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大定番ボードゲーム「モノポリー」を改革したい

 昨今の〝ボードゲーム界隈〟のオフ会では、新作を持ち寄っていろんなゲームを試すことが多くて、プレイ時間の長い古典作「モノポリー」は敬遠されがちである。
 今のモノポリーはちょっと可哀想な子で、00年代を境に「カタンの開拓者たち」に定番ゲームの立場を奪われてしまった。現代のモノポリーは、オフ会にも「持ってこなくていいよ」と言われるアイテムに成り下がっている。「モノポリーを遊ぶ会」にわざわざ行かないとダメってレベル。
 しかし個人的には、古式ゆかしいモノポリーというゲームが大好きだ。不利な状況からの一発逆転を許してくれるボードウォークとか、ヤケクソの速攻戦略のためにかき集めたライトブルーとか、権利書の1枚1枚にも言われ得ぬ思い出があったりなんかするもんである。

 そんなモノポリーは、幾度となくデジタルゲーム化されてきた。デジタル作品の出来はまちまちで、神ゲーとして崇められているタイトルもあれば、クソゲーとして吊るし上げを食うタイトルもあった。
 ところで現代って、自動処理の発達がスゴくスゴいことになってて、スゴいらしいじゃない。「機械学習」とか「強いAI」の話もよく聞くけどさ。スゴいよね(←よくわかってない)。
 そういうスゴい計算リソースをフル活用すれば、古典作である「モノポリー」の基本ルールを変えないまま、楽しさのエッセンスだけを抽出したデジタル版を作ることもできるんじゃないの? と思ったので、以下の内容を書き留めておきます。

そもそもモノポリーって何なの

 「モノポリー」は、世界恐慌の真っ只中に、アメリカで生まれたボードゲーム。すごろくの要領でボード上をまわり、購入した土地の上に家を建て、止まったプレイヤーから「レンタル料」を取ることで大金持ちを目指す。
 他のプレイヤーを全員破産に追い込むと勝ち。家を建ててレンタル料を増やすには、レッドやオレンジなど「カラーグループ」の権利書を揃える必要があるが、これはライバルと交渉して手に入れることが可能で、この交渉の駆け引きこそがモノポリーの醍醐味とされている。

 モノポリーに着想を得た後発のゲームもたくさんあって、デジタルだけど『いただきストリート』シリーズなんかは盛んに遊ばれている(日本ではモノポリー以上かも)。筆者はこっちも大好きで、特に『いたスト』の第1作は、8bit機のゲームとして最高水準のゲームタイトルだと思う。
 そんな中であえてモノポリーを選ぶ理由はなぜかというと、「あくまで交渉がメイン」というゲーム性に魅力があるからと、あとはやっぱり伝統があって、対戦競技としての認知が世界的に確立されているからだと思う。北米を中心に、カジュアル・プレイ人口の多さも見逃せない。

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(『ザ・シンプソンズ』より。一家はこのあと半狂乱状態に陥る)

Monopoly Pro(仮称)に提案したい実装

 現代のコンピュータの能力を使えば、モノポリーでも以下の情報をリアルタイムに算出することが(おそらく)可能である。

●交渉が今後一切行われず、ひたすらダイスロール・カードめくりだけを続けた場合の各プレイヤーの勝率(家の建設はセオリー通りとする)

 つまり、「現在のところ、プレイヤーAの勝率は15%、プレイヤーBは18%、プレイヤーCは7%、プレイヤーDは59%、プレイヤーEは1%ですよ」……みたいな数字を画面上に出せるってワケ(この場合、多分Dだけがカラーグループを独占していて、AとBには鉄道とかがある)。誰が有利で誰が不利か、数字が出て一目瞭然になる。
 この表示が、交渉中にもリアルタイムに変動し、交渉後のスタッツが前もって提示される。たとえばAとCの交渉で、プレイヤーAがレッド(中堅の色)、プレイヤーCがグリーン(扱いにくい色)を揃えることになる場合、Aの勝率が15→30%・Cの勝率が7→18%に跳ね上がり、逆にBの勝率が18→15%に、Dの勝率が59→36%に落ちる……みたいなことを教えてくれる(数字は全部仮のもの)。

「状況別勝率」の発想を野球から輸入

 着想は、野球の試合分析に用いられる「見込まれる勝率」という概念。これはたとえば、ノーアウト・走者なしの状況で二塁打を打つよりも、ツーアウト一・三塁の状況でタイムリーの単打を打つほうが、「見込まれる勝率」が向上するので、偉い。みたいな風に使われている。

 モノポリーの場合には、ビッグデータに基づかなくても特定の状況からの勝率を計算できるし、なおかつ交渉参加者がいれば、抽選によらずこの数字を操作できる(というか、その数字を操作することがモノポリーのゲーム性の根幹である)。だからこそ、この「状況別勝率」という概念を利用するのにより向いているんじゃないかと思う(用語が揺れててゴメン)。

 もっとも、現代のコンピュータの処理能力も無限ではないので、いくつかの設計上の配慮が必要かもしれない。「今後**ターン以内に勝者が生まれ得ない場合、そこで計算をストップする」とか。
 別に0.01%レベルの厳密性は必要ないわけだし。
 「家の建設はセオリー通り」と書いたけど、これは定義するのがちょっと難しそう。持ち金がギリギリのときにホテルを建てるかどうか、プレイヤーの個性が出るところだから(AIなら最適解を出してくれるけど)。残っているチャンスカード(と共同基金)の把握も大事だよね。

〝交渉の前提〟は可視化されるべきである

 この数字を参考に、プレイヤーは、交渉の内容を(お金などで)調整することができる。これなら経験が浅いプレイヤーも、自分がしている取引がどういうものなのか理解できるので、ゲームプレイの格差はおそらく縮小するだろう。
 Monopoly Pro(仮称)では、ただ単に「これとこれを替えよう」というのではなく、「お互いの勝率が**%ずつ上がるように交渉しよう」とか、「お互いの勝率が同率になるように交渉しよう」といった提案が行われる。あくまで利己的に振る舞うのか、それともサービス精神を見せるのかという、プレイヤーの個性が可視化されるのだ。
 「口八丁手八丁がうまいプレイヤーが勝つ」という面は、おそらく変わらない。しかしそれはモノポリーのゲーム性の大事な部分なので、あえて変える必要がないと思う。
 ギャラリーがああだこうだ言いやすいのも、eスポーツ/ブレインスポーツとしてはメリットに数えられるのではなかろうか。たとえば将棋だって、「奇策により勝利確率が30%→70%に!」みたいな、AI分析を交えた解説が人気なわけだし。

親切なデジタル化で本来のゲーム性を強調できる

 「徹底的に分析された対戦ゲーム」が面白いのかどうかについては、議論の余地がある。たとえば3×3の盤面で遊ぶ3目並べ、いわゆる「○×ゲーム」は引き分けになることがわかっており(勘の良い小学生なら、遊びながらにして気付いていたハズ)、あれが良いゲームだとは言えない。
 とはいえ、モノポリーに非公開情報はないが、ダイスロールがある。
 モノポリーのゲームデザインの根本を問うならば、その主要部分は、ダイスロールによる不確実性と、交渉や建設を通じて経営者をロールプレイする点だったはずだ。親切なデジタル化によってその部分が強調されるのは、むしろ良いことではないだろうか。
 セイバー指標ができて野球がつまらなくなったかといえば、そんなことはないわけだし。ついでに言えば、デジタル版が流行した場合、ボードのモノポリーを遊びに来るプレイヤーも増えると思う。

 徹底したスタッツ表示でモノポリーの戦略がどう変化するかにはたいへん興味がある。逆に、今日までの100年間に培われたモノポリーの戦略が正しいのだとしたら、それが証明されることにもなる。

おわり

 ……というわけで、ごくごく個人的にも「Monopoly Pro(仮称)」を遊びたいので、誰か作ってください。俺はめっちゃ弱いけど(1回だけ出た大会では全ゲームで破産)。
 異論・反論・オブジェクションも大歓迎です。特にガチ勢からのツッコミをお待ちしています。

※冒頭の画像はHorst Frankによる。 https://commons.wikimedia.org/wiki/File:German_Monopoly_board_in_the_middle_of_a_game.jpg

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