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X Talks 7.3 - 過去を生かすも殺すも "いま" 次第

前回の対談は、栗原 学先生がニュージーランドで出会った "3人のおじいちゃん" のエピソードから始まり、前田先生の様々な "縁" の話になりました。人生における出会いの大切さを、改めて感じました。今回は、そうした素晴らしい出会いを「引き寄せる」ためのコツを、うかがいます。


過去は変えられる

--:前田先生の泌尿器に関する研究は、岐阜大から東大の大学院に行って、その後さらに環境が変わったからこその出会いなんですね。
 
前田:岐阜大から東大(の大学院)に行った時にも、分野が変わったんです。学部時代は皮膚とアレルギーを研究していました。東大の内科に来た時にも、アレルギー(の研究)を続けられると思ったんですが、その時も当時の教授から「アレルギーはダメだ」と言われてしまって…(笑)。
 
--:前田先生のコントロールが効かない状況だったわけで、運命的な流れだったということですね。
 
前田:運命的な出会い…かもしれないですね。僕のコントロールできない事情で変わらざるを得なかったんです。でも、結果的にそれが良かったんです。流れに身を任せてみるのも、時にはアリなのかもしれません。

自分の思い通りにいかなくても、そこで腐るのではなく、「おもしろいところはないかな?興味を持てる部分はないかな?」と見方を変えて、捉え直してみる。僕の場合、学部ではアレルギー、大学院では消化器、そして今は泌尿器やがんの研究をやっています。

本当に研究テーマがとっちらかっているんですが、実は根っこのところでは自分の興味がつながっていたりするんですよね。僕の研究は、"免疫" というところですべてがつながっています。
 
--:出会いを大切にしつつ、自分のコントロールできない状況にいる時は淡々と進んで行くのも大切ですね。
 
栗原:環境も含めて、自分が与えられた状況の中で頑張ることが大切だと思います。前田先生のように、自分が望まなかった状況に陥る場合も当然あります。でもそれを、後から振り返った時に「良かった!」と思えるように努力することが大事だと思います。

僕も専門医になれたから、おじいちゃん3人との出会いが美談になります。そうでなかったら、ただ「ニュージーランドで、いろんなおじいちゃんに会った」だけですし(笑)
 
一同:爆笑
 
栗原:過去って、「色を変えられる」んですよね。その後の生き方が非常に重要だと思います。「すべてをポジティブに」というわけではありませんけど。
 
--:望む結果にならなかったとしても、全力で努力した経験はどこかで役に立つと思います。
 
栗原:全力でやらないと、そうならないと思います。環境のせいにするのは簡単ですが、運を掴める人は必ず努力をしているはずです。宝くじを「とりあえず買って」ではありませんが、「とにかく努力して」いれば、誰かが見てくれていると思います。
 
あと、いつも若い人たちに言うのは、「今いる環境で、ポテンシャルを充分に出すことが大切」ということです。日本でアメリカに行く準備をしている間も、その時にできることを全力でやるのが大切です。
 
前田:それは間違いない!チャンスは誰にでも、どこかのタイミングでやって来ると思います。
 
栗原:来る!
 
前田:それが来た時に、気づいて手を伸ばせるかですよね。掴めるような準備をしているかどうかで、差が出るんだと思います。
 
栗原:何かを目指して動いていると、周りの人から「あとは運」って言われるんですよ。運以外は「やり切った」という状態にしておいて、運が来る確率を上げる努力も必要です。

僕がポジションを掴んだ「マッチングプログラム」というのは、1つのポジションに世界中から数百人が応募します。運の要素も大きくなりますが、運以外のところをどんどん埋めていくことが大切です。そうでないと、競り合った時に残れません。「こいつにかけてみるか」といった感じが(選ぶ側に)伝わったりもします。


人間性の大切さ

--:やはり、日々、勉強ですか?
 
栗原:マッチングでは、人が人を採るので魅力的な人間でないといけないとも思います。「こいつと3年間働いたら楽しそう」っていうのも重要ではないでしょうか。
 
--:前田先生も大学院希望の方を面接することはありますか?
 
前田:うちのラボで大学院進学を希望してくれる方とは、必ず対面で話すようにしています。向こうにもこちらの雰囲気を分かってもらったほうが良いですし。やはり研究も「人と人との関わり合い」なので。
 
栗原:合う・合わないもありますよね。
 
前田:ありますね。僕が良いと思っても、向こうが「ちょっと違った…」ということもあるでしょうし(笑)
 
栗原:(大学院では)4年間一緒にやるわけですから、「合わない」とお互いがきつくなりますね。
 
前田:「ひとあたり」というのも大切ですね。
 
栗原:大事だと思います。
 
前田:僕は大学院時代、そこをあんまり理解していませんでした。アカデミアの世界では、業績さえあればポストが得られると信じていました。コネということではなく、“縁(えにし)”の大切さを今は感じます。
 
栗原:コネとはちょっと違いますよね。レジデント(に応募するの)も同じです。
 
前田:やっぱりそうですよね。
 
栗原:アメリカは日本より(合う・合わないを)気にします。一度採用すると、何かあっても簡単にはやめさせられません。大学側のパワハラととられかねないので。レジデントを選ぶ時には、(応募者の)SNSをチェックすることもあります。
 
前田:えー!そうなんですね!
 
栗原:応募者の成績はほぼトップクラスですし、推薦状も完ぺきで差がないんですよ。だから、知り合いに評判を聞いてみたりもします。
 
前田:それはアカデミックポストもまったく同じだと思います。やっぱり実際にその人を知っている人からの評判は確認しますよね。もしかしたら以前の僕のように、そこを軽視している人(=応募者)が多いかもしれないですね。
 
--:研究も診療も一人ではできませんし、成績よりも人間性が重要?
 
栗原:と言うよりも、成績はみんなトップクラスで変わらないんです。でも、成績が良いからといって、一緒に働きやすいかというと、必ずしもそうではないじゃないですか。
 
--:持って生まれた性分を変えるのは難しいと思いますが、自分をどう見せるか、良い意味でのコミュニケーション能力が問われるのでしょうか?
 
栗原:"コミュ力" はメチャメチャ大事だと思いますよ。
 
--:臨床現場でも、飼い主さんや同僚・先輩や後輩とのやり取りでも、大事ですからね。
 
栗原:「まず、そこがないと」という感じですね。でも、コミュニケーション力を付けるのって、持って生まれた性格もあるし教科書があるわけでもなく、難しいんですよ。だから僕は、「こいつと働きたい」って思わせるようになろうって言います。アドバイスはそれしかないです。
 
例えば、何かの募集に対して応募するのであれば、「相手が望んでいる人になる」ことを目指す必要があります。「ロジカルで研究に強い人」が求められているなら、そのような受け答えができるように努力することが大事です。「明るく楽しく勉強できる人」が望まれているなら、そうなる必要があります。

(キャラクターを)全部変えるのは無理ですけど、ある程度の修正はできるはずです。「ありのままの自分」を受け入れてくれるならベストですけど、色々な人と一緒に働く時には、そういった対応も時には必要です。
 
--:人間力や対応力は、人生の色々な局面でも大切になりますね。
 
前田:単純に "コミュ力" の有る・無しでもないですからね。人それぞれに生まれ持った性格があるので、「それをどう生かしていくか?」というのが大事なんじゃないかと思います。

例えば飼い主さんへの説明でも、獣医師によって話し方や話す順番は全然ちがいますよね。話すスピードも違えば、声のトーンも人による。病状や飼い主さんの性格によっても、伝え方は変わってくると思います。

だから、自分なりのやり方をアレコレ試行錯誤していくのが良いんじゃないかと僕は思っています。性格の根っこの部分をいきなり大幅には変えられないですけど、"人となり" や "人あたり" は変えられると思います。
 
栗原:自分の性格はなかなか変えられないけど、人との関わり方を変えることはできると僕も思います。
 
前田:そこを努力するのが大切かなと、僕は思うんです。
 
栗原:僕もまだまだですが。
 
前田:えー!ほんとですか?栗原先生は「コミュ力お化け」な感じがしますけど(笑)。僕は完全に「陰(いん)」の者ですが、先生は「陽(よう)」の者ですよね?(笑)
 
栗原:たしかに、前田先生は「あんまり僕と目を合わせてくれないな」とちょっと思ってました(笑)。
 
前田:すみません…!(笑)。ほぼ初対面なので、人見知りが出てしまいました!陰キャなんですよ、僕は…。でも「気を付けないといけないよなあ」と常に思っています。

さっきはエラそうにコミュ力の話をしましたが、僕自身まだまだ足りないところが多いので、これからも努力し続けようと思います。

よく「過去は変えられない」と言われますが、過ぎたことを嘆くのか、それとも糧にして成長につなげるのかは自分次第ですね。良い結果になれば、苦い思いをした過去も良い思い出になる。置かれた環境の中でできることに力を注ぎ、出会いや縁を大切にすることが成長につなげるコツのようです。そして、どんな時でも大切なのは「こいつと働きたい」と思ってもらえるような姿勢をもつこと、というのが栗原先生のアドバイスです。

最終回の次回は、ご自身の過去(=経験)を生かして栗原先生がこれから目指していることを聞きます。

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