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ベルギーワッフル美味しいよね!ということで名前の秘密を調べてみた

ベルギー思い出エッセイ〈第一回〉

ベルギー、それは美味しい記憶。

子どもの頃、数年間、ベルギーに住んでいたことがあります。

ベルギーは美食の国として有名です。実際、ものすごくゴハンが美味しい国です。食材が美味しい、料理が美味しい、ベルギーをベルギーたらしめているのは日常的な美食であるといって過言ではないと僕は思っているくらい、ゴハンは美味しいのが当たり前っていう国です。
旅行先としてはもちろんのこと、実際に住んでみても、大型スーパーに並んでいる冷凍食品、子ども向けの駄菓子まで、本当に美味しいのです。安いものから高いものまで。料理が大好きで台所の実権を握っていた母曰く、安かろう不味かろうというものを探すほうが難しかったそうです。

そんなベルギーに住んでいた子どもの僕に、秋から冬にかけての、とっておきのお楽しみがありました。

焼きたてのゴーフルです!

GB(ジェーベー)という大型スーパーで、よく買い物をしていたのですが、レジのすぐ近くという好スペースに陣取ったスタンドで、その焼き菓子は、いつもとても良い匂いを漂わせていました。今日は買っていいよと言われると、小学生は一目散に店に向かうわけですね。お店のひとが、チビッコがちゃんと親と一緒に居ることを確認してニコッとしたら、こう言います。

「ゆんぬ ごーふる しょ、すぃるぶぷれ!」

なんかの呪文みたいですが、要は「あつあつのゴーフルをひとつ、ください!」というやつです。トトロのメイちゃんのお花屋さんのごとく、小銭を出して、良い子にして待っていると、お店のひとが、今まさに押し型に入っている焼き菓子を、紙にくるんで渡してくれます。小麦と砂糖の焦げる、甘い匂い。待ちきれないでうろうろそわそわ。時には、親のほうも誘惑に負けて、結局3人分を買うこともありましたっけ。
そんで、駐車場に着くまでに我慢できなくて、かぶりついちゃったりするわけです。

これがめっちゃうまい。

気温-5℃とかザラにあるベルギーの寒い季節に、ふかふかミトンの手袋の手で、あったかい素朴な焼き菓子を持ってかぶりつく。なんという贅沢!
澄んだ空気に、甘い香りの湯気が揺らめいて、鼻先に広がります。気をつけないと火傷するけど、外気温ですぐに冷えてしまうところが時間との勝負。外側はキャラメリゼのキツネ色。格子状の型に押しつけて焼くことで、厚い部分はふっくらしっとり、薄い部分はサクサクもちもち。たまにうっすらと飴も張って、しかも、所々、カリカリの砂糖の塊が入ってる。こいつが薄い部分に入っていると、これがものすごくうまい!今日は大当たり!

そんな思い出のお菓子ですが、さて、勘の良いかたならおわかりでしょう。このゴーフル、即ち日本では「ベルギーワッフル」として馴染みのあるものとなった、あのお菓子のことだったりするわけです。

ベルギーのゴーフル、日本のベルギーワッフル。

僕がベルギーから帰ってきて、数年ほど経ってから、日本でも「ベルギーワッフル」は見かけられるようになりました。懐かしくて、色々なところのを安いのも高いのも買ってみましたが、丸っこいタイプのも、日本人好みの、しっとりふかふか系の食感のものが当初は多かった印象があります。確かに出来合いや包装済みの形式で売る場合、アツアツカリカリの食感を提供するのは超難題ですもんね。

さて、それにしても気になるのは名称のことです。僕はといえば「ワッフル」というと、あのとても柔らかいスポンジ生地のどら焼き片面みたいなのにカスタードやチョコのとろーり系クリームが挟まってるモフモフふかふか美味しいアレだと思っていたので、子どもの頃に「ゴーフル」という名前で親しんでいたものが、日本では「ベルギーワッフル」という名前で広まっていくのを眺めていて、個人的には、なんか、だいぶ違和感があったのは事実だったりするんですよね。食感ぜんぜん違うやんけ、と。

ということで、ずーっと疑問だったわけなんですが、ちょっと調べてみるとフランス語とフラマン語の違いのようだということが分かってきました。
向こうでも「ゴーフル」「ワッフル」と二通りの呼び方があるらしいとな…なんということでしょう…!
しかし、本当にそうなのだろうか、日本人学校に通っていた僕にやりとりのある現地の知り合いさんはいないから生活者目線で確かめる術がない…どうしたものか…

そうだ、大使館に聞いてみよう。(無謀)

ということで、今年の夏に、思い立って、駐日ベルギー大使館の中のひとに質問の電話とメールをさせていただきました。(その節は、ありがとうございました)
SNSに載せても構わないと、ありがたくも快いお返事をいただきましたので、そのままスクショを載せたいと思います。

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なるほど、オランダ語ではワッフルとな。
ということは恐らくフラマン語も…?

ここで説明しとかなきゃいけないのは、ベルギーは何気に言語で真っ二つに割れた国だということです。国としてまとまってる民族と言葉が、北と南でがらっと違うのだそうで。フラマン語(オランダ語の方言のような言語)で生活するオランダ寄りのフラマン系と、フランス語(細かいとこでベルギー訛りがある)で生活するフランス寄りのワロン系、あとはドイツとの国境にドイツ語で暮らしている人たちなどもいて、かつてベルギーの植民地だったコンゴ系をはじめとするアフリカルーツのひとたちや中東などの移民が入る以前から、多言語国家だったわけですね。
(たまに無政府状態になったり市民にも政治嫌いを公言するひとが割と居る国民性というのは、このあたりが根っこにあったりするらしい)

首都ブリュッセルはEUやNATOの本部の存在もあってか、国連公用語であるフランス語が主流ですが、地理的にはフラマン語圏のなかにある飛び地みたいになっています。僕が住んでいたのは、ここですね。街区としても、まあバリバリのフランス語圏です。
ということで、首都ではゴーフル呼びであることが多いものと思われます。

とはいえ、僕にはフラマン語圏での生活経験はないので、一度は、ちゃんと何人かのフラマン系のかたに伺いたい部分でもあったんですよね。なんとかグーグル翻訳で当たりくらいは付けられるだろうフランス語ならまだしも、ちゃんと勉強したことのないフラマン語でググることは難しいので…
そう思いながら、調べものを進めていたところ、なんと十数年越しの疑問を解消できそうな手がかり発見。いや、思い立って、記事とか書いてみるもんですね。これについては、少し後のほうで触れたいと思います。

日本で「ワッフル」になった理由を想像してみた

さて、筆者は大学院卒業後、ちょっと販売系のバイトをしていた時期があるのですが、そのとき現場でやらかした数々の記憶のフラッシュバックはまあ今は置いといて、そこのショップでは日持ちする銘菓の類も販売していました。そんで、最初に優しい先輩さんに品出しを習ってたとき、その商品名が不意に目に留まったわけです。

風月堂のゴーフル。

あっ、と思いました。そうだ、この薄くてクリームあわぁく挟んでパリパリした美味しいやつゴーフルだったわ。ゴーフレット。
そんで仮説を立てたわけです。もしかしたら、日本だと、ゴーフルといえば「薄くてパリパリしたほうのゴーフル」というのがあって、ベルギーの焼き菓子が後から入ってきたとき、イメージの関係で、ワッフルという呼び名を採用したんじゃないだろうか、と。
或いは、大使館のかたに訊ねてみて、両方の名称が用いられ得ると分かった今なら、日本に持ち込む段階で、ベルギーゴーフルとベルギーワッフルと、日本語での語感や字面をみて後者にしたのかも、とか、色々と想像は膨らむわけですが。

これに関しては、どこにどう訊けばいいのか、そもそも商標とかそういうの絡みそうだし、なんか一介の食い意地張った市民が訊いてもいい話なのか、ちょっと自分の裁量を超えている気がして、まだ取材の真似事とか裏取りはできていません。なので飽くまでも、僕個人の想像の話です。誰か知ってるかたがいらしたら、ぜひとも教えていただきたいです…

因みに、ウェハース好きにはたまらないパリパリの銘菓ゴーフルの由緒ですが、公式ホームページの情報によると風月堂本店さんの創業が1747年、またゴーフル販売開始が昭和初期とあります。のちに、神戸や長野、甲府などの風月堂さんがのれん分けしたようです。いずれにせよ、日本でお遣いものとして定着するには十二分の年月が経っているので、日本で生まれ育ったひとにとっては「ゴーフル」というと、あの上品な食感のお菓子という印象が強い可能性は、大いにありそうですね。

ベルギーのゴーフルの種類

さて、ベルギーのゴーフルの種類についても、幾つか触れたいと思います。主に知られている系統は、以下の2つです。

ゴーフル・ドゥ・ブラッセル(ブリュッセル式ゴーフル)
しっかり型に収めて焼いた四角い形
しっとりやわらか優しい食感(表面サクサク系の場合も)
トッピングあり(粉砂糖はマスト!)
Google画像検索:gaufre de bruxelles
ゴーフル・ドゥ・リエージュ(リエージュ式ゴーフル)
タネ生地を型で押して焼いた丸っこくて不揃いな形
場所によってカリカリとふかふかのハーモニーが生まれる嬉しい食感
トッピングなし(生地中の砂糖のカリカリが最高のアクセント!)
Google画像検索:gaufre de liege

まずは記事初出のブラッセルのほうから。長方形で、ふかふかふわふわするパンケーキのようなタイプのゴーフルです。トッピングありの仕様上、提供するのに皿とナイフフォークが必要になる場合が多いので、カフェや専門店などで、テーブルについて食べることが主流になります。テイクアウトも、もちろん店舗によってはOKで、観光地にあるイートインでカウンター注文の専門店などは、夜店のお好み焼きのごとくパックに詰めてくれたりします。
ちなみにトッピングは、粉砂糖はデフォルトとしてかかっていて、その上でホイップクリームやアイスクリーム、フルーツ類、そして忘れてはならないベルギー自慢のショコラなど、多彩なメニューがあります。とか言いながらトッピングはなくてもOK!という自由度の高さも魅力かも。やっぱ、盛れば盛るだけ値段も上がりますからね…
ベースが同じタイプのゴーフルでも、トッピングがハムや野菜であったり、付け合わせにサラダや目玉焼きなどが盛られたものを、フランス語圏では「la gaufrerie(ラ ゴーフリエ)」と呼ぶようです。この単語で軽く画像検索をかけた結果を見るに、パリの専門店か、マーブルチョコなどをトッピングしたものも一部、la gaufrerieと表記する場合があるのが覗えて、食文化的に興味深いところです。

僕が回想で食べていたのは、リエージュ式ですね。屋台やスタンド形式での販売は、リエージュタイプが圧倒的多数だと思います。もちろん、スーパー等の食料品売場には、袋詰めなどパッケージされたものもあります。
どちらかというと、庶民食のお菓子は、こっちのタイプということですね。

このほかに、クッキー寄りの「薄くて格子目の細かいゴーフル」類もあり、大型スーパーや食料品店などでは、よく売られています。ラベル付きの袋やいわゆる惣菜パック的なものにみっしり詰められていて、食感は西洋の煎餅といった感のカリカリサクサク系、おいしいバターたっぷり使ってる風味。フランス語を雰囲気で読みつつ、Google先生で調べてみたところ、こいつはどうやら当時小学生の記憶が正しければ「la gaufre flamande(ラ ゴーフル フラマンドゥ)」や「les gaufres fourrées(レ ゴーフル フーレェ)」というタイプのようですね。数詞表記を統一してなくて申し訳ないんですが…
(リンクはGoogle画像検索の結果です)

さて、ここまでは、gaufreという単語の検索から、芋づる式に調べることのできた内容になります。しかし、ベルギーに限っての、ゴーフルについてのまとまった情報には、なかなか辿り着くことができずにいました。

そしてなにより、僕には、どうしても名前を思い出せない、上記の種類には当てはまらないタイプの、思い出のゴーフルが、もう一つあったんです。
気分はまさに、君の名は。の瀧君ですよ。大事な人!忘れたくない人!忘れちゃダメな人!誰だ、誰だ、誰だ、誰だ?名前は――

そんなゴーフルを、この記事を書くために調べていて、ついに発見!
やったぞ!

ワッフル呼びの謎を解く鍵

思い出のゴーフルに一番近いタイプの、la gaufre flamandeの画像検索結果を隈無く眺めていました。そしてついに、これは!と見つけた写真をクリックしたところ、Milcampsという、創業1932年の、ベルギーのゴーフル会社さんのサイトに行き着いたのでした。ここの企業ではベルギー各地から伝統的なゴーフルのレシピを集めて、それぞれ製造し、また新しい製品を開発もしているそうです。
そして、僕が欲しい情報は、ほぼこのサイトに載っていました。ベルギーの企業ということでフランス語で書いてあるとはいえ、コピペでGoogle翻訳に突っ込めば、すぐ読める分かりやすい文章ばっかりなので、折角ですから、公式HPのリンクを貼らせていただきたく。

Milcamps

Gaufresタブの中に、僕が探し求めていたゴーフルがありました。その名は「Galette」。小ぶりで、格子目もやや控えめ、クッキータイプとリエージュタイプの合いの子のようなサクサク軽い食感と、芳醇なバターの香りが大変魅力的な魔性のゴーフルでございます。一口ちょっとサイズなのが、また、実にニクイところですね。

お察しの通り、これ、僕の大好物だったんです。マスカルポーネや植物性のホイップクリームなどを思いきって乗せて食べると、めちゃくちゃ美味しいです。小学生当時は、もう毎朝これがいい!とか思ってました。
やっと出会えて名前が分かり、いま感動に打ち震えています…ありがとう、インターネット、Google先生…!
BGM、ラッドの「なんでもないや」をお願いします。ぼくらーたーいむふらいやー。

そして、同ホームページの会社名タブには、社史や創業者の紹介とともに、一目瞭然の形で、5つの地域の伝統的なゴーフルがベルギーの地図に写真を添えて紹介されています。美しい運河の町ブルージュ、日本人にはお馴染みアンヴェルス(アントワープ)、首都ブリュッセル、オランダやドイツ国境に近い町リエージュ、そしてフランスほど近く断崖の要塞そびえる川沿いの町ナミュール。興味のあるかたは是非、覗いてみてください。

僕が探し求めていたGaletteは、ナミュールタイプっぽい感じはありますね。単体での紹介ページには、田舎の伝統の味とあるので、トラディショナルでポピュラーなお菓子だったのかも。
ふわっとでも分かって嬉しいなあ…なんて素晴らしいんだ…

めくるめくゴーフルの世界へ…!

そして、ワッフル呼びの手がかりも、このサイトにありました。
企業ロゴの上を見てみてください。しっかり「1932 Waffles」と書いてあるのが分かりますでしょうか。先述の企業概要ページには、ブリュッセルと、ワロン系かつフランス国境に近いドゥール(Dour)、主に2つの拠点があると記載されていますので、フランス語圏をベースとする会社の筈なんです。しかし、ロゴにはしっかりワッフルと書いてある。つまり…?

これはますます、フラマン語圏ではワッフル呼びをする地域があるのでは?というなんちゃって仮説が、当たらずとも遠からずなのではという気がしてきちゃいますね。というか、そもそもフラマン語圏を主として馴染まれてたお菓子であった可能性も。これは奥深い、奥深いぞゴーフルの世界…!
ということで、どうしても気になるので、引き続きアンテナを張ってたいと思いますが、せっかく記事も書きましたので、当方、ベルギー国籍、或いは駐在経験者や現地在住者の方、はたまたゴーフルの歴史を調べたことがあるという方からの情報をお待ちしております。

ベルギーワッフルをゴーフルと呼ぶ状況とは?

日本に於いては、ベルギーワッフルと呼んだほうが通りが良いと思います。そのくらい、あの美味しいお菓子が定着してくれたのも、僕個人が一方的に思い入れているだけではありますが、喜ばしい限りです。お菓子メーカーやパン菓子製造業の担当者様、ありがとう…がとう…とう…

ちなみにガトーはフランス語でケーキのことです。カドーはプレゼント。
閑話休題。

なにはともあれ、記事に書いたお菓子は、ゴーフルにせよワッフルにせよ、どれも美味しい。作ったひとは天才だ、天才だろう、なあ天才だろおまえ。それでいいじゃあ、ありませんか。食の博愛主義者と呼んでくれ。

だけど、この記事をここまで読んでくれたかたが、もしもベルギーのフランス語圏に行くことがあったら、そして屋台や専門店であのお菓子を頼むことがあったら、ちょっと現地語と思しきお品書きの綴りを気にしてみてもらえたら嬉しいなと思います。
そして、そこに書いてある頭文字が「G」だったら、注文するときに、こんな短いフレーズを唱えてみてはいただけないでしょうか。

「ゆんぬ ごーふる、すぃるぶぷれ!」
「ゴーフルをひとつ、ください!」
「Une gaufre, s'il vous plait!」

専門店でメニューを指さすなり、勇気を出して明らかに現地向けにやってる屋台に突撃して、熱くてサクサクのか常温でしっとりしたのか、交渉しつつ選んでみるなり。
フランス語が分からなくても、発音が日本人丸出しでも、ちょっとゴーフル買うだけなら臆することはありません。なんせ当時小学生で今はフランス語ぜんぜん喋れなくなってる僕だって買えたんです、大丈夫!
ちょっとだけ勇気を出して楽しい旅の体験をしてもらえたら、この記事を書いた僕は嬉しいです。

ベルギーの伝統的なお菓子、ゴーフルに愛を込めて。

ヘッダー写真は、十年ほど前にベルギーを再訪したとき、ツアーバスの中で撮ったリエージュタイプのゴーフルです。
大好きなお菓子を語る記事ということで、note公式の「大好きなものを語るハッシュタグ企画 #とは 」に参加させていただいています。

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