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【創作短編】運命の人

今回の作品は、前回の作品の続きです。先にこちらを読まれてから今作を読むことをおすすめします。


私には、どうしようもなく好きな人がいた。小学校から高校までずっと一緒だった男子。いつも一人でしか泣けない私だけど、なぜかあいつは私が泣いているときに現れる。少女漫画ばかり読んでいたことや腐れ縁と相まって、私は運命だと思っていた。


「ねえねえねえ見て見て見て!!!」
高校3年の昼休み。一週間後に迫る体育祭で演舞をする私はあいつを見つけ、思わず気分が高揚する。他の男子の前では冷静で歯に衣着せない物言いの私だが、あいつの前だけでは違う。あいつの姿を見かけるだけで脊髄が反応し、脳を介さず行動する。よってこの言い方だ。あいつは気付いているようだけど無視をした。冗談と分かってはいるけれど傷ついてしまう。ゆえに、次に発した私の声は切なさを帯びた。
「ねえええええ見てってばあ~~」
「何」
あいつが真顔で振り向く。どうしよう。めちゃめちゃかっこいいな。顔の造形が綺麗だ。私はあいつの顔が好きで恋しているわけではないけれど、あいつの元来のルックスに恋愛フィルターがかかると、とんでもなく綺麗に見える。そんなことを思っていたからか、私の表情筋は途端に緩んでいった。顔も少し熱い。でも見てって言っといて何もしないのはよろしくないから私は演舞を踊る。ただでさえ踊りが上手ではないのに、あいつの前だと尚更だ。すると足がおぼつかなくなり、私は転んだ。長いはずのスカートの仲からインナーが見えている。今日に限って何で体操ズボンを履いていない。インナーもえっちな漫画に出てくるような可愛いものじゃないし。色んな感情が相まったのと、表情筋が完全に機能しなくなった結果、私は顔を綻ばせた。あいつも笑いながら私の名前を呼ぶ。いつもと違う、人、いや私をからかう声、しかもちゃん付け。その顔とその声を味わえたから、私は今日も幸せだ。

季節は巡って冬。そう受験シーズン。定期テストは高得点ゆえ評定は高いけれど模試はどう頑張っても上がらなかった私は、昔から憧れていた大学の推薦枠を頂いていた。推薦枠を頂けた日は人生で一番と言っていいほどうれしかった。部活をしながらも真面目に勉強していて良かったと心から思えた。周りの皆から今日はいつもに増して可愛いと言われた。人は心の底からうれしいときは、表情が生き生きするのかと学べた。そこから入試当日の私は、今までで一番血の滲むような努力をした。十数名の先生に面接をお願いしたし、社説も色んな会社のものを読んだ。小論文や面接のノートやスクラップは、本当に1ヶ月分かと疑うほどに分厚くなった。

それでも試験当日は惨敗。どうせ受かっていないと周りに言いつつ、心のどこかでは合格を願ってしまっていた。そんな思いで見た合格発表のサイトには、私の番号はなかった。その後廊下を歩いていると、心配そうな面持ちのあいつと出くわした。なんでまたこのタイミング。でもここは昼間の学校。甘えて泣きじゃくるわけにはいかない。あいつにも迷惑だろうし。するとあいつが口を開いた。
「どうだった」
なんて単刀直入なの。でも私もバカだから、それさえも愛おしい。私は不合格の旨を伝えた。あいつが何か言いかけた途端、始業のベルが鳴った。

昼休みになった。私は面接でお世話になった先生方に報告をしにいった。先生方に慰められては目から涙が止まらない状態に陥っていた。英語の先生に報告しようとすると、あいつの姿が目に飛び込んできた。なんでここにいるのかわからず混乱したし、目も腫れて顔も真っ赤だったので無視して逃げた。

私には好きな場所があった。陸上部で毎日走っていた運動場が一望できるスペースだ。教室までの帰り道に位置している上に人気が少ない。私はよく一人でそこのベンチに座って佇んでいた。報告の帰りにそこで放心状態で座っていると、またもあいつが来た。本当にこいつはなんで私が心底つらいときにばかり現れるのかな。涙が小康状態になっていたのにまた泣きそうだ。否、時すでに遅し。またも制服のスカートが濡れていった。あいつが口を開く。
「笑っとけ」
あいつはつらいときに来てはいつも頑張れと言ってきた。あいつの頑張れにどれだけ報われたか。でも今日は違う。私の頑張りを認め、かつ私を励まそうと思ったのだろう。やっぱりやっぱり嬉しいし、またあいつへの想いが強くなった。どうして。私に恋愛的な好意を抱いていないのは目を見るだけで分かる。なのになんでこんなにも私を惚れさせるの。小学校から今まであいつ以外に好きな人はいない。それほどに私を引きつけて離さない。この人は一生、私の運命の人に違いない。そう思った。

受験が終わり卒業式。色んな人とデジカメで写真を撮っていたら、あいつの姿を見かけた。一人だ。チャンス。そう思ってあいつの元へ駆ける。
「ねえ写真撮ろうよ~!でもデジカメで自撮り難しいよね、、」
私が一人でごちゃごちゃ言っていると、あいつの友達がやってきてくれた。私は彼にカメラを渡す。そしてポーズとか色々話していると、シャッターを切る音がした。私がびっくりしていると、彼はこう話す。
「めっちゃ良い写真撮れたわ」
そこには、表情筋が完全に緩みきった私の顔と、いつもよりも若干照れ笑いのあいつが写っていた。


あれから3年と少し。私はあいつに告白できなかった。今の関係を壊して、恋人になる勇気がなかったのだ。自分にせっかく生まれてきて大きくなった恋心には申し訳ないが、臆病が勝った。あいつとはもう連絡をとっていない。あいつはあいつの運命の人との日々を送っているから。今の私にできることは、私の運命の人の幸せを祈ることだ。

私の文章を好きになって、お金まで払ってくださる人がいましたら幸福です。