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動物病院での犬と猫の病気:下痢(12)  慢性膵炎について

千葉市で働く臨床経験17年目の獣医師です。

前回のnoteでは

血液検査でわかる下痢につながる病気の「急性膵炎」

についてお話をしました。


今回は慢性膵炎についてお話をします。


前回お話をした急性膵炎は、強い吐き気や水下痢などが続くので診断されることも比較的多い病気です。

若い犬や猫でも突発的に起こる可能性があります。


一方の慢性膵炎は主に老犬、老猫に多い病気です。

慢性膵炎は、膵臓が萎縮したり線維化することによって起こる炎症で、長期間かけてゆっくりと進行していきます。

そのため症状が曖昧だったり、無症状のまま進行していくことも多いため診断や治療をすることがとても難しい病気なんです。

以前私が勉強したセミナーでは以下のようなデータが示されていました。

アメリカの動物病院で死因に関係なく亡くなった犬を対象に200頭以上の膵臓を調べた所、膵炎を示唆する肉眼的変化が11%以上の犬で認められ、
しかもその膵臓を2cmおきに切り、そのいずれの切片にも病変が認められなかった犬は8%のみ

つまり解剖の結果、年齢や病気の種類に関わらず、約90%近くの犬が膵臓に何かしらの異常を持っていたということです!

そして猫の115頭の解剖したデータもあったのですが、同じように膵臓に異常をもつ猫は多く存在していました。

そのようなデータも含め、セミナーの先生がおっしゃっていたのは、

①膵炎は好発疾患である。
②慢性膵炎は急性膵炎よりも多い。
③膵炎はあるが症状が出てくるかは分からない。

ということでした。

慢性膵炎は程度にもよりますが、以下のような症状が出てくる可能性があります。

・嘔吐
・下痢
・体重減少
・食欲不振又は食欲減退
・嗜眠(元気がなく意識が遠い様子)
・行動の変化
・腹部不快感
・合併症(膵外分泌不全や糖尿病)

こうみると症状だけでは膵炎と特定できるような症状はなく、見た目では診断することはまずできません。

実際私もいままで年を取ったワンちゃんネコちゃんで慢性膵炎を疑う子はいましたが診断まではいたらず治療もどうしたらいいかと考えてしまうことはよくありました。

そのためこのセミナーで慢性膵炎を学んで以降、私は慢性膵炎について特に意識するようになりました。

そして高齢の犬や猫で、原因不明の食欲や元気がない状態がダラダラ続くようなケースの時は、私は慢性膵炎を疑い検査や治療をするようにしています。

その結果、慢性膵炎を意識する以前の私よりも老犬、老猫の元気でいられる期間を長くすることが出来ていると思っています。


ただ慢性膵炎は、急性膵炎と同様に根本治療はありません。

治療の基本は緩和治療である皮下補液や強制給餌になります。

しかし最近は膵炎を悪化させないための治療薬もいくつか出てきたので、愛犬愛猫に合う治療をご家族と相談しながら行うようにしています。

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今回のNOTEは以上になります。
次回は血液検査でわかる下痢につながる病気の3つ目として

3⃣ 蛋白漏出性腸症

についてお話ししようと思います。

続く


参考文献
・春のヒルズ学術講演会2015ハンドアウト


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