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X Talks 7.2 - 運を掴む鍵:挑戦、縁、最大限の努力

前回は、米国画像診断専門医の仕事と魅力について栗原 学先生にうかがいました。「AIとお友だちになる」ことで、色々な病気が今よりも詳細にわかるようになれば、動物たちや飼い主さんのハッピーにも繋がりますね。さて今回は、"3人のおじいちゃん" との出会いから、"縁" の大切さについて前田先生との話が始まります。


ベストフレンズ

--:栗原先生の人生に影響を与えた "3人のおじいちゃん" について、教えてください。
 
栗原 学先生(以下、敬称略)ロンとポールとボブっていう3人です。ロンが一番年上で、55歳までテキサスA & M大学の教授だったんです。なんですが…、いきなり「スイスに住んでみたい」って大学を辞めて移住しちゃったクレイジーな人です。しばらくしたらスイスにも飽きて、イランで獣医師のレジデントシステムを立ち上げたりしていて…。バイタリティ溢れるすごい先生です。
 
釣り好きで、「最後はニュージーランドで死ぬぞ」って感じで、(マッセイ大学で)教授になったんです。ロンは僕が今まで出会った中で、一番テキトウな大人です(笑)。でも、それがすごく良かった!「やりたいんだったら、これやれよ」って、適当に僕のポジションを作っちゃったり(笑)。
 
前田真吾先生(以下、敬称略)ロン、すごい先生じゃないですか。ボブはどんな人なんですか?
 
栗原:ロンの友人で、ボブもアメリカの画像診断専門医です。ロンに誘われてニュージーランドに来たんです。彼は、まさに "大学教授" って感じです。教えるのは丁寧だし、紳士だし。英語がうまくない僕の話も、必ず言い終わるまでじっと目を見て聞いてくれる人でした。
 
レジデントに応募する時の推薦状も彼が書いてくれましたし、マッチングした時も本当に喜んでくれました。アメリカのレジデントプログラムで僕を採用してくれたのはエイミーという先生ですが、彼女が専門医試験を受けた時の試験監督のひとりがボブだったという縁もあります。
 
前田:ボブはニュージーランドの人?
 
栗原:ボブもアメリカ人です。ロンが「お前、少しこっちで働かないか?」ってアメリカから彼を呼んだそうです。2人とも既にリタイアしていたのですが、3番目のおじいちゃんであるポールに画像診断を教えるためにロンがボブを呼んだんです。
 
前田:また新しいおじいちゃんが出てきた(笑)。めちゃくちゃおもしろい(笑)。ポールは誰なんですか?
 
栗原:ロンのレジデントでした。ポールもユニークで、50歳くらいまで自分の動物病院で開業医をしていたんです。でも、若い頃から画像診断医になりたかったそうで、「50歳になったらレジデントをやる!」と決めていたそうです。そのタイミングで、画像診断専門医のロンがニュージーランドに来たので、50歳からレジデントを始めたんです。

前田:ポールはニュージーランド人なんですね?
 
栗原:そうです。彼がまた、メチャ良い人なんです。僕のことを「こいつ、英語はできないけど画像診断の知識はあるな」と思ってくれたみたいです。学生さんの前でも、「マナブはどう思う?」という風に聞いてくれました。

「ポールから一目置かれてる」みたいな雰囲気で、学生さんも僕に話しかけるようになりました。ポールのおかげで、みんなとすごく仲良くなれました。
 
--:その3人との出会いが大きいですね
 
栗原先生:本当に大きいです!「この3人が応援してくれているうちは、(画像診断専門医になるのを)あきらめない」、って思ってました。みんな年上のおじいちゃんですが、特にポールのことは「ベストフレンド」と呼んでいます。

ロンとボブは当時60代半ばだったので、50歳代のポールは彼らと比べると少し年下です。でも僕には「おじいちゃんがおじいちゃんを教えてる」みたいな感じで(笑)   
 
前田:なんかそれ、すごくイイですね!(笑)


チャレンジ精神

前田:レジデントには、2回目でマッチングしたんですね。
 
栗原:ニュージーランドに行く前に応募したことがあるので、実は3回目でした。一度目は書類を出しても返信はなく、面接にはどこからも呼ばれませんでした。2回目で返信があったり、「面接に来てみる?」と言ってくれる大学があったりしたので、「もしかしたら行けるかも」と思うようになりました。でも面接でダメだった。3度目の正直で、翌年にタフツ(大学)に決まりました。
 
前田:タフツ大学のレジデントが決まったのは、30代ですか?
 
栗原:33歳でした。
 
前田:ニュージーランドでの留学経験もありますし、タフツ大学に行く時にはもう不安はないという感じでしたか?
 
栗原:「どれだけできるかな?」という不安は多少ありました。でも、僕を採ってくれた先生たちに「絶対に迷惑はかけられない」という気持ちが大きかったですね。1年目は(勉強に)ついていくのが大変だったので、「もしかしたら辞めさせられるかも」という時期もありました。英語だと、喋るのも書くのも読むのも遅かったので…。
 
--:タフツ大学のあるボストン、アメリカ東海岸の北の方はせっかちな印象もありますね。
 
栗原:ニューヨークあたりと同じで、ボストンもセカセカしてますね。スピードについて行けなくて、「まずいな」と感じたこともありました。でも、不屈の精神力と体力で人の3倍努力しました!スポ根みたいな感じでやったら、意外と大丈夫でした(笑)。この経験から、何事もがんばれば「なんとかなる」という自信を持てるようになりました。
 
--:栗原先生には、すごくエネルギーを感じますね!
 
栗原:「圧が強い!」ってよく言われます(笑)でも、今お話したような色んな出会いを経て、画像診断専門医への道を進むことができたんです。みんな、すごく応援してくれたんですよ。僕は英語もろくにできないのに。
 
普通の日本人の感覚だったら、「まず英語を勉強してから行けよ」ってなると思います。僕は「やりたい!」って熱意だけで海外に行ったんですが、(ニュージーランドでもアメリカでも)ちゃんと人として扱ってもらえましたね。パーティーに呼んでもらったり、色々と気を遣ってもらいました。そういうのが嬉しかったし、人と人とのつながりが自分には凄く響いて「海外もいいな」って思いました。
 
--:英語ができないのに外国に専門医の勉強に行くって言うと、日本では反対されそうですね
 
栗原:SNSで叩かれたり(笑)。そういうのは、アメリカではないですね。
 
前田:アメリカを含め海外では、チャレンジするのがデフォルトのような気がします。
 
栗原:チャレンジしないと、「お前なんで挑戦しないんだ!?」って。
 
前田:そうなりますよね。
 
栗原:「なりたいんだったら、まずできることからやってみろよ」って。
 
前田:日本の場合、チャレンジする方がマイノリティになりますね。で、マジョリティがチャレンジすることを批判する…。
 
栗原:そういう風潮、教育にとっては害でしかないですね。
 
--:私も子どもの頃、ちょっと突飛な行動をとると、「そんなことしてる人いないでしょ」ってよく言われました。
 
栗原:僕もメッチャ言われてました(笑)


縁に導かれる

前田:“3人のおじいちゃん”ではないけど、"縁" って大切だなと改めて思います。僕も、岐阜大学の前田貞俊先生との縁があったからこそ、研究の世界に入ったんです。栗原先生の場合は、その出会いが "おじいちゃんたち"(笑)だったわけですね。
 
--:前田先生は、貞俊先生の影響で研究に興味をもち、東大の大学院に進むことを勧められたんでしたよね?
 
前田:そうです。それから、大学院の後、現職である獣医臨床病理学研究室で働き始めた時のボスだった松木先生(東京大学大学院農学生命科学研究科 松木直章教授:当時)との出会いも大きいですね。
 
--:松木先生は内科の先生ですか?
 
前田:内科系診療科で神経・内分泌・泌尿器を担当されていました。その流れで僕も今「神経・内分泌・泌尿器」の3つの診療科を診ているんです。
謎の“くくり”ですが…。
 
栗原:確かに(笑)。その3つは全然違う分野なので謎です。
 
前田:ですよね(笑)。神経・内分泌・泌尿器という謎のくくりですが、僕の中では大きな転換期でした。大学院では消化器疾患を研究していたので、(臨床病理でも)消化器をやりたいと松木先生に相談していたんです。そしたら着任する前は「いいよ」と言ってくれていたのに、いざ着任してみたら「やっぱ人手の関係で消化器はダメ」って(笑)。「オレの仕事を手伝え」って…。
 
--:それが、今の移行上皮癌の研究につながっていったんですね。
 
前田:そうなんですよ。それがなかったら、移行上皮癌の研究をやることはなかったですね。そもそも腫瘍の研究にはまったく興味がなかったし。
 
栗原:えー!そうなんですね!がんの研究が最初から好きなんだと思っていました。それは衝撃的なくらい意外です!
 
前田:だから、がんの研究をはじめたのは実は割と最近なんです。「神経と内分泌と泌尿器の3つの中だったら、まだ興味を持てそうなのは泌尿器かな…」みたいな感じでした。どちらかというと、消去法的な気持ちで泌尿器の研究を始めたんです。泌尿器の中でも移行上皮癌など腫瘍の研究を始めたのは、研究しやすいということもあります。
 
栗原:がんの研究はモデルが多いですからね。
 
前田:それと、臨床症例から組織が採りやすいことも大きかったですね。神経疾患だと、発作が起きたからって脳を生検して調べるわけにはいきませんし。研究しやすさもあって、泌尿器腫瘍の研究を始めました。そうしたら、とんとん拍子で(成果が出て)。
 
栗原:前田先生の論文は読みましたが、すごい成果ですよね。
 
前田:ありがとうございます。たまたまラッキーだっただけです(笑)。でもこの経験から、「環境や取り組んでいるテーマを変えるって大事だな」っていうことを僕も実感しました。

ただ、同じことをずーっとやり続けるのもやっぱりすごいなって思います。そういう先生方も尊敬しています。でも僕はけっこう飽きっぽいので、5年くらい同じテーマをやっていると飽きてきちゃうんですよね(笑)
 
栗原:それで、今度は(膀胱の)ちょっと上に行って、腎臓ということですね。
 
前田:そうですね。少し前から慢性腎臓病の研究をやり始めました。これも奥が深くて、研究するのがとても難しい分野です。でも、めちゃくちゃおもしろいです!
 
栗原:ちょっとずつ上にいってる(笑)。先生は今も変化の途中なんですね!

出会いと縁の大切さを改めて感じさせる今回の対談でした。前田先生は、イヌの移行上皮癌や前立腺癌の分子標的薬による治療で素晴らしい結果を出しておられます。栗原先生は、難関のアメリカ専門医の資格を取得されました。どちらも、恩師や "ベストフレンズ" との出会いが導いた成果です。次回は、そんな素晴らしい "縁" を掴むために大切なことが語られます。

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