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運命の夏

河川敷を歩いていたら、水面にきらっと光るものがある。音楽をヘッドホンで垂れ流しながら、私は前のめって水の中を覗く。知らない魚が、ちらちらと泳いでいる。その白い腹が、陽の光に反射してきらきらと光っている。 全部終わったんだ、とふと思う。 去年の今頃は勉強尽くしだった。だって受かりたかったし、やりきりたかったし。でも周りの子たちは私よりもっとやってるみたいだった。それを知ってからは、燃え盛っていたやる気は日を重ねるにつれてどんどん凪いで消えていった。10時間やってもたりないの?

    • rockin’on 2024/5

      「カートコバーン 没後30年」 表題に目を奪われた。モノクロの表紙と、鮮烈な赤で縁取られた文字。手に取るとずっしりと重たい。今月の、ロッキンオン。 捲って捲って、ひたすら読んだ。知っていた話も知らなかった話もあった。あのころの写真、あのころのインタビュー、歌、レコーディング、ドラッグ、アルバム。文字を追いかけているうちに何もかもがなだれ込んできて、もうだめだった。読み終わったあと、顔を上げて書店を見回すが、思考が完全に紙面に取り残されてしまっている。歩き出してエスカレーター

      • 海がきこえる / 再上映

        なにがなんだかわからず、ただ涙が出て堪えるのに必死だった。淡々と、しかし匂いや手触りや空のかたちや海の音がはっきりとみえる、そんな作品だった。海がきこえた。 ジブリが大好きだ。 小さいときから金曜ロードショーでやるたびに、修学旅行のバスの中でビデオが再生されるたびに、食い入るように観た。でも、この作品は見たことがなかった。ネットニュースで再上映をBunkamuraで行うことを知り、行こうと思った。まだ、春が始まったばかりの頃で、私は福岡の実家にいた。 劇場はビックカメラの上

        • 2023 best books

          日記に書き溜めていた感想たちをそのまま抜粋します。2024年もいっぱい読むぞ。 ①みどりの月  角田光代 申し訳ないことに、この本は私の中でダントツの寝落ち本である。なぜって、通しで二十ページも読めたためしがないからだ。しかし、誤解はいけません。決してつまらないものではない。 みどりの月、かかとの下の空、と2作品が収録されているこの本は、とにかく怠い。温い。ほこりっぽい。現実的。ありありと、人生の怠惰な部分や、なまあたたかいのや、ぼんやりと湿っているのが描かれていて、とろり

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        運命の夏

          原点に戻る

          つかれた。つらかった。漠然とした不安やさみしさはどうしてこうも襲いかかってくるのか。安心しようと息を吸っても、喉のところで貼りついて、ひりひり痺れる。何かがないと、何かにすがりつかないと、やっていけない時がある。それが今だった。 たすけて、と思いながら久々に懐かしい漫画を読んだ。本棚の一角を陣取る、大好きな作品。背表紙のキャラクターたちをなぞって、作者の名前をなぞって、涙が出た。大好きな、死ぬまで忘れないであろう漫画だ。記憶が震える。想い出がきらめく。 今じゃ有名すぎて、

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          All about lily chou-chou

          リリイシュシュのすべて / 岩井俊二(2001) 相も変わらず、盛大にネタバレ&衝動書き 二限休んで全部見た。言語化出来ない感情が渦巻いていっぱいいっぱいだ。体が熱い。想いが熱になって身体中を駆け巡っている。凄いものを見てしまった。きっとこの映画以外で二度と同じような気持ちを味わえない。苦しくて、耐えきれなくて、抜け出せなくて、それでもどこか輝かしい。 ストーリーは最後まで救いがなく、苦痛の連鎖のようだった。つらくて早く終わって欲しいと何度も願った。埃っぽい閉塞感、田園の

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          一生飽きないこと

          本を読むのが好きだ。文章がなかったら、誇張なしで今の私はここにいない。 小学生の時は毎日暇だったので、学校から帰ってランドセルを置くとすぐ本を開いた。本棚は畳の部屋にあり、右のすみっこで静かに鎮座していた。大きな窓を背にして本棚の端に陣取り、ページを開く。始まっていくお話に、しずかに息を詰める。 リビングから死角になるその場所は、絶好の読書スポットだった。とても気に入っていたので、親は私が見つからないと必ずそこを探した。たいてい、ちゃんとそこで背を丸くして、本を読んでいたら

          一生飽きないこと

          追憶の中の

          ツイッターがなくなったらやばい、と思い、日曜日にマストドンやその他諸々のアプリケーションのアカウントを作った。が、今日になって復旧(?)したらしく、なんやねんイーロンマスクの気持ちで腸が煮え繰り返りである。 ま、まだAPIがどうのこうのあるみたいだけど。 私、数年前にスマホを持った。初めてインターネットを手のひらの上に乗せた。ずっと憧れていたのはツイッター。知らない人と繋がり、好きなものを共有し、知らない創作物に涙し、何度も何度も夢を見る。幸せな日々だ。スクリーンタイムな

          追憶の中の

          チェンソーマン 漫画第一部感想メモ

          正直に言えばよくわからなかった。でも読み終えたあとに熱く残るものがあったのは感じた。会えて良かったし読んで良かったし素晴らしい作品だったと思った。 まずカットひとつひとつや構成、演出が素敵でセンスが凄い。そして、まともであることの愚かさ。救いのない現実的な展開。死は平等に来て、誰もが苦しむもの。絶望が重なっていくし、ごちゃごちゃでもう目も当てられない感じになっていく。でもデンジが何度も立ち上がるのが、チェーンソーマンになってくのが、凄くかっこいい。特に最後の終わり方が大好きで

          チェンソーマン 漫画第一部感想メモ

          amebic

          盛大にネタバレ。というか衝動書き 怖かった。とにかく恐怖で、あ、大丈夫なの?死んでしまったのではないの?彼氏は誰?婚約者は誰?もしかしてすべて「私」の分裂したものが表す幻覚?とか思って読後ぐるぐるした。なにより、錯乱したときの文章が読みやすくて、あこれ考えるわ、と思ったし、分裂するかんじ、身体の一部分であるものが自分のものではなく離れてある感じ、すごい分かる。もしかしたら誰だってこんなふうに狂ってしまうのかもしれない。というか人間の深層にはこういう狂乱が潜んでいるのでは。

          amebic

          村上龍さんについて

          久しぶりに本を読んだ。 音楽をシャッフルで垂れ流しながら夕食を食べている途中、ハッと思い立ち本棚の前に行った。なにも考えずにすらりと抜き取ったのはまだ一度も読んだことがない小説、村上龍さんの69。 食卓まで戻り、単行本のピンクの表紙を見ながら夕食をかっ込んだ。何がかは分からないが、私をとんでもなく急き立てるものがあるのは事実だった。時折、こんなふうにどうしようもなく本が読みたくなるのだ。それも特に、村上龍さんの本が。なぜ?それはたぶん、私が彼の世界にひどく惹かれているからに

          村上龍さんについて