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殿ヶ谷戸庭園|はるかぜとともに

新型肺炎で家に篭りがちな日々。せっかく晴れたので、3/20に庭園に行きました。東京都が管理する都立公園は9つあります。今回はまだ行ったことがない「殿ヶ谷戸庭園」へ。JR国分寺駅南口より徒歩2分でアクセスも良いです。

ちょうど春分の日を含む3連休に、春の野草が見頃だったようなので、良いタイミングでした。庭園のtwitterより↓

庭園のマップ(引用)は下のような感じ。正門→展示室→紅葉亭→次郎弁天池→竹林→花木園→藤棚→萩のトンネル→正門、と時計回りに回りました。

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殿ヶ谷戸庭園の特徴/おすすめポイントを3つ上げます。

①武蔵野の自然の植生や地形を巧みに取り入れたデザイン
②庭師によるわかりやすい解説/コミュニケーション
③庭園文化を存続させた市民活動

現地を見た感想も交えて紹介させてください。

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武蔵野の自然の植生や地形を巧みに取り入れたデザイン

「国分寺崖線」と呼ばれる傾斜地の上に庭園があります。国分寺崖線は、太古の多摩川が武蔵野台地の南側を削ってできた河岸段丘に当たります。この段丘の崖にできた谷を巧みに活用した「回遊式林泉庭園」という様式です。

*河岸段丘:河川の中・下流域に流路に沿って発達する階段状の地形。段丘面は地下水面が浅く、段丘崖の下には湧水が出ていることが多い。

このような立地によって、崖の上の明るい芝生地、崖下の湧水池、樹林、竹林など、武蔵野の多様な景観が丸ごと楽しめる庭園になっています。自然を切り取って庭園にした、という感じですね。

ブラタモリに出てきそう地形の解説はこちら↓(庭園内の解説板より)

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崖の上の芝生地はこんな感じ。なだらかな起伏が見られます。アカマツなどの樹木が木陰を落としています。

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紅葉亭から次郎弁天池を見下ろします。高低差を一番感じられる場所です。眺望が良く、紅葉亭の軒先に座って一休みがオススメ。

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下から紅葉亭を見上げます。高低差を活かして水を引いていますね。

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池に注ぐ湧水の辺りにカルガモが2羽いました。水面に緑が映っていい感じです。

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モノクロにしても味わい深い…

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泳ぎ疲れて石の上で一休み。

カルガモ:アジアの温帯から熱帯に分布・繁殖。日本では全国で繁殖し、本州以南では留鳥、北海道では夏鳥。

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次郎弁天池から少し引いて、紅葉亭を望む…島に生える松、石組みが良い雰囲気。ちなみに、池の水源の湧水は、古くから「次郎弁天の清水」として信仰を集めた名水だそうです。ただ、池の名前の由来は不明とのこと。

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馬頭観音の周辺は、笹原が広がっています。かつて馬は生活に欠かせない動物として大切にされていました。その供養のために祀られたのが馬頭観音とのこと。

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周辺で、ヒヨドリとツグミを見つけました。

ヒヨドリ:10月に渡来し、4月に渡り去る冬鳥だったが、留鳥に。花の蜜や果実が大好物。

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ツグミ:10月頃、シベリアから大群で渡ってくる冬鳥。日本へ着くと群れを解いて、田畑や低い山の林に散らばって生息、3月半ば頃に再び群れて北へ帰る。地面をはねるようにとんでエサをとる。冬鳥なので日本ではさえずりをせず、口をつぐんでいる、それでツグミと呼ばれるようになったといわれる。

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次郎弁天池から竹林に入ります。都内現存の日本庭園には珍しいモウソウチク。

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竹林の反対側は、緩やかな傾斜になっています。樹林と竹林の対比も美しい。

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萩のトンネルを抜けて正門に向かう途中の道。石畳の美しい模様、湾曲した小道に、コケ、木漏れ日、マツの低木がアクセントを添えています。

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1つの庭園で、ここまでの写真のような、多様な景観が見られるとは…!感動しませんか?

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②庭師によるわかりやすい解説/コミュニケーション

正門に向かう途中に、旬の草花が展示されています。庭園でどんな草花が見られるか、事前に確認することができます。コンパクトにまとまっていて良いですね。ここで予習してから庭園に向かいましょう。

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展示館には、草花の詳細な分布マップがあります。花期もわかります。ここまで詳しい解説は中々ないのでは?

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庭師の日常の紹介コーナーも。今回のテーマは竹垣の更新でした。庭園内の竹林の間伐材を活用して、竹垣を新しくしているそうです。(庭園ガイドは中止…)

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今日はどこでどんな管理をされているかもわかります。来園者への情報発信にとても力を入れていると思います。

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多少マニアックな情報も交えながら、来園者に発信をされていて、素晴らしいと思いました。発信方法も、従来のオーソドックスな展示だけでなく、SNSも駆使されています。下記のtwitterでは、見頃の草花、動物の情報も発信されています。

今後も、どのような情報が発信されるか、定期的に確認していきたいです。

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③庭園文化を存続させた市民活動

殿ヶ谷戸庭園の沿革は次の通りです。

●大正初期に、三菱合資会社営業部長の江口定條が和洋折衷の別荘を構え、「随冝園」と命名。作庭は、仙石荘太郎。(高橋是清邸庭園、八芳園なども担当)
●1929年、三菱合資会社の取締役の岩崎彦彌太が別荘を買取り、「国分寺の家」として親しむように。和洋折衷の木造主屋に建替え、庭園建築として紅葉亭を新築、主屋前面の芝生地と崖線下方の湧水及び園地とを結んで、回遊式庭園を完成。
●1960年代中頃、庭園を含めて商業地域として再開発する都市計画が進められる。庭園と自然環境を保存するべきという地域住民による市民運動が活発化。1974年に都が買収、再整備後に有料庭園として開園。2011年に国の名勝に。

市民からの趣意書は以下の通り。庭園は、市民の力で守りきった自然なのです。

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市民運動の前後より、市民による「緑化通信」の発行も活発でした。庭園内のサービスセンターでは、当時の緑化通信を閲覧することができます。

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いかがだったでしょうか?春の日差しに誘われて、殿ヶ谷戸庭園に行ってみてはいかがでしょうか!?その際は、以下の3点:

①武蔵野の自然の植生や地形を巧みに取り入れたデザイン
②庭師によるわかりやすい解説/コミュニケーション
③庭園文化を存続させた市民活動

もぜひ、思い出してみてください。個人的には、この庭園はかなりのお気に入りになりました。オススメします。
(もちろん、外出の際は、感染症対策をしっかりとお願いします)

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◆番外編: 殿ヶ谷戸庭園の春の草花

ご参考まで、私が撮影した写真から、いくつかご紹介します。今は色々な種類の草花が見頃です。春植物は、スプリング・エフェメラルとも呼ばれます。

*スプリング・エフェメラル(Spring ephemeral):春先に花をつけ、夏まで葉をつけると、あとは地下で過ごす一連の草花の総称。 直訳すると「春のはかないもの」「春の短い命」というような意味で、「春の妖精」とも呼ばれる。なお、下記の紹介では、スプリング・エフェメラル以外も含める。
キランソウ:古くからの民間薬であり、鎮咳、去痰、抗菌などの作用が知られている。全体に毛が多い。根生葉が地面に張り付くように這って広がる。花は青紫色~紫色で、長さ約1cmの唇形花。

DSCN9507_キランソウ_Fotor

オトメツバキ:花は3~4月に開く八重咲、平開、花弁が多く、花心がない。淡紅色、弁は円頭形、花びらが整然と重なっている。

DSCN9526_オトメツバキ_Fotor

DSCN9707_オトメツバキ_Fotor

キズイセン:葉がイグサのように細く、イトズイセンとも呼ばれ、香りが強く、匂い水仙ともいわれる。江戸時代後期の文化12年(1815年)に長崎に入港したイギリス船から持ち込まれたのが最初の渡来の記録とされる。

DSCN9551_ラッパスイセン_Fotor

ゼンマイ:渓流のそばや水路の脇などによく生える。春に栄養葉とともに胞子葉を出す。栄養葉は1つの株から数枚の大きな葉を出す。胞子葉は独立し、まっすぐに立って棒状の小葉が並び、短期間に消失する。新芽が平面上の螺旋形になる。

DSCN9692_ゼンマイ_Fotor

コスミレ:本州〜九州の人家近くや山野に生える。花や全体の毛の有無など変化が多く、判別が困難な種だが、葉が粉白く、距が長い特徴がある。

DSCN9693_コスミレ_Fotor

タチツボスミレ:日本で最もよく見られるスミレ。花茎や花柄は無毛。托葉は鱗片状、櫛の歯状に細かく深裂する。花は淡紫色、側弁の基部は無毛。

DSCN9753_タチツボスミレ_Fotor

ヒトリシズカ:山野の樹陰などに生える。春先、4枚の葉を突き抜けて、白いブラシ状のとても変わった花を1本咲かせる。名前は、源義経が好んだ「静御前(しずかごぜん)」という女性が一人で舞っている姿に見立てたことから。

DSCN9760_ヒトリシズカ_Fotor

キクザキイチゲ:和名は菊に似た花が1輪つくことによる。北海道から近畿地方以東の本州に分布。山地の林や草原に生える多年草。雪どけの後の林縁などに美しい大輪の花を群開させる。

DSCN9766_キクザキイチゲ_Fotor

フッキソウ:北海道〜九州の山地の林内に生える。雄花は茎の上部に密につき、その下に雌花が5〜7個つく。雄花にも雌花にも花弁はなく、4個の萼片がある。

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イチリンソウ:木陰の草むらや林床に生え、地下茎があり、先端に3枚の羽状複葉をつけて、次々と四方に株を広げていく。早春になると、1本の花茎に3枚に分かれた羽状総苞葉を輪生させ、その先端に大きな白い5枚の萼花弁を開く。

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ボケ:ボケは、庭木や盆栽、生け垣、切り花として観賞され、200を超える品種が栽培されている。ボケの渡来時期は、平安初期以前であるとされる。かわいいつぼみも一緒に↓

DSCN9797_ボケ_Fotor

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ミツバツツジ:関東、東海及び近畿地方の低山に見られるツツジの一種。数多いツツジの仲間のうち最も早く開花し、早春の山を彩る。地域差による品種や変種が非常に多く、正確に分類するのは困難。

DSCN9805_ミツバツツジ _Fotor

キンモクセイ:花は葉腋に数個束生し、9~10月に咲く。花冠は橙黄色で4裂し、強い芳香があり、香りは離れた場所からでも感じられるほど。国内では雄株しか確認されていないため結実しない。綺麗な新葉が出ていたので↓

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イロハモミジ:福島県以南〜九州の山地の多少湿り気のある日当たりのよい斜面や沢沿いに生える。花期は4〜5月。赤い蕾?が綺麗↓

DSCN9846_イロハモミジ_Fotor

フクジュソウ:早春に花をつけ、葉が大きくなる前に開花し始める。花は枝先につき、黄色、直径3~4cm。開ききった花は見られず↓

DSCN9847_フクジュソウ_Fotor

シナレンギョウ:雌雄別株。葉の展開と同時に開花する。花冠は直径約2.5cm、鮮黄色、内部に橙色の線があり、4裂する。青空と黄色い花の対比が美しい。

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トキワイカリソウ:本州(東北地方〜山陰地方の日本海側)の多雪地の山野の林内に生える。花は直径3〜4cm、白色〜紅紫色。錨のような形の花↓

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カナメモチ:生け垣として利用されることが多く、春に赤みを帯びた新葉が伸びる。赤の新葉が映えて美しい↓

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シャガ:日本各地の低地や人里近くの湿った森林に普通に見られる、常緑多年草。春に茎を斜めに伸ばして、その先に白地に青い斑点が入る花を多数咲かせる。

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セキショウ:低地~山地の渓流畔、小河川、水路、湧水地などに生育する多年草。花期になると葉間から扁3稜形の花茎を出し、上方に肉穂花序をつける。

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シュンラン:北海道〜九州の乾燥した林内に生える。唇弁は白色で濃赤紫色の斑点がある。花期は3〜4月。気づかずに何度か通り過ぎました…↓

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トサミズキ:葉が出るよりも先に、3月下旬から4月に、5~7個の丸みのある黄白色の小花が連なり花序になって下垂する。四国地方を原産とする。

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カルミア:コンペイトウのような形をした、色濃い蕾を持つ。花が開くと皿形になり、色は薄く模様が入って、蕾の様子とは全く異なった印象。北アメリカとキューバに分布する常緑低木。

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アカバナミツマタ:新葉が芽吹く前の枝先に花だけが開花。小さな花が集まって半球形を形成。枝は3つに分枝するが、これが名前の由来。赤色の花の園芸種↓

DSCN9912_アカバナミツマタ_Fotor

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最後の1枚:紅葉亭前の石からスケッチをする少女。晴れた日に屋外でスケッチ…理想の休日ですね。それでは、今回はこの辺りで!

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◆参考: 殿ヶ谷戸庭園の情報

↓東京都公園協会のホームページ

↓殿ヶ谷戸庭園のパンフレット

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P.S. 殿ヶ谷戸庭園の見学記事を作ってみたのですが、本日こんなニュースが↓
外出自粛になってしまう可能性もありますね。春の陽気に誘われて、野外に外出したくなってしまうのですが、都市封鎖までは行って欲しくないですね…


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