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【ダイヤルアップ探偵団】第1回 「ドピュ、ドピュドピュ」と果てた、ネットワーク・ハードの夢(セガ「ドリームキャスト」)

90年代末から今世紀初頭にかけて、ブロードバンドインターネットが普及する前夜の「ネット文化」に注目する連載。第1回のテーマは、インターネットモデムを標準搭載した初の家庭用ゲーム機である「ドリームキャスト」にまつわるアレコレを。

●本稿は、2017年10月に刊行された「懐かしパーフェクトガイド Vol.1」(ダイアプレス)掲載するため製作したものです。noteへの掲載にあたり、改稿・再編集を行っています。ただし、本稿中の情報は基本的に雑誌掲載当時のものです。

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 スマートフォン全盛の現代。「インターネットは危ない!」という認識は全国民的に共有されるようになり、親が子どものネット利用を制限、ときに監視する「ペアレンタル・コントロール」も普及している。

 いっぽう子どものほうも、LINEやツイッター、そしてソーシャルゲームを遊び放題のスマホを猛烈に欲しがって、いざ手にしたらタッチパネルのジャンキーに。ファミコンやゲームボーイの遊びすぎで怒られた経験のある30代としては、スマホをめぐる親子のそんなせめぎ合いに、なにか懐かしいものも感じてしまう。

 さて、スマホにかぎらず今では当たり前になったネットワーク接続を、ゲームコンソールとして初めて標準機能としたのがセガの「ドリームキャスト」である。

 自社の「湯川専務」をイメージキャラに抜擢した広告キャンペーンののち、1998年の年末商戦に鳴り物入りで投入されるも、当初は供給不足。その後はサードパーティの参入が本格化しなかったこともあり主流派となれず、数年で姿を消してしまった。

 このドリームキャストについての話題から、ナローバンド時代のインターネット文化を振り返る本連載「ダイヤルアップ探偵団」を始めさせていただきたい。

タダでネットができる『ドリームパスポート』

 徹底的にネットワークを意識して開発されたドリームキャスト。モデムを標準搭載しているだけでなく、ドリキャス本体には、電子メールの送受信やWebサイトの閲覧が可能な『ドリームパスポート』のディスクが同梱されていた。

 最初期にはゲームソフトのラインナップが貧弱だったこともあり、当初のドリームキャストユーザーのほとんどは、この『パスポート』でもっぱらネットワークを楽しんでいた。

 なんとこの『パスポート』では、プロバイダの利用料金が無制限かつ無料(2000年5月まで)。アクセスポイントまでの電話料金はかかるものの、電話線を自宅のモジュラージャックに接続するだけでインターネットが楽しめるというのは画期的だった。当時はこのドリームキャストこそが、インターネットの大海へ漕ぎ出すための一番手軽なアイテムだったことは間違いない。

 とはいえ、98年当時はセガ公式サイトのほかにじっくり読めるWebサイトも少なく、また有志ユーザーによる「ホームページ」にたどり着くのも困難だった。

 そこでコミュニケーションを求めて多くのユーザーが入り浸っていたのが、『パスポート』からアクセスできるチャットルームだ。当時小学生だった筆者も、持て余していたこの最新鋭ハードで、人生初となるオンライン・コミュニケーションに挑戦した。……ロクな話をした記憶はないが。

〝セガ公式〟チャットルームの実情は……

 セガが開設したチャットルームは、ドリームキャスト人気そのままに大盛況で、当初はアクセスもままならない状態だった。しかし参加者には、ドリキャスユーザーであるというほかに何の共通点もない。

 ここでは、ユーザーが任意の名前のチャットルームを開設することができたのだが、後の「2ちゃんねる」のような丁寧なカテゴリ分けもなかったため、「ゆうたのへや」「ああああ」といったような内容不詳の部屋が乱立していた。

 混雑をかきわけてチャットルームに入室しても、「ばーか」「しねえええ」「荒らしか?」「荒らしかえれ」といったような無益なやりとりがひたすら続いているばかり。会話の拙さの背景には、年齢層の低さと話題の乏しさのほか、多くの参加者が不便なゲームパッドで文字入力をしていたこともあるだろう。

 極めつけは、スラムのようなセガ公式のチャットスペース上で、いつもきまって盛り上がっていた定番ルーム「私のアソコに白濁液を」の存在である。ここで行われているコミュニケーションは独特のもので、男性ユーザーは女性(を名乗る)ユーザーに命令されるとおりに性器をいじり、擬音まじりに射精を報告することになっている。

 チャットログには「あっあっ」「ドピュ、ドピュドピュ」「いきました」「ぼくもいきそうです」という情けない投稿が並び、人を替えては営みが繰り返されている。

現代ハードでは考えられないお粗末さ!?

 幸か不幸か、まだギリギリ〝自家発電〟を覚えていなかった当時の筆者には、その意味するところが正確にはわからなかった。しかしいつアクセスしても一覧に「白濁液」の部屋が存在するので、何かそういうエロティックな遊びがあるのだということだけは理解していたし、母親の来る気配を察してチャットをやめ、電源を落としたこともあった。

 いわゆる「チャH」や「エロイプ」のはしりといえる内容だが、現代ならば、ペアレンタル・コントロールで一発シャットアウト間違いなし。しかしローンチタイトルに恵まれなかったドリームキャストには、この「白濁液」のようなチャット以外に楽しめるコンテンツがほとんど存在していなかったのだから、お寒いものである。

 ダイヤルアップ時代なんてそんなもんだ……と言ってしまえばそれまでだが、子どもに売り込む最新ゲーム機で、メーカー公式のサービスが早々に陥った状況がコレだというのは、思い返してもお粗末でしかたない。

 老舗セガが社運をかけたエンタメ次世代機は、産声をあげた次の瞬間から罵声と喘ぎ声に包まれ、そして消えて行った。1998年の日本のゲーマーには、インターネットは、まだちょっとだけ早かったのかもしれない。

 もっとも、『ぐるぐる温泉』などのネットワーク対応ゲームが発売されてからは、公式チャットでも人間らしいコミュニケーションが行われるようになったらしいのだが……。

★その他の…… Dreamcastあるある

1. 『シェンムー』の情報がやたらとメールで送られてくる
2. しかし肝心の『シェンムー』は、待てど暮らせど出ない
3. ジオシティーズでホームページを作れたら達人レベル
4. ずっとインターネットをしていると、CPUが発熱して焦げ臭い

著者■ジャンヤー宇都
平成時代の子ども文化全般をこよなく愛する1986年生まれのフリーライター。セガハードで一番遊んだゲームは、デーモン小暮が「ボンビー大魔王」のキャラクターボイスを演じた『桃太郎道中記』(セガサターン)。

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Special Thanks : 小島チューリップ(「懐かしパーフェクトガイド」編集部)

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