Vaio Stera ~転生先で推し変しかけてる~ 1章#1「普通のVtuber好きがデジタルなキャラクターに転生して推しの配信がしばらくおあずけになるのがずっと続く事になる始まりの回」
前回
「ああ……今日も推しがてぇてぇなぁ……ゆいたんの配信を見るだけで今日も幸せだぁ……」
VRヘッドセットを被り、推しのVチューバーの配信に夢中になっているのは、一般のVチューバー好きの男性、創田結人(そうだゆいと)。
彼は普通に可愛い美少女のVチューバーが好きな、普通の人だった。
Vチューバーとは、簡単に言えば、アバターを纏って動画投稿や配信等の活動をする人の総称の一つである。
Vチューバーになる人は国内外合わせて、世界中に約1万人程存在しており、今も尚一攫千金を夢見てVチューバーになる人は何人も存在している。
Vチューバーに対しては、ライトなファンから命を捧げる程のコアなファンが存在しており、ネットでは今日もVチューバーに対して熱を注ぐファンが多数存在していた。
創田結人も、今もネットで活動するVチューバーに対して熱心に応援するコアなファンの一人であり、「ゆいたん」が愛称であるVチューバーへ、自身が持つありったけの熱量を注いでいた。
「ゆいたん!! ゆいたん!!」
「わかゆい~」
「今日も可愛い(投げ銭10万円)」
「めっちゃ歌ステキーーー!!」
「サイコォだ! ゆいたあああああん!!」
創田結人は極めて(?)一般的なVチューバーのファンだった。
創田結人がどういう人物かというと、そこまで大層な人生は送ってはいない、ただの一般人である。
普通の一般家庭の家に生まれ。
普通に幼稚園から大学に通い。
現在では、普通の会社勤めの会社員である。
喧嘩したり、友達ができたり。親孝行をしたり。
それまでに色んなエンターテインメントに触れてきた。
そこで、彼が今楽しむエンターテインメントとして選んだのが、Vチューバーの配信だった。
選んだのは、偶然出会ったVチューバー、『篝火(かがりび)ゆい』ことゆいたんだった。
ゆいたんのVチューバーとしての経歴としてはこんなものがある。
初めはそこまで人気のあるVチューバーではなかったが、親身にファンへ接する事から、その魅力に触れたファンが、口コミでその事を伝え、ファンが自然と増えていった。
歌配信や、質問サイトに来た悩みを回答する配信、雑談配信等で彼女の持つ人の良さや「可愛さ」に触れていったファンが口コミを出し、それに合わせてファンも増えていった。
今では、VRライブに呼ばれる程の大きなVチューバーとなり、コアなファンが彼女の金銭面を支えるという、正に夢を掴んだといっても過言ではないVチューバーである。
その創田結人は、推しのVRライブにVRヘッドセットを被って夢中になっていた。
『投げ銭ありがとー! 毎回言ってるけど、10万円の無茶はしちゃダメだよ~!』
「おっしゃレスもらえたーー!!! 来月も節約して目指せ、10万円投げ銭!!」
推しからの言葉に一喜一憂をする創田結人。
『ゆいたんがよりビッグになれるように幸せにする!!』を心情とし、「推しといれて幸せ」をモットーに生きていた。
創田結人が『ゆいたん』と出会う前にはこんな人生があった。
『会社が辛い!! 癒しが欲しい!!』
『キャバクラとか怖いから無理! それなら! 前から気になってたVチューバーとやらを見よう!!』
『うおおおお!! Vチューバー最高オオ!! ゆいたああん!!』
本当に普通の人生しか送ってない彼の人生は、3行でまとめるとこんな感じではあった。
働いて、推しに貢ぐ。そんな生活を送っていた彼は、幸せな人生を送っていた。
ゆいたんと創田結人の間にはどんな事があったのかを詳しく述べていく。
創田結人は、最初は大手のVチューバーの配信を見るも、コメントが反応されない虚しさからか、個人Vチューバーの配信へ踏み入れる。そこで本当に偶然出会ったのが、『ゆいたん』だった。
創田結人は恐る恐るコメントをし、ゆいたんからの反応がもらえる事に喜びを覚え、そこからVチューバーにハマっていく。
ゆいたんの配信が無い時は他のVチューバーの配信にも見に行っていたが、それでも彼にとって一番のVチューバーが、ゆいたんだった。
最初は低額の投げ銭だったが、そこから段々と創田の投げ銭額が大きくなる。
千円、5千円、1万円、5万円、そして最終的には月に1度は配信に10万円を送るという、立派なVチューバー狂いと化していた。
もちろん、ゆいたん側も段々ともらう額が大きくなっていったのは把握しており、DMで計5回も創田は注意されている。
ゆいたん側も10万円を送られる度に創田に返金していた。
だが、そんな創田は送る額を小分けにして、結果的には10万円を送りつけるという、高度なテクニックも身に着けていた。
ゆいたん側は度々創田への対応に苦心してはいたが、ちゃんと金銭面以外でも、主に拡散やレビューをしてくれる事から、創田を1人のコアなファンとして見ていた。
そもそも創田側からは金銭以外では迷惑を被ってはいないので、ゆいたん側としても、創田を厄介な存在としては思ってはいなかった。ただ、金銭の送りつけに関しては『自身の生活を大事にして』と注意している為、そこをどうしようかと今なお考えているとの事。
ただ、創田とゆいたんの関係は今でも安定的に続いていた。
「今日の配信もサイコオオオ!!」
しかし、そんな彼に突然の人生最大の不幸が訪れる。
そして、ここから彼にとっての全てが始まった。
「ってなんだかいい加減、かなりけむたい……」
何が台所が焦げているんだろうか。火事になるのを心配し、ヘッドセットを外して台所に向かおうとした。
すると、かなり大きな火災が突如彼に訪れる。
「うわああ!?」
正に災厄だった。既に創田が住むマンションの部屋全体に火の手が回っており、完全に逃げ道が塞がれていた。
「どうしよう、なんで火災警報器が鳴らない!?」
何故か作動しない火災警報機に混乱しつつ、逃げ惑う創田。しかもベランダへ出れる部屋ではなく、入口から出ようにも入っただけで死ねる規模の火の手が上がっていた。彼が逃げる場所は完璧に失われていた。
「どうしよう死にたくない死にたくない死にたくない!!!! ごほっごほっ!」
煙が回り、いよいよ死期を悟る創田。そこで彼は、最期の行動に乗り出す。
「死ぬ、くら、いなら……!!」
創田は意識が遠のく中、辛うじてスマホを手に取り、推しのVチューバーの配信ページへ行く。
そして、彼にとって人生最後の投げ銭をした。
「ずっとすきで(投げ銭200円)」
そこから、創田の人生は幕を閉じた。
〇ー〇ー〇
デジタルが煌めく電脳の異世界で、とある集団が創田結人を見ていた。
しかし、そこで彼に起きた緊急事態を見て、驚いていた。
「やばい、『プロデューサー』が死んでる!!」
クラゲみたいな足の髪を持つ白い生命体は狼狽えていた。
「え、まずいでしょ!? なんとかならないの!?」
驚くピンクの髪の少女。
「その人がいないと、私達の文化が……!!」
「どうにかなんないの~、コロニー!?」
狼狽える青髪の少女と銀髪の美女。
「最終手段だ、アレをやれ、お前ら!! ライブの時間だ!!」
「こんな時にライブなの!?」
「でも、やるしかないんだね……。わかった!」
「マジでやるしかないよね~!! 急ごう!!」
ライブステージが地面から突然現れ、そこに立つ三人の女性。それぞれのポジションに付き、音楽ライブが発生した。
「いけ、お前ら!! ライブ名はーーー!?」
「「「 NEON THE WORLD!!!」」」
そしてピンク髪の少女が、前に出て叫んだ。
「再生数、稼ぎたーーーい!!!」
〇ー〇ー〇
推しの配信が見られなくなるなんて悔しい。創田結人は死んだ事を激しく後悔していた。
(死後の世界ってなにもないと思ってたけど、案外色々と考えれるんだなぁ……)
何もない世界で彷徨う創田結人。だが彼は死んだ事への後悔よりも、配信が見れない事への渇望が勝る。彼の中にはひたすらゆいたんへの渇望が存在していた。
(幽霊の状態でもかまわない。ゆいたんの配信がみたい。配信が見たい。はいしんがみたい。みたいみたいみたい……)
ひたすら推しの配信を渇望する創田結人。しかし、彼が幾ら望んでも、推しの配信を見る事は叶わない。
(どうしてなんだよ!! どうして火事で死ぬんだよ!!! どうして推しの配信を楽しみたいだけなのにどうしてこんな死にざまなんだよ!!! 僕が何をしたっていうんだよ!!!)
彼は色々な事を思い返してみるも、ある程度はあったかもしれないとは思う程度だった。
友達と喧嘩した事とか、アタックが凄かった人をフッた事とか、親と喧嘩した事とか。
アタックが凄かった人に関しては何故あそこまでアタックされたのか身に覚えが無く、フッたから家を燃やされたと考えたが、あそこまで火の手を彼女に上げられるものだろうか。
色々とは考えたが、どれも火災の原因に繋がるものとしては繋がりが薄かった。
要するに、逆恨みの線は無いと考えていた。だが創田にとってはそんな事よりも、ひたすら推しの配信が見たい欲望に駆られていた。
(ホントに普通の人生を送って、そして篝火(かがりび)ゆい……最高に可愛い美少女のVチューバーと出会って僕の人生は変わって、バラ色になったというのに……!! 毎月10万円を投げ銭するぐらい!! 10万円毎度送ってたらDMで三回ぐらい注意された事があるぐらい送ってたけど!!)
(ああ。神様。いや仏様だろうが何だろうが構わない。貴様らを倒し、現世へ蘇ってゆいたんの配信を見るまでは終われない!!)
そう思う創田。だが、今いる場所では何もできなかった。
(だけど死んだんだよなぁ……。このまま永遠に何もない空間を彷徨うのか。魂は輪廻転生して推しに捧げる事もできないのか……? それでいいのか?)
創田は絶望するどころか、自身の魂が煌めき始める。
(いや、良くない。例え赤ちゃんになって転生してでもゆいたんの配信を見る!! 彼女が更なる大型Vチューバーになる様を見るまで僕はこんなとこで終われない!!)
更に、輝きが強くなる。
(終わってたまるかあああああ!!!)
その輝きは、異世界にまで届く”炎”となる。
「うるさいぐらいに推しに渇望しているな、創田結人クン? そんなに推しの配信が見たいかい?」
(だ、誰だ!? 悪魔か!?)
「WAREか? WAREは神様みたいなもんだ。その神様からのビッグサプライズだ。喜べ」
(何でもします。この魂を捧げる事も誓います。だから、何卒望みを叶えて……!)
「さっき神様倒すって言ってただろキサマ……それはさておき、Yesと言いたいがNoプライズとはいかない。キサマには、代償として修羅の道を歩んでもらう事になるが、それでもいいか?」
(上等だ!! やってやる!!)
「早い返事だ、素晴らしい。それでは、”電脳異世界”へご案内しよう!!」
(でんのう……? ってうわああああ!?)
創田結人は、突然の光の奔流に巻き込まれ、光輝く世界へと入っていった。
〇ー〇ー〇
「もしもし、起きて!! 死んじゃだめだよ!!」
ピンク髪の少女は白髪で妖精のようなバーチャルキャラクターへ呼びかけていく。そのバーチャルキャラクターは、目を閉じて横たわっていた。
「大丈夫でしょうか……? 私達は上手く行きましたけど、異世界転生させるのってネット小説並に上手くいくとは思えませんが……」
「だって『コロニー』だよ? 心配ないって~」
心配する青い髪の少女と、対照的にのんきな銀髪の美女。
「WAREを信じろ。彷徨っていた魂を見つけたから、アイツは直にここに来る」
「うう……」
「ほれ見ろ」
「ゆいたああああんっっ!!!」
突然、白髪のバーチャルキャラクターが起き上がり叫びだす。
「「「は??」」」
「ぷっ」
三人の美少女はきょとんとした顔になり、クラゲの足みたいな髪の生命体は、少し笑ってしまう。
「え? 誰の名前叫んでるの?」と困惑するピンク髪の少女。
「いや、それどころじゃない!? ここはどこ!? 火災で死んだらどうなったの!? ここは……どこ……?」
白い髪のバーチャルキャラクターは、突然の状況を飲み込めず、ひたすら周りをキョロキョロし始めた。
そして、近くの女性達に声を掛ける。
「すみません……ここはどこですか……? なんか、凄いCGっぽい世界なんですけど」
「はい? えーと、ですね」
「デジタルな異世界だよ、ここは」
クラゲみたいな足の髪を持つ生命体が、声をかける。
「え、うわ!? ゆ、UMA?」
「どうも、UMAです。ウソだけど。いきなり巻き込こんですまんが、お前にはお告げが二つあるからよ~く聞け」
「えっ……? えっ?」
生命体は、白髪のバーチャルキャラクターの頭を両手でわし掴み、こう告げる。いきなりの展開で、創田の頭の中は混乱だらけだった。
「一つは、お前はバーチャルキャラクターに転生した。ゲームのキャラでも、VRSNSのアバターでも、好きに解釈しろ。二つは、己の世界のVstar文化生命を懸けた戦いに出る、このチームのプロデューサーになってもらう!」
「………転生? 異世界転生? ていうか、ぶいすたー?」
「それが、WAREがお前に提示した、修羅の道だ。言っとくが、途中で推しの配信は見れないぞ???」
名前を告げる。
「創田結人クン?」
「………はい?」
生命体から手を離され、白い髪のバーチャルキャラクターは自分の手を見る。
そして、近くに置かれてあった鏡台らしきものを見て、自分の姿を確認する。
そこには、羽が生えた、背の低い白い髪の美少年がそこにいた。
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