前を向いた話を交わすって、やっぱりいいな
11月の初め、突然届いた「ご無沙汰しております」のメール。
差出人を見ると、20年ほど前にお世話になった懐かしい人だ。
20年前、僕は東京の出版社を辞して見知らぬ愛媛の山中に移住し、村おこしの観光施設の起ち上げを手伝っていた。
施設内の菓子工房で地元の無農薬茶を使って和洋菓子を製造し、僕はその販売の責任者だった。
しかし、冬には雪に閉ざされるような山中のこと、正直言って客足は鈍く、商品は作っても売れない状況が開業から2年続いていた。
すがる思いで始めたのがネット通販モール〈ビッダーズ〉(現・au PAY マーケット)での販売だった。
その後の艱難辛苦はいずれ別記事に書こうと思うが、この〈ビッダーズ〉との契約から数年かけて商品は爆発的に売れるようになり、いまだに看板商品は抽選販売となっているし、年間来客2万人と瀕死状態だった施設も25万人が訪れるようになった。
いや、前置きが長くなった。
11月に届いたご無沙汰メールは、2001年に〈ビッダーズ〉と契約したときの担当氏からだった。
実に20年ぶり。
担当氏は何かのきっかけでふと僕を思いだし、まだ愛媛にいると思って電話したそうだが、退職して神戸にいると聞いて僕をググって連絡先を知り、会いませんか?のメールをくれたのだった。
ネットの細い糸をたぐり寄せて探し出してもらえるなんて、こんなに嬉しいことがあるだろうか。
すぐ会いましょう!の勢いだったが、僕の体調不良で延び延びになり、昨晩ようやく実現した。
***
店に向かう前、JR三ノ宮駅に〈みきゃん〉がいた。
みきゃん――愛媛県の公式ゆるキャラだ。
他にも原色が目に眩しい2頭身キャラが駅のコンコースにずらりと並ぶ。
中国・四国9県の観光キャンペーンが三宮で行われていたのだ。
僕はゆるキャラにほとんど心を動かされないが、みきゃんは僕がいた観光施設のイベントにも駆けつけてくれた仲だ。
神奈川の日吉東急で開かれた愛媛フェアにいっしょに行ったこともある。
今から元ビッダーズの担当氏と会うというだけで僕の心は20年前の愛媛に舞い戻っていたのに、さらにその前にみきゃんに会うとは。
***
店に着くと、担当氏はすでにいた。
いやぁ、ホントに久しぶりの懐かしい顔。
担当氏もすでに〈ビッダーズ〉を退職して現在フリーランス。
お互い、勤め先という縛りを離れた自由な立場で、これまでのこと、今の思い、そしてこれからのことを語り合った。
それぞれに重ねた20年のキャリアを披瀝するだけで、あ、それとこれ組み合わせたらおもろいことできるんちゃうん!となる。
前を向いた話を交わすって、やっぱりいいな。
酒が進んだことはいうまでもない。
(2022/12/10記)
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