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追憶の中の

ツイッターがなくなったらやばい、と思い、日曜日にマストドンやその他諸々のアプリケーションのアカウントを作った。が、今日になって復旧(?)したらしく、なんやねんイーロンマスクの気持ちで腸が煮え繰り返りである。

ま、まだAPIがどうのこうのあるみたいだけど。

私、数年前にスマホを持った。初めてインターネットを手のひらの上に乗せた。ずっと憧れていたのはツイッター。知らない人と繋がり、好きなものを共有し、知らない創作物に涙し、何度も何度も夢を見る。幸せな日々だ。スクリーンタイムなんて知ったこっちゃない。
でも、今、ツイッターが危機に直面し、思い出したことがある。私の原点は、もっと昔、あの場所にあったんだと。

小学生のとき、欲しくてたまらなかった3DSLLをサンタさんに貰った。嬉しくて嬉しくて、ボタン以外の空白にお気に入りのシールを貼り付けてた。ベタベタと、表にも裏にも。いまだに触ると粘り気があるのは、その名残りだ。
サンタさんから同時に送られてきた、どうぶつの森のカセットしか持ってなかった私は、それで日々プレイして遊ぶも、すぐ飽きる。天性の飽き性なのだ。そこで3DSに内蔵されてる、元々のアプリケーションを漁り始めた。ゲームメモでしょ、フレンドリストでしょ、すれちがい通信、顔面シューティング、ARゲーム。全部、本当に大好きだった。
その中でも、私はインターネットブラウザに手を出した。だって、インターネットってあれじゃん、なんでも調べられる図鑑みたいなやつじゃん。本好きの私は知ることがすごく好きだった。図鑑も、辞書も、何回も読み込んで、脳に叩き込む。それを大人に披露すると、よく感心された。それが嬉しかったし、知っていくことは満たされることだった。

インターネットブラウザは、言葉通り未知だった。時代もあって、混沌としていたのもあるし、とにかく面白くてたまらなかった。夜になって、1時間。親に認められたゲーム時間はネットサーフィンに勤しんだ。
そこで、夢小説なるものを見つけた。
小さい時から、本が好きで、よくその世界に行ってみたいと思っていたけど、本当にそんなことができるなんて思っていなかった。でも、夢小説の中では、私はしっかり、その次元にいた。文章の中で、鮮明に生きていた。
本が好きで想像力が盛んだったのもあって、私はその世界に溺れてゆき、中学になる頃には徹夜して読みあさるまでになった。悲しくて、泣いて泣いて腫れた眼で登校する朝。胸いっぱいの幸せ。画面の向こうの、好きな人の、そっけない態度。
全部、触れられるわけじゃないのに、液晶越しに、ありありと想像出来てしまって、つらかった。本気で好きだったから。

いつからか、あの世界を忘れていた。それはたぶん、スマホを持ち始めた頃で、3DSよりswitchやプレステが出回り始めたとき。私はもっと最先端の世界へ飛び込んでゆき、古いランキングサイトやだれかのホームページを辿ることはなくなった。
あんなに大好きで、心から追いかけていたのに。
そう考えると、なんて薄情なんだろうか。

今回ツイッターが危機に瀕し、私のアカウントも制限がかかった。そうして改めてスマホを見つめると、さてツイッター以外にやる事なんてなんもない。インスタも、ラインも、ゲームも、いじってても暇で仕方ない。それなら本読んだ方が何倍もマシだ。そう思って画面を閉じ、自室に行く。
けど、なんだか本も新しいのがなくって暇で、すぐに閉じてしまった。なんだかな、やっぱツイッターしかないんかな。そう思って、ガラッと開いたベッド下の収納に、見慣れた白い背面がたて掛かって見えた。
3DSLLか。
パカっと開けると、充電がない。すぐさまLLの傍の、ゴムでまとめてあった充電器を挿す。しばらくして、赤いランプとオレンジのランプがともり、液晶がぼんやりと明るみはじめた。
ひさびさの景色だ、と思った。

指が覚えていた。インターネットブラウザを開いた。一瞬、読み込みがあって、サイトが現れた。私が最後に読んでた長編のページだった。
あのころ、夜遅くまで布団を頭まで被って読んでた小説。布団の中が暑くてたまらなかったのに、耐えてたバカな若い自分。その熱でさえ、二次元と三次元の境目を曖昧にしているような気がしてた。すべてが大事だった。
あの夜が、恋しく思えた。胸がきりきりした。
部屋の窓を開けて、ブラインドも開いて、小音でつけてたラジオは消して、ベッドに横になる。薄いブランケットを被って、充電コードを引っ張ったまま、潜り込む。
そうして読んだ文章は、あのころにタイムスリップしたみたいに、なめらかに心に入り込んできた。脳裏に、見慣れた景色が浮かぶ。知ってる場所、知ってる人、好きな世界。
ああ、これだったな、私のはじまりは。

結局、その日は夜遅くまで読んで、私は泣いたり笑ったりドキドキしたりして、眠りについた。ベッドサイドの電球のやわい橙色がやさしかった。


私の大好きだった世界は、たぶんもう、あまり栄えてはない。私がツイッターに行ってしまって、忘れていたように。ランキングサイトや個人ホムペは、消えゆく。他のアプリケーションに飲み込まれつつあるのだろう。
でも、全部消えてほしくない。わずかでもいいから、残っていて欲しい。黒歴史と言われるものであろうとも、見たくない過去の産物だろうとも。
私、ほんとに大好きだったのよ。

今じゃ、どこにもいかないで、消えないで、と思っても手の届かないものばかりだ。時代の速度が早すぎちゃって、東京を歩く人たちの歩幅もせわしなくて、私は追いつくのが精一杯だ。

ツイッターもいつか、別のものに変わるだろう。でもすべてが消えて無くなることは(イーロン次第だが)ないと信じたいな。あのランキングサイトのように、この場所も私の大好きな、生きていた時間の一部だから。

だからどうか、消えないで。液晶越しの夢を見させていてほしい。私はいつまでも、小さい脳みそでありえもしない世界を見ているよ。死ぬまでずっと。心を震わせて。

2023/7/3 (月)

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