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同じ穴のむじな

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大学に入学し、アパートに下宿したが、「おんな」に翻弄される毎日。
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#天文部

同じ穴のむじな(6)マスカレード

同じ穴のむじな(6)マスカレード

小西由紀とのその後の進展はなかった。
わかったのは、彼女が「気分屋」だということだった。
天文部の例会で顔を合わせて「あのこと」に触れてもそっけなかった。
「あたしね、ちょっとおかしくなってたんよ」
「おかしく?」
「もういいでしょ」
こんな具合で、取り付く島もなかった。

今年の天文部の合宿は花背(はなせ)の大悲山(だいひざん)付近のポイントでキャンプすることになった。
本田さんが前に行ったこと

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同じ穴のむじな(4)夕陽

同じ穴のむじな(4)夕陽

赤川鉄橋を貨物列車が、牛のよだれのように長々と、カタンコトンと時を刻むように進んでいく。
西日(にしび)を背にしたその光景は、この淀川端の堤防からのおなじみの景色だった。
このゴミ箱のような街にあって、唯一といってもいいほどの自慢できる景色だった。

おれは、授業が引けて、部活動もない日には、こうして堤防を歩くようにしていた。
赤川鉄橋の反対側には豊里大橋という「斜張橋」が、これまた美しい点景を添

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同じ穴のむじな(2)作家の部屋

同じ穴のむじな(2)作家の部屋

机がなかったので、天文部先輩の本田昭(あきら)さんから折りたためるデコラ天板付きの机を頂いた。
椅子も付けて…
それを本田さんのお兄さんが西三荘(にしさんそう:京阪電車門真市駅の次の駅)の実家から軽自動車で持ってきてくれたのである。
「ありがとうございます」
「いや、うちも助かってんねん。邪魔で、ほかそう(捨てよう)と思ってたとこやから」
本田さんのお兄さんもそう言ってくれたのだった。

「すごい

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