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間違い探し、はたまた罠か

バンコクには、サービスアパートがたくさんある。サービスアパートというのは、キッチンや家具、家電つきのアパートで、かつ、ホテルのようなサービスが受けられる物件だ。

我々が住んでいたところは、ハウスキーパーによる週に2回の掃除とリネン、タオル類の交換つきだった。高級物件になると、毎日のお掃除だったりするのですけれどもね。

実は、この度、約4年半のバンコクでの生活を終えて本帰国した。しばらくは思い出話も綴っていきたいと思う。

メイドさん(通称「アヤさん」)を個別に契約して雇っているお家もたくさんあったけれど、我が家は、大人ふたりだけなので、そこまで家事も多くなく、週に2回くらいの掃除で充分に助かる。

個別に契約だと、管理や交渉も自分たちでやらなければならないけれど、サービスアパートであれば、万が一トラブルがあった場合も、アパート側の管理なので気が軽い。

その前は、コンドミニアムに住んでいて、掃除のサービスはついていなく、全部自分でやっていた。日本では、ずっとそれを当たり前にやってきたし、それで、全然困ってはいなかったのだけれども、タイの暮らしっぽいことも体験してみたくて、サービスアパートに引っ越したのだ。

1回30分程度の掃除を週に2回なので、掃除代行サービス体験みたいなものでしょうか。

我が家には、3、4名のスタッフがローテーションできていた。

部屋にいる時間に掃除に来てもらうこともあったし、出かけることもあった。毎回、いる間に掃除してもらうと、見張っているみたいかな?という気持ちもあって、食料品の買い出しや美容室の予定をあえてそこに入れて、外に出るようにもしていた。

30分程度の掃除なので、隅から隅までというわけにもいかず、そのときごとに気になった箇所を重視しているのだろうけれども、人によって、掃除の重視ポイントが違っていて面白かった。

ざっくり分類して、
バスルームのガラス、鏡、キッチンのコンロ周り重視の磨き重視型、
掃除機がけ、床のモップがけ重視の床重視型、
がいた気がする。

チェック項目のような基準はあるのだろうけれども、それでも、その人らしさがでる。そういうのって、育った環境とか、身近な人から受け継ぐ部分があるのではないだろうか。

母と姉は清掃重視の片付け手薄タイプで、引っ越しの手伝いを頼んだときなんかは、業者ですか!ってくらいに、ピカピカに磨きあげるのだけれども、自宅には、収納されていない物や、床に置いた物が多いタイプ。

私は、片付け重視型の清掃手薄型なので、収納スペースに物が片付いてはいるが、四角い部屋を丸く掃除するタイプなので、母と姉からは、もっと丁寧に掃除しなさいよ?という評価。

そのハウスキーパーさんの中で、1人、物をどかして清掃しましたアピール型の方がいた。

洗面台の棚に左揃えで置いてあったものたちが、右揃えになったり、中央揃えになったり、正面をむいていたはずのリビングのライオンや犬の置物がそっぽをむいていたり、
と間違い探し的な楽しみをうむ一方で、
夫と私の歯ブラシの位置が左右が逆転、シャンプーリンスの位置が左右逆転。

もうこれは、罠でしかない。あやうくそのまま使いそうになるという事故寸前で、気づいたりもした。

という油断ならない仕掛けを残しつつも、彼女の清掃ぶりは抜群に丁寧だった。

以前に、読んだ『掃除婦のための手引き書』

掃除婦のための手引書 / ルシア・ベルリン | 岸本佐知子 訳

の表題作の中に、掃除婦の心得として

手抜きしない掃除婦だと思わせること。初日は、家具をぜんぶまちがって戻す— 五インチ、十インチずらして置く、あるいは向きを逆にする。埃を払ったあとは、シャム猫を背中あわせに置く、ミルクピッチャーを砂糖の左に置く。歯ブラシを全部でたらめに並びかえる。

と書かれていた。

まさにそれ。「手抜きしない掃除婦だと思わせること」

きっと「あなたが手抜きしないことは、もうとっくにわかったよ、丁寧なお掃除ありがとう」と本人に伝えればよかったのだと思う。言えないまま罠と格闘し続けた。

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