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新譜


雨の日の海岸道路を
THE BEATLESの
新譜を聴きながら走る
長い間 古ぼけた地層に埋もれていた歌が
輪郭のあちこちをこじ起こされて
朝の蝸牛管を伝い始める
 
重く垂れ込めた雲のような
暗さが充満していた時代
寄宿舎の窓から
あてもなく眺めた空
水色の制服を着た少女が
遠くの畦道を歩いていた
 
長雨で白く煙る島々のように
視界を遮られた世界の
向こう側からやって来たノイズ
躍動する色彩 祝祭のゲシュタルト
Love is all, Love is you
胸の焦がれの意味が 
少しずつ見え始めた頃
 
毎日ケンカばかりして
他校の不良達から
付け狙われていたあいつ
皆とつるんでいる時も 
ふと遠くを見ては
NOWHERE MANを口づさんで
歌と同じように 
独りぼっちだったあいつ
 
ぼくらはあの時 
同じ庭で遊んでいた
そして憧れていた
あんなに光に溢れて 
あんなに広々として 
あんなに陰翳が豊かで 
あんなに力強く
あんなに優しく 
あんなに子供っぽい
そしてJULIAの
朝の月のように儚い
音を 言葉を 世界を
 
私はおじさんになったよ
いけ好かないオヤジになったんだよ

むかし取った杵柄と
オヤジバンドなどやる気はないけれど
またどこかのスイッチを押せば
新譜が胸の奥で
たまには流れたりするさ



*昔、『詩と思想』誌に投稿した作品をリライトしたもの。(何年何月号だったかは忘れました)

*アルバム『LOVE』 (2006年11月発売)より「Because」
(何十年振りにビートルズの新譜が出たと言われた)


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