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京都・三条寺町、大人の四つ辻

この正月、家族ですき焼きを囲んだという人も多いはず。
豪勢なすき焼きは正月がもっとも似合う、と個人的に思う。

しかし同時に、すき焼きの味つけ、調理方法でもめた家族も多いはずだ。
割り下を使うの使わないの、煮るの焼くの――
地方によって調理法や食べ方に違いのあるものは多いが、すき焼きはその代表格として語られることが多い。

諸説あるが、すき焼きは長崎あるいは関西で発祥したとされる。
その名のとおり鉄板焼きに近い焼きものであり、醤油または割り下の量は多くなく、具材は煮るのではなく焼く。
一方、関東では、牛鍋と呼ばれる料理に関西のすき焼きが融合し発展した。
こちらもその名のとおり鍋の一種で、割り下に浸かった状態で煮る。

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京都・寺町三条に老舗のすき焼き店がある。
泣く子も黙る〈三嶋亭〉だ。
明治6年、創業。

寺町通、三条通が交差する南東の角に、往時の佇まい。
店構えも内装も多くが明治のままというから恐れいる。

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風格ある店内に圧倒されつつ席に着く。
すき焼きはいろんな流儀があってややこしいが、仲居さんがすべてを取り仕切ってくれるので、失敗することなく安心。

砂糖をちりばめた鉄鍋に極上の肉を広げる。

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続いて割り下をうっすらとかける。
関西では割り下ではなく醤油を使うことが多いが、京都は割り下だ。

あっという間に焼き上がり、まずはどうぞ、と勧められる。

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と、とろける…
霜降りの黒毛和牛はかく食すべし、がすき焼きだ。

初めの肉から出た肉汁と脂で、野菜、豆腐、次の肉を焼く。

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もう泣けるほどに旨い。
お値段も極上だが、この味を知ればそれも納得だ。

割り下だ醤油だ、煮るの焼くの、不毛な争いはもうやめにしよう。
その地その味を楽しめれば、それでいい。

一本の路地を挟んで南隣の老舗〈サンボアバー〉。
〈三嶋亭〉の余韻を引っ提げて訪ねるのにふさわしいバーだ。

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〈サンボア〉は大正7年神戸に産声をあげ、暖簾分けで京都や大阪、近年では東京にも店舗を広げ、神戸のカクテル、ハイボールを受け継いできた。

一人で扉を開けるのに勇気はいるが、ウイスキーの味わいは格別。
長らく行ってないが、ここに来ればいつも竹鶴12年の水割りと明治屋の缶詰ウインナーを楽しむ。

カウンターに触れるのはご法度(肘をつくなら手前の手すりに)だったり、お通しのピーナッツの殻は床に捨てなければならないなど、いくつか掟があるものの、そこさえ外さなければ楽しい夜を過ごせる。

京都・三条寺町、大人の四つ辻。

(2022/1/6記)

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