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伏見の酒を傾けながら心ゆくまで京のすしを楽しむのがよい

東西のちらしずしの違いはかなり大きい。

関西のちらしずしは、味つけした具材をすしめしの上に散らしたもの。
おそらく全国的にこの手のちらしずしが多いはずだ。
載っているのは錦糸卵、でんぶ、味つけシイタケくらいで、よくてボイルしたペラペラのエビが1枚あるかないか。

対して関東のちらしずしは、にぎりずしのネタが豪勢にボンボンと載る。
醤油の入った小皿もついてきて、え? ちらしずしに醤油?
ネタだけ醤油にチョンとつけて、すしめしの上に戻して食べる? 
この小皿の醤油をちらしずしの上から回しかける?
新卒で東京に就職してたまげた東の習俗は数多いが、その中で一二を争うのがこのちらしずしだった。
そして実は、いまだに関東のちらしずしの正しい食べ方を分かっていない。

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「蒸しずし」をご存じだろうか。

蒸しずしとは、ちらしずしを蒸したもので、当然ながら温かい。
関西発祥ゆえ、蒸すのはもちろん関西のちらしずしだ。
関東のちらしずしを蒸したら、蒸し魚 on すしめしになってしまう。

京は新京極、四条から上がってすぐに〈寿し 乙羽〉がある。
明治35年創業というから、もうかれこれ120年にもなる老舗だ。

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ロンドン焼(かすてら饅頭)の〈ロンドンや〉の1軒北隣。
カッチャンカッチャン、ロンドン焼を焼き上げる全自動機械の音が響く。

この〈乙羽〉で極上の蒸し寿司に出会える。

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熱々の丼は容易に手出しができないほど。
丼の蓋を開けると一瞬ほわっと湯気が立ち、一面に広がる黄金色の錦糸卵。
その下には、蒸しアナゴ、シイタケなどが潜んでいる。

触れないほど熱い丼だから、もちろんすしも熱々。
そのつもりがなくても、自然とハフハフしながら食べることになる。
酢が適度に飛んでまろやか、文句なしのうまさだ。

この〈乙羽〉、蒸しずし専門店というわけではない。
むしろ蒸しずしは秋冬しか食べられないレアメニュー。

その昔、平安の都では若狭(福井県)から鯖街道を通って運ばれたサバが珍重され、鯖ずしは京の名物として花開いた。
だからこの〈乙羽〉でも鯖ずしを食べるのがいい。
…いいのだが、明石で育ったためにアナゴに目がなく、頼んだのはこれ。

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うまい、うますぎる。
アナゴはにぎりだとなんでやねんと思うほど長いネタになり、シャリの上にまるで天秤竿のごとく載っかるが、僕にはあれは下品にしか見えない。
そして崩れるようにホロホロに煮られたアナゴもいただけない。
アナゴはやはりしっかりきっちりの押しずしでなければと思う。

押しずし、にぎりずし、巻きずしの三つ巴、そして蒸しずし。
見本市のように豊かなバリエーションのこの店で、伏見の酒を傾けながら心ゆくまで京のすしを楽しむのがよい。

(2022/7/3記)

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