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ブックガイド

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読んだ本のまとめ
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#読書

2024/09/02ブックガイド デッドライン

デッドライン
千葉雅也

傑作青春小説と言っても過言ではないかも知れない。物語の主題の、主人公がゲイだとか、卒論に追われるだとか、哲学がどうのこうのはこの際置いておく。なぜならよくわからないから。ただ、この金のある学生生活を謳歌しているという主題とはズレた視点で物語を読むと単純に面白い。小難しいことは脇に置き、テクストの現実に従う。保坂和志のような緩い時間の流れと、映画を撮ったり酒を飲んだり性に奔

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2024/08/29ブックガイド 無銭横町

無銭横町
西村賢太

「てめぇ、この乞食野郎!チリ交まがいの、せこいバタ屋商売をしてやがるくせに、いっぱしの古書店ヅラをしてんじゃねぇよ!どうせこんな場所でのしがない雑本売りじゃ、すぐと惨めに店を畳むことにもなるだろうぜ。借金かかえて首吊って死ね!」名文である。孤高の私小説家、西村賢太の短編集。その表題作の中で、古書店の店主相手にこの暴言が飛び出す。その後、走って逃亡し、この店を二度と利用できない

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2024/08/21ブックガイド エラー

エラー
山下紘加

大食いフードファイト飯テロガールがクイーンになる物語。朝の空腹時に一気読みしたけど、腹が減るどころかもう何も食べれないと思うほど満腹になる。読んでるだけで。サクサク読めるし筋も分かりやすいのに、どことなく不穏が立ち込めていて面白い。プロデューサーとの関係。水着。同級生。不正。彼氏の謎の熱意。徐々に変わっていく主人公の体調。便意。さまざまな不穏な要素は回収されず、意識が切れるよう

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2024/08/20ブックガイド ファイトクラブ

ファイトクラブ
チャック・パラニューク

言わずと知れた、カルト的人気を誇る大傑作映画、の原作。ちなみに映画は未視聴。俺以外に、原作のみにしか触れてない人間はいないんじゃないか。原作厨。殴り合いの中にこそ生がある、と信じて疑わない人間達の破滅とロマンス。社会への不満を口にするより、自分の生きたい生き方を生きてみることを教えてくれる指南書。「人は人にすぎず、出来事は出来事にすぎない」というラインに救

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2024/08/12ブックガイド ふりょの星

ふりょの星
暮田真名

川柳のビッグバン!わかりやすいけど難しい。意味のないことをどんだけかっこよく言うか?いや、それっぽく言うか?それも当てはまらない気がする。強いて言うならブッとんでる。謎の言葉で章立てされていて、最初の章は、OD寿司。絶対シラフじゃない笑 意味わかんないのになぜかグッとくる力技。けっこうヤラレタ。「アサガオに寿司を見せびらかしていい?」「おいしくて強い煙草になりなさい」「おそ

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2024/08/10ブックガイド 暇と退屈の倫理学

暇と退屈の倫理学
國分功一郎

なぜ人間は暇と退屈をしてしまうのか。本書はその原理論から始まり、系譜学、経済史、疎外論、哲学、人間学、そして倫理学と章立てされていて、非常に非常にわかりやすく暇と退屈を紐解いていく。ややこしい名前の哲学者やらなんやらの引用が続くが少しも退屈しない。付箋を貼らずに読んだことを死ぬまで後悔するレベル。人間は不幸を求めている。ウサギ狩りに行く人にウサギを渡すとちょっと嫌な

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2024/08/01ブックガイド ケチる貴方

ケチる貴方
石田夏穂

度を越えた冷え性の持ち主が主人公の「ケチる貴方」脂肪吸引に取り憑かれ、ダウンタイムに至上の喜びを見出してしまった女が主人公の「その周囲、五十八センチ」の二編収録。どちら話も、コンプレックスの解消のために常軌を逸した努力をする様が描かれている。冷え性の主人公が、人の為に行動すると体が温まるシステムに気づき、そこから雑務やらを受け入れられようになる過程の、人の為と見せかけて自分

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2024/07/31ブックガイド 爆弾

爆弾
呉勝浩

守るものがないイカれたボマー、スズキタゴサク。対するは奇妙な名前の警官たち。警察の不祥事や世間の目、防げなかった爆発。それに対する市民の反応や、警察内での対応のディテールが細かくて非常にリアルを感じた。伏線も多く、こんなにすべての文章に意味を持たせられる技量に脱帽。第二部から始まる、類家とスズキの舌戦が凄まじい。鬼のテンポ。オニテンポ。ストーリーも普通に良かった。「今のおれの表情は

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2024/07/28ブックガイド 乙女の密告

乙女の密告
赤染晶子

芥川賞受賞作。ドイツ語の勉強をして、アンネの日記の暗唱に精を出す乙女が主人公。主人公も密告されアンネの日記の内容とオーバラップしていく。前半はコミカルにスルスル進んでいくが、後半は『わたし』『他者』を通して自分を思い出すことに焦点が当てられている。文学とは、「お前はお前なんだよ」ということをいかに婉曲し、言葉や品を変えて伝えていくことなんだと思った。噂の広まり方、密告、次は

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2024/07/25ブックガイド 花腐し

花腐し
松浦寿輝

芥川賞受賞作である花腐し、と受賞後第一作のひたひたとの二編からなる本作。花腐しは去年映画化もされている。ひたすら暗い。借金、裏切り、寝取られ、トラウマなどなど目を背けたくなるような出来事が生々しく描かれている。正直、最初はつまらんかなって思ったけど、訳ありな裸の女が登場してからはガンガン読めた。自分では経験できない、胸を抉るような痛みとエロが文学にはある。感謝!

2024/07/22ブックガイド 生きのびるための事務

生きのびるための事務
坂口恭平

自分で作品をクリエイトしてる人は必読。筆者の坂口恭平が、心の中の事務マン、ジムと『好きなことだけをして生きて行く』ための事務を超超超超具体的に設定。将来の夢を持つためには、将来の現実の生活を思い描くことが必要。円グラフを書いて、現実の生活とすり合わせ、行動に移せば、誰でもすぐに成功!すぐに海外で活躍!合言葉は、どうせ最後は上手くいく!いやそんなわけねーだろ!って思

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2024/07/20ブックガイド 一輪

一輪
佐伯一麦

三島由紀夫賞受賞のアルースボーイがめちゃくちゃ良かったんだけど、その続編のような本作。トレンディドラマがそのまま文学になっている。自伝的な側面が強く、やっぱり他人のうまくいかなかった恋愛の話はなんぼあってもええな、と思いながらサクサク読めた。喫茶店で時間を忘れて話し込むなんてリアルっぽいけど、まるっきりフィクション。現実は話すことなさすぎて気まずいだけ。いや、俺の経験が少ないだけ

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2024/07/16ブックガイド 眼ある花々

眼ある花々
開高健

タイトル、装丁、薄さ、すべてが良すぎる。常に携帯しておきたいほどクール。文体や言い回しが瀟洒で軽妙洒脱。開高健になりたい人生だった。この紀行文には全てが詰まっている。花、酒、釣り、戦争、歴史、料理、地理、ソバ、茸、宿、季節、神話、人々、言語、植物、知識。たった128ページ。至高の一冊。人目につく場所でポケットから取り出したい本ランキング1位。ただ解説はまじでよくわかんなかった

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