふさわしい場を追い求めなければな。

森さんが時折見せる、創作に対する真剣なまなざしに僕はしびれた。

(2024/8/13記)

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