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道行くすべての人に、ありがとうを言いたい

最後にまた触れますが、昨日の病理診断は「良性」でした。

「ありがとう。とてもおいしかった」
気がつけば口からそんな言葉が漏れ出ていた。
「ありがとうございます」
カウンター越しに、かわいらしいスタッフが笑顔をくれる。
ベレー帽から横に流した茶色の前髪がきれい。
ほんのりピンクの目元のメイクはまさに春だ。
何か感じるものがあったのか、彼女は視線を外さない。

「2週間前に手術をしたんです」
「え…」
「で、カフェインはよくないって止められてたんです」
彼女は、息を呑むように僕の空いたカップに目を落とす。
飲んでよかったんですか?と戸惑いの表情だ。

「それが今日病院に行ったら、もう大丈夫って」
たちまち彼女の表情に安堵の色が広がる。
「それで嬉しくなって、コーヒー飲みに来ました」
「ありがとうございます」

神戸の老舗《神戸珈琲物語》だ。

昨日の朝、AJさんからコメントをいただいていた。
コーヒーが解禁になったら「神戸っ子は宮水コーヒー飲まんとね」と。
宮水コーヒーとは、さらに老舗の《にしむら珈琲》の看板商品のことで、灘の銘酒を生む「宮水」で淹れた極上のコーヒーだ。
そうだそうだ、そうしようと思っていた。

が、同じく昨日、《神戸珈琲物語》公式さんからフォローをいただいた。
僕はこの絶妙なタイミングに勝手に祝意を感じ、AJさんに申し訳ないと思いつつ、解禁の1杯を《神戸珈琲物語》で飲むことにしたのだ。

「苗字、いっしょです」
「そうなんですか?」
コーヒーを注いでくれたときから、彼女の名札は目に止まっていた。
「多そうな苗字なのに、あまり見かけないから、今日はなんか嬉しくて」
苗字が同じというだけで泣きそうになる。
「ごちそうさま」
「ありがとうございました」

こんなにも温かく優しい気持ちになったのはいつ以来だろう。
道行くすべての人に、ありがとうを言いたい気分。

僕は昨日、コーヒーを飲んでもよくなった。

肝心の病理検査の結果。
診察室に入るなり、先生が開口一番「悪いものではなかった」と。
あぁ…へなへなとなりかけて、すんでのところで診察台を摑んで立った。
「先天的なものがどんどん大きくなったのでしょう。でもあれ以上大きくなっていたら…」
今回の手術がギリギリのタイミングだったことを知る。

まだ生きていていいらしい。
新しい僕の生がまた時を刻み始める。

まだまだ食べることがままならない状況は変わりません。
それでも、生きるために選んだ手術という選択が正しかったのなら、僕はこの先も食べるために生きます。
ふつうのものをふつうに食べられるようになりたい。
なります。

入院以来、多くの方々からいただいた激励のスキやコメントは、僕の生きる力でした。
一生涯、決して忘れることはありません。
本当にありがとうございます。

(2023/4/12記)

サポートなどいただけるとは思っていませんが、万一したくてたまらなくなった場合は遠慮なさらずぜひどうぞ!