うた・こうた
1匹の蛾、コチの物語です。コチの小さな願いを叶えるため、コチはきっと頑張ります。子供から大人まで楽しめる内容になってたら嬉しいです。
あらすじ コチは小さな蛾。 あだ名は『木枯らし』 枯葉色した小さな羽で飛んでる姿を見て誰かがそう叫んだ。 今は春。 厳しい冬が終わり、ようやく訪れた春。 そのあだ名は、春色の世界で悲鳴を産んだ。 コチは小さな蛾。夜にしか飛ばない。 そんなコチが工事現場で咲いた春を待つ花を見つけた。 青い四角のキャンパスに燻んだ白いシミ。 濁った色が重ね塗られてもうすぐ四角は灰色。 気づけばシミが白くチラリ。 青い四角に光が覗いた。 そこにあったのは、空だった。
それを話すホリデイは少し舞い上がっていた。 ホリデイとコチはいつもように青空の下を飛んでいた。 ホリデイが浮かれた様子でコチに話しかけた。 「コチ。僕ってさ。ものすごい人気なんだよ。知ってた?」 「俺はその事にものすごく興味がないよ。」 「きっとコチは僕の人気を知ってびっくりするさ。」 コチはいつものように、太陽の世界を拒む通行手形とホリデイの人気なんか興味ないという通行手形を新しく手に入れて、ホリデイと共に、その場所に向かった。 そこは、お花屋さ
「コチ、いつまで寝ているんだ。早く行くぞ。」 「これから寝るところだよ。」 コチは、いつも気怠そうに、眠い目をこする。 でも、本当はホリデイのせいで、太陽の世界での疲れを、月の世界で取るような日々が続いていた。 少しずつ、コチは太陽の世界で多くの時間を過ごすようになっていたのだ。 それでも、太陽の悪口は、欠かさなかった。 自分が仕方なくこの世界にいるという通行手形を差し出しながら、飛んでいたからだ。 誰かが、文句を言ってきたってこの通行手形とホリデイがいれば
それから、毎朝、ホリデイは、ジイさんの所にやってきた。 眠ろうとしているコチはいつもホリデイの声で起こされた。 ホリデイは朝の光とともにやってきて、コチを太陽のいる世界に誘う。 「僕たちは、自由の羽を持っているんだぞ。」 そう言って、ホリデイは嫌がるコチを無理やり連れ出した。 「俺の自由はどこにあるんだよ?」 そう言って、コチは、しぶしぶ太陽の下をホリデイと一緒に飛んでいく。 ホリデイは陽だまりを飛び。 コチは日陰を飛んだ。 ある日の公園には、ず
「コチ?」 2匹は、自転車を漕ぐ年老いた人間の被る帽子の上で、ヘトヘトに疲れきった重い体を休ませていた。 あれから、コチとホリデイは蜘蛛の巣を破壊したあの鳥に見つかり、合流した2匹は鳥に追い回された。 鳥は執拗にホリデイを追いかけた。 目立つ羽は大変らしい。 コチは、うまい事木陰に隠れるがホリデイはすぐに見つかった。 コチが隠れていても、ホリデイがコチを追いかけるものだから、結局2匹で追われる事になる。 自転車を漕ぐ人間の頭に飛び込もうと言ったのはホリデイだ
突然、コチの耳に懐かしい春の日差しのような笑い声が届いた。 コチが見上げた空に太陽の光を背に浴びて黒い影が羽を翻し宙に舞う。 それは一匹の蝶。 「どこに行ったかと思えば、お前、こんな所にいたのかよ。で、どうした?」 ホリデイだ。 ホリデイが腹を抱えて笑っている。 「お前・・。」 この状況で笑っているホリデイには、「なんて奴だ」と腹が立ったが、 いつの間にかコチの空はくすんだ色から青色に戻っていた。 「お前、この状況で‥。何で、笑っているんだよ。
コチは知らない声によって起こされた。 そして、コチが目を覚ますとコチの体は動かなかった。 自慢の小さな羽もぎゅっと何かに縛られているかのようだった。 体を横に引っ張っても、縦に動かそうとしても動かない。 それどころか、動こうとすればするほど何かがコチの体をより強く締め付けた。 コチの体にはネバネバと白い糸がまとわり付いている。 コチは蜘蛛の巣の中で目を覚ました。 蜘蛛の巣は、走る車が止めどなく流れる国道の路肩に植えられたツツジにあった。 蜘蛛の巣は、ツツ
コチのぎこちない飛び方は知っている。 ホリデイの飛ぶ速さであれば、もうすでに追いついてもおかしくなかった。 「何処行ったんだよ、あいつ。おーい。コチ。」 コチは、飛ぶ事に疲れ、休んでいた。 上空で、ホリデイらしき蝶が、叫びながら過ぎ去った。 コチは、道路脇の街路樹が作る影の下にいる。 「まったく、そんなにはしゃぐなよ。」 今日は良いお天気だ。 太陽は張り切っている。 日陰に馴染んだコチの目は、はしゃいだ太陽の光が視界をぼやけさせ、すぐに回した
それは、コチがまだ飛ぶ練習をしていた頃だった。 ただ、この頃のコチは、あの頃のように自分の羽に、多くの希望は持ち合わせてはいなかった。 コチは寝床であるジイさんの周りだけで、飛ぶ練習をしていた。 老木の幹を離陸し、ある程度の距離まで飛べたらまた老木の幹に着陸する。 その繰り返し。 太陽の目を気にしてか、すぐに隠れられるようにコチはなるべく老木から距離を離れずにいた。 そんな中、一匹の蝶がヒラヒラとコチの小さな領域に入ってきた。 これが、ホリデイだった。
空に太陽がいた。 コチはいつもの寝床にいた。 コチの寝床は、老木だ。 誰もいなくなった民家の脇にひっそりと立つこの老木は、もう長い間ここにいる。 近隣に、新しい住宅地が建ち並ぶ中、ここだけが、まるで時が止まっているかのようだった。 老木は、隣に立つ古い民家の屋根を覗く。 朽ちていく民家の屋根に、落とした葉が散らばり風に身を任せ飛んでいく。 雨樋には風に選ばれなかった葉が幾重に重なり山となる。 老木は積もる枯葉を数え、過ぎた年月を思い出し風に揺れる。 青々
花の話は静かに終わった。 「それから、そのチョウはここに来たのかい?」 花は静かに首を横に振る。 「きっと虹を探しているのよ。」 コチは、透き通るような花の声を聞き、苛立ちを覚えた。 (馬鹿やろう。虹なんてただの揺れる光だろ。) コチは、花に聞こえないように誰かに囁いた。 「ねえ。あなたはチョウを知っているの?」 コチはもちろんチョウを知っていた。 コチのよく知っているチョウはただ一匹だ。 「俺の知っているチョウは、ロクでもない。チョウ
まだ花が蕾だった頃の話。 蕾の頭上を空高く伸びる草の葉がグルグルと重なっていた。 小さな空から見えるのは、ほっそりとした光でひっそりと空に浮かぶ月。 賑やかに音楽を奏でる虫たちの歌の間から声がする。 「やあ。可愛らしい蕾だね。」 蕾が小さな空を見上げると、淡い月明かりに月影が羽ばたいていた。 「あ、また来てくれたのね。」 思いがけない言葉とその嬉しそうな声にチョウは一瞬たじろいだ。 「あれれ?僕に会った事あるの?」 チョウは、生い茂った葉っ
「ねえ。流れ星に何を願う?」 花は思い立ったようにコチに聞いた。 「えっ?」 コチは突然の花の問いかけに言葉を詰まらせた。 「だって、流星群は今日なのよ。ちゃんと準備しとかないともったいないよ。ねえ、何を願うの?」 花は、コチの答えを待ち望んでいた。 願いなんてものは、近頃コチは考えた事もなかった。 まだ葉っぱを齧っていた頃は、願いはすぐ近くでパタパタとたくさん飛んでいた。 いつからだろう。 「こっちに来るな」と遠ざけていた。 今は遠
「ねえ。さっきの話だけど、ここには誰も来ないの?」 何気なく聞いてしまったコチだったがコチはすぐに後悔した。 一瞬黙ったその悲しい花の表情を見つけてしまったからだ。 ここで隠れて花を見ている自分が恥ずかしくもあった。 でも花の顔はすでに笑顔に変わっていた。 花はコチなんかよりもずっと強かった。 「そうね。誰も来ないわ。でも、お日様が昇るとね、ここには、人間がやってきて、とても賑やかになるの。」 花は、弾んだ声で話をした。 「げぇ。人間か。」 コチは、
コチは話をしようと言っときながら何を話していいか、分からなかった。 花はずっとコチに気を使いながら話をしているし、コチはそんな風に話される事に慣れていない。 コチも花に対して、そうやって話さなければならないような気がする。 相手に気を使った言葉をコチはいくつ知っている? そんな事を考えていると、自然と沈黙が現れる。すると、花から口を開いた。 「とても月が綺麗な夜ですね?」 せっかく花から話を振ってくれたのに、空に浮かぶ月を花に合わせて褒める気にはコチはなれ
「チョウチョさん?」 コチの耳にようやく花の声が届いた。 コチはいつの間に眠ってしまっていたらしい。 いや、あれは気絶だっただろう。 暴風がなかったかのようにやけに夜は静かで、何も見なかったとばかりに月も雲に隠れ、ぼんやりと淡い光を浮かべる。 静寂な夜。 花の声だけがそこに響いていた。 「チョウチョさん。大丈夫?どこにいるの?」 何度も聞こえる花の声。 花の声はコチのすぐ近くから聞こえた。 雲に隠れた朧月を見上げながら、コチは、聞こえてくる声を辿