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文脈から解放されたカオス?【REVIEW】C,XOXO - Camila Cabello

C, XOXO - Camila Cabello (2024)

類似作として ROSALÍA『MOTOMAMI』(2022)、FKA twigs『CAPRISONGS』(2022)、Charli xcx『BRAT』(2024) あたりがまず頭をよぎった、さらにコラージュ的な「自伝的」アルバムという点で Frank Ocean『Blonde』(2016)の延長にもある Camila Cabello の4枚目『C,XOXO』(2024)。なかなか面白い。

念の為に前置きしておくと、Fifth Harmony 時代の音楽や、これまでの馴染みやすいラテン・ポップとは(少なくとも今作においては)決別している。『C,XOXO』を聴く上で、前作までの Camila Cabello を参照するのは無意味とも言える。Pitchfork 紙は今作を「誤って声明/ステートメントアルバムというレッテルを貼られしまった、過渡期のレコード」を評しており、たしかに今作は32分という短尺も相まって、何かが「始まる」のには早急で、何かが「終わる」のにも粗雑で説得力に欠ける

つまり今作には「何も無い」と言える。いや、それは言い過ぎだ。彼女が挑戦は間違いなく新しいことに挑戦してはいるし、メインプロデューサー2人の絶妙なプロダクションによって、トラックの各々の完成度は高い。巷ではグリッチ/ハイパーポップへの接近と評されているが、それは早合点な気もするし、模倣にしかならないことは本人もわかっているだろう。「I LUV IT (feat. Playboi Carti)」が Charli xcx「I Got It (feat. Brooke Candy, CupcakKe, and Pabllo Vittar)」に似ていること、「Señorita」の作曲に Charli xcx が関わっていたことはたしかに面白い事実だが、向こうが Charli xcx & A. G. Cook で粋なクラブミュージックをやるならば、こっちは Camila Cabello & El Guincho (+ Jasper Harris) で歪な(いびつな)クラブミュージックをやろうとしたのが本当の狙いだったとも考えてみたい。ほとんどのリリックには脈略がないし(「Chanel No.5」のフックの意味のなさ!)、「pretty when i cry」で突然シカゴ・ハウスが鳴り始めるように、『C,XOXO』は文脈から解放されたカオスだけで成り立っている

一方でそのカオスは計算されたものでもある。反復のメロディや緩急のあるボーカルアレンジは、これまで比べてポップさよりも Hip-Hop やクラブミュージックのリズム感を追求した結果であるように感じる。メロディの面でポップなソングラインティングなのは、Taylor Swift がカバーしても違和感のなさそうなクロージングトラック「June Gloom」くらい。この辺りのバランスは、彼女のラインティングスキルの高さが最も際立っているところだ。

音楽シーンにおける『C,XOXO』の位置付けは、もう少し時間が必要な気もする。『BRAT』がリリースされて間もないタイミングであるし、「Get It Together」と合わせて聴きたくなる「HOT UPTOWN (feat. Drake)」で客演している Drake(と Kendrick Lamar)のわだかまりはまだ残っており、Camila にとっては分が悪いのが実のところだろう。Arca 化しそうな Katy Perry の新作も控えていることだし、「中心」を欠く今の北米の音楽シーンをたった数日で早々に判断するのは危険だ

BEST TRACKS
M2. Chanel No.5
M8. HOT UPTOWN (feat. Drake)


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