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【メルカリ・鹿島アントラーズFC 小泉文明】20代のみんなへ伝えたい「自分の道を切り拓く、20代の働き方」

高校や大学で留学やインターン、学生起業などさまざまな経験をしても、新卒一括採用で一括りにされてしまうことに違和感を持つ若者が増えている。これからの時代に合った道の切り開き方は必ずあるはずなのに――。そこで、VENTURE FOR JAPANでは自分の未来のあり方を想像して「挑戦するキャリア」の第一歩を踏み出すための、オンラインイベントを開催している。第5回目のゲストはメルカリの取締役会長であり、鹿島アントラーズFCの社長でもある小泉文明。小泉氏の学生時代やこれまでのキャリア、これから成し遂げたいことなどについて語っていただいた。

学生時代から行なっていた、インターネットビジネス

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――小泉さんはどんな子ども・学生だったのか、何が今につながっているのかを教えてください。

僕の今の人生につながった最初の出来事は、中学校1年生のときにパソコンに触ったことです。1992年当時は「windows 95」が出る前で、Macが約100万円で売られていた時代。通っていた中高一貫の私立の学校に、Macが20台くらい導入されたので、グラフィックやゲームを作るようになりました。

中学校3年生になるとファッションに興味を持つようになって、当時発売されたばかりの「エアマックス95」というスニーカーを約1万5000円で購入。すると半年後に10万円を超えるプレミアがついたんですね。

自分が好きで買ったものの価値がとんでもなく上がるという強烈な原体験から、高校生になると当時流行っていた“裏原宿”の洋服を購入し、インターネットで転売するようになりました。

その流れで、大学時代も好きな洋服を買っては日本全国の人にインターネットで転売し、月に50万円は稼いでいましたね。当時はみんなが欲しがるブランドは同じだったから、そのブランドの商品が手に入ればビジネスになっていたんです。

――大学生で月50万円も稼いでいたら、就職活動はどんな軸で行ったんですか?

事業をやりたい気持ちもあったけれど、人生をかけてやりたいことは見つかっていなかったし、当時は株式会社を作るのに1000万円が必要だったんですね。加えて、インターネットやテクノロジーは好きだけど、エンジニアリングも今のように簡単ではなかった。

だから悶々としていたのですが、やりたいことがないなら勉強して自分の武器を手に入れようと思い、お金のことや事業のことなど、将来必要になる何かしらを学ぶために、証券会社でIPOやM&Aを扱う投資銀行部門に入社しました。

自分の仕事を徹底的に磨き上げる

――証券会社では、どんな働き方をしていたのでしょうか?

僕はテクノロジー系企業のIPOを担当し、経営者と一緒に企業価値を上げるためのディスカッションをしていました。朝から晩まで働き、残業は平均200時間といったハードな働き方でしたが、とにかく楽しかった。

当時クライアントだったDeNAは50人規模で、ミクシィも10人規模。新しい事業が立ち上がり始めている企業の経営者とディスカッションするのは、20歳そこそこの若者にとってすごく貴重な経験でしたね。

もちろん、コンサルティングの対価としてお金をもらっている以上、期待に応えないといけないプレッシャーがあったので、仕事ではありましたが新聞は毎朝10紙に目を通し、土日は経済誌のほぼ全てを読んでいました。

加えて、インプットした内容から「今後の経済はこうなる」「この問題についてこう思う」といった考察をブログに書いていた。寝ずに努力する勢いでしたが、経営者と対等に話そうと思ったら、それくらいインプットの時間は必要でした。

その背景にあったのは、当時の尊敬するチューター社員から「手を抜かずにアウトプットしていれば、当然クライアントも評価してくれるし、10個の仕事のうち例え1個の仕事でミスをしても、1個のミスくらいいいよと言ってもらえる。そうなるよう、徹底的に自分の仕事を磨き上げなさい」と言われていたことです。仕事ときちんと向き合う姿勢は、20代から相当叩き込まれたと思います。

――師匠のような人と出会えるかどうかが、今後のキャリアを左右しますよね。

若い人からキャリア相談を受けると、やりたいことが見つからないなら業界トップの部署に行きなさいという話をします。業界トップの部署は努力の仕方と勝ち方を知っていて、優秀な先輩が多く、仕事のクオリティも高いし、さまざまなところから情報が集まります。やればやるほど成果が出るから部署の全員が仕事にコミットするんですね。

逆に、業界3位や4位の部署では、どうせやっても負けるだろうという空気感があるから、仕事の細部で手を抜くようになるし、新人が入ってきても育てる空気がない。だからチャンスが回ってこない。

業界1位の部署は忙しいぶん新人にもチャンスが回ってくるし、良い師匠と出会って成功体験も得やすいんです。僕が証券会社で所属していた部署は業界トップだったので、恵まれた環境にいたなと思っています。

自分にしかできないことにコミットしたい

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――証券会社を退職してミクシィに移った背景には何があったのでしょうか?

僕が証券会社で最後に担当したのが、10年かけて10兆円の資金調達をする、ある民営化の巨大プロジェクトでした。それに僕は平社員で唯一選ばれたんですね。

周りからは「おめでとう、出世コースだ」と言われましたが、中身を見ると僕じゃなくてもできるもので、決められたスケジュールを10年間こなしていくことが予測できました。一方で、同時期に担当していたミクシィは、事業が立ち上がったばかりだったから、僕のことを必要としてくれていた。

そのときに、自分にしか出来ないことや自分を必要とする会社があるならば、そこで仲間と一緒に日本を代表するインターネット企業を作りたいと思いました。

他人ができることに自分の人生を賭ける意味はない、棺桶に入るときに後悔しない人生を送りたいと思い、26歳のときに証券会社を退職してミクシィに入社。もちろん、周りからは相当驚かれましたけどね。

ネットから生まれたネット企業を育てる難しさ

――大企業とスタートアップでは環境が大きく違うと思います。そこに戸惑いはありませんでしたか?

今でこそ、インターネット系のスタートアップには優秀な人が集まっているけれど、当時はリスクテイカーの“荒くれ者”だらけでした(笑)。

社員数や売り上げは毎年倍々に増えていましたが、優秀な人も入ってこないし、組織づくりも難しい。2007年頃の日本のベンチャー企業はどこも同じだったと思いますが、ビジネスとしてどう大きくしていくか、最初にすごく悩んだのを覚えています。

というのも、yahooや楽天など1つ上のインターネット世代は、今まであったビジネスをインターネットに置き換えた、いわば盤石な事業ですが、ミクシィやDeNAなどの第2世代は、ネットから生まれたネット企業だから、事業や組織の作り方が違うんですね。

だから、ゼロから考え先進的な事業づくりによって、インターネット業界全体を盛り上げる取り組みをしました。その一環で力を入れていたのが、SNSのオープン化と独立系ベンチャーキャピタルへの投資です。

それまで、スタートアップが出資を受けるのは銀行や証券会社の子会社である金融系のベンチャーキャピタルが主流でしたが、僕らが資金支援したことで独立系ファンドが増え始めました。そうして彼らが投資をすることでインターネット業界の裾野を広げ、ソーシャルゲームなどの事業をする企業が増え始めました。SNSのオープン化をはじめベンチャー企業全体のエコシステムを作ることに20代後半は注力していました。

――すごく濃い20代を過ごされていますね。

恵まれていたと思います。当時は、インターネットでリスクを取る人が少なくて、空いているフィールドがたくさんあったんです。日本でPCのインターネット利用者が1500万人くらいだったのが、ガラケーが登場して3000万人に増え、さらにスマートフォンの誕生で6000万人を超えました。この、大きく成長するマーケットの渦中にいたことは、純粋に楽しかったです。

自分の仮説に、時間と知恵を絞って挑戦する

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――チャンスは自ら動くことで手に入れられるものだと思いますが、小泉さんが意識的にされていたことはありますか?

大切にしているのは、社会に対する仮説を個人として持てるかどうか。自分たちで仮説を持って動かないと、どうしても受け身になって社会の波に流されてしまう。僕は仮説を持ちながら、自分が波を起こす側にならないといけないと思って行動をしてきました。

ここでぜひ若い人たちに伝えたいのは、仮説を持つ力は若い人の方が優位だということ。たとえば新しいサービスが出たときに、これはヒットするのか、人が使うのか、使わないのかという仮説は圧倒的に若い人の方が立てやすいですよね。センスが研ぎ澄まされていると言いますか。

コミュニケーションサービスはカジュアルなものに移り変わっていくのはわかっているけれど、年を取ると感度は鈍ります。若い人の仮説を立てる力はアドバンテージになるので、自分の仮説に対して可能な限り時間と知恵を使って挑戦してほしいです。

ミクシィもメルカリも、最初から生活者の気持ちがわかって立ち上げたのではなく、おそらくこのサービスがあれば、多くの人が救われるんじゃないかと考えたのがスタートです。

SNSの登場によって、受け取ることしかできなかった情報が自ら発信できるようになったから、ミクシィはコミュニケーションの革新的なプラットフォームになると思ったし、スマホの登場によって、物の売買に革新的な変化を生めると思ってメルカリを作りました。

インターネットやテクノロジーは、個人がエンパワーメントされるためのもので、個人が強くなる、その人らしい人生を送れるようになるために存在しています。だから、今後も伸びるのは、人がエンパワーメントされるようなサービスやテクノロジーで、それが社会を変えていくと思っています。

仕事にフルコミットして頑張る姿勢は評価される

――小泉さんは20代のときに、しんどかった経験はありますか?

実は僕、社会人1年目のときに自殺をしかけたんです。当時、大きめのプロジェクトを任された僕は、フルコミットして朝から晩までとにかくがむしゃらに働いていました。でも、その企業の上場が直前に近づいたある日、財務局に登録するために持って行った資料にミスがあったんですね。前日も朝方までその資料を確認していたし、ずっと一生懸命やっていたのに大事なところでミスをしてしまった。

すぐに会社に戻って資料を修正しないといけなかったけれど、毎日これだけ頑張ってきたのに自分はなんて仕事ができないんだろうと、自分のダメさ加減が怒りから辛さに変わってしまって。号泣しながら車に飛び込もうとしました。

でもその直前で、僕が死んでも世の中の何のためにもならないと、ハッと我に返った。そこで、誠実に謝って、最後まで一生懸命やろうと心を入れ替えました。

結局、クライアントからは怒られることもなく、その日のうちに資料の提出も実現して、案件は成功しました。後日クライアントに、なぜあのとき怒らなかったのかと聞くと、「いつもすごく頑張っていたから、別にそれくらいのことで何とも思わないよ」と言ってもらえたんですね。

それ以降、何か辛いことがあっても、精神的に追い詰められたあのときの辛さに比べたら、今の辛さは比ではないと思えるようになりました。この20代での辛い経験が、今につながっています。

――ギリギリまで働いて自分を追い込んでいたからこそ、しんどく感じた。

追い込んでいたし、自分に期待していたんですよね。絶対に成功させるぞと。ただ、社会はそんなに甘くなかった。自分に失望したけれど、仕事にフルコミットして一生懸命取り組んでいた姿勢をクライアントが評価してくれたことで、自分の働き方は良かったんだと思えました。これは、その後のベースになる考え方を作ってくれた経験だと思っています。

エンターテイメントと街づくりを再定義したい

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――これから小泉さんがやりたいことを教えてください。

興味があるのは2つあって、1つはエンターテイメントを再定義すること。今後テクノロジーが進化していくといろんな領域で効率化が進み、おそらく人は週5日も働かなくてよくなる社会が来ると思うんですね。すると増えるのが“余暇”です。

ここで問題になるのが、社会から必要とされている、要は仕事が充実している人にとって余暇はいいものだけど、仕事がテクノロジーの恩恵で減ったときに社会から必要とされていないと感じる人たちは、余暇が増えると仕事もないし生きる希望がなくなってしまうこと。

そのときに肝になるのが「心の豊かさ」です。心を豊かにするためには、スポーツや音楽、芸術などのエンターテインメントや文化活動をリッチにする必要があるので、まずは鹿島アントラーズの社長として、サッカーの切り口からエンターテイメントをアップデートしたいと考えています。

もう1つは、街づくりです。あらゆるところにネットワークが張り巡らされ、インターネットにアクセスする感覚がなくなっていくと、街の作り方はガラッと変わると考えています。

ネットワークやテクノロジーを使った街づくりに「スマートシティ」がありますが、日本や世界で議論されているスマートシティはデベロッパーや行政が主導になって街をデザインし、そこに人間が合わせにいくスタイルです。しかし、人口が減少する日本では、その街づくりは人口の多い東京でしか通用しなくなります。

これから必要なのは、人間が主体となってネットワーク化された新しい社会や街を作ること。人がエンパワーメントされるのがテクノロジーの良さだから、人が中心の新しい街を作りたいと考えています。

――そうなると、地方は可能性の宝庫だと思いますか?

まさに、テクノロジーやインターネットは地方の方が相性はいいから、まずは鹿島アントラーズのある鹿嶋市でクイックに実験しようと考えているんです。悩んでいても始まらないし、前に進めばわかることがたくさん出てきますから。

街づくりもそうですが、何かを成し遂げるための手段として複数の選択肢があったとき、そのうちの1つを試してうまくいかなかった場合、それを失敗と捉えるのか成功確率が上がったと捉えるのかでは、大きな違いがあります。

僕は、すべての選択は成功へのプロセスだと信じているので、行動を起こし続けることでより良い社会作りに貢献したいと思っています。


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