🌾 ヒンメリが生まれ、育まれる場所 vol.2 ヒンメリ 大地の実りへの賛辞（2）

ヒンメリを作っている人、ヒンメリに魅了されている人の声を紹介することで、ヒンメリの文化的な側面を考える「ヒンメリが生まれ、育まれる場所プロジェクト」。

第２回は、２０１７年１１月に Kauppa Suomi が公開したエイヤ・コスキさんへのインタビューを日本語訳してご紹介します。今回は記事の後半です。

原文はこちら

– Himmeli on myös kunnianosoitus maan antimille – Kauppasuomi

前半の翻訳はこちら

ヒンメリ　大地の実りへの賛辞
《後編》

コスキ夫妻が、カリ・コスキさんが所有する農場で暮らし始めて、かれこれ２０年になります。家畜は１９６０年代に穀物農場から片付けられました。耕地面積１３２ヘクタールの畑では、約１５年間、有機栽培を行なっています。コスキさんはライ麦、小麦、大麦、オーツ麦を育てています。

夫妻は農場に自分たちの製粉所を設置する計画を立てています。そうすれば、私用にも販売用にも、育てた穀物を自分たちで挽くことができるからです。

エイヤさんの会社EKoArtのアトリエは、古風ではありますが、現代風に改修された農場の住まいの２階にあります。


エイヤさんは「オーガニック」を未来の言葉と考え、ざっくりですが、次のように理解なさっています。

「オーガニックは単なる食材ではありません。私たちはフード・エコノミーを実践しています。食生活においては、オーガニック食材、特に、近くに生えていたり、栽培されている作物などを優先して摂取するよう、努めてもいます。」

毎年秋になるとベリー摘みやキノコ採りを楽しみ、自らキノコ教室を開催し、キノコの展示会などもアレンジしています。夏の間は野生のハーブ教室が開かれます。

「春のはじめから秋にかけて、自宅の庭、森や畑周辺では、野生のハーブなどフィンランドのスーパーフードが見つかります。話題の食材で、特に女性に人気なのが金色の花粉です。私は養蜂家を営む隣人から購入しています。
野生のハーブの中では、イラクサが一番のお気に入りです。アスパラガスの花のようなヤナギラン、クロスグリとナナカマドの葉っぱからは素敵な飲み物が出来ます。トウヒの甘いシロップです。」

エイヤさんは、まるで宝箱のように、これほどまでに豊かな、フィンランドの自然とフィンランドの手工芸品に満足しています。そして一方で、そのような宝物から、これほどまでに私たちが遠ざかっていることを残念に思っています。

「宝箱を無理矢理にでも開ける理由はありません。敬意を払い、愛しみ、いつも心の一番上に用意しておくのです。フィンランドの民間伝承は、 決して、”白樺細工の時代” にこだわるべきではないと思います。歴史の根幹を頼りに、先入観をもたずに、新しい枝を育てるべきです。今を生きること、世界にも目を向けるのです。」

数年前、日本人のヒンメリ作家、山本睦子さんが憧れのエイヤ・コスキさんを訪ねて、北海道から大阪を経由し、ムスタサーリの村にやってきました。山本さんの旅にははっきりとした目的がありました。「ヒンメリには何か神聖なものがあるのか」という、彼女の頭を悩ませていた質問の答えをコスキさんに求めたのでした。


研究気質のエイヤさんはすぐに調べ始めました。ヒンメリの歴史と今について記された書物や出典を手引きに、何よりも自分自身の直感を頼りに研究は進められました。

そして彼女は様々な神聖さを発見しました。

＊ 最もヒンメリの麦わらにふさわしいのは、神の穀物と言われている「ライ麦」であること。

＊ ライ麦が花をつける瞬間、雌蕊と雄蕊の逢瀬はわずか数分だけれど、その瞬間に永遠が描かれていること。

＊ クリスマスには、（農家や古い家では）メインルームに、教会では床に、それぞれ藁が敷かれ、歩く人々を保護していること。

＊ クリスマスの藁は、結婚式場の床に敷かれた藁と同様に、豊穣の祭事と強く関連していること。

＊ 私たちの救世主、キリストもまた、誕生の瞬間は藁の上で眠っていること。

＊ 屋根の止まり木に予言の藁が投げ込まれたこと。


「私にとってヒンメリは神聖なものです。素材として、造形として、そして、ヒンメリ全体がもたらす静けさとして。」エイヤさんは新著の中でこのように述べています。

「とても具体的な意味もあります。ドイツ語の himmel は、フィンランド語の天を意味します。」


クオピオ出身のエイヤさんは経済学を学び、博士号を取得しました。海外ではガイドとして、ヘルシンキでは中央商工会議所で、ヴァーサ大学では研究者として働いてきました。

エイヤさんがヴァーサ大学で博士論文の研究を始めたのは、今からおよそ１０年前のことでした。５年ほど前に、自分自身に問いかけたのだそうです。

（あなたの人生で本当にやりたいことは何？）
（私は、子どもの頃に母が紹介してくれた手工芸品を作りたい。）


「母と私はよく一緒に洋服を作りましたが、クリスマスの飾りも、私たちの共通の、重要な趣味でした。手工芸には、非常に社会的で、共同的な次元があることを母とともに学びました。」


加えて、コスキさんは自然からの強い呼びかけを感じました。その道は、幼少時代の体験に繋がります。森の小道を通り抜けた先には彼女のおばあさんがいて、道沿いには綺麗なスズランが咲いていました。夏のはじめに、幼いエイヤさんはおばあさんを喜ばせようと、スズランを摘み取って花束を作りました。

コスキさんは子どもの頃から森が大好きです。とりわけ、秋の森に惹かれます。

「秋の森では、地衣類はクリスタルのようで、深緑の苔はベルベットのようです。」


５年前のあの日、エイヤさんの心は答えました。ヴァーサ大学の研究職を辞めなくてはならない。彼女は辞職し、自身のヒンメリ工芸に光をあてた手工芸の会社を設立しました。

エイヤさんの心にヒンメリが力強く解き放たれました。幼少時代のクリスマスに、長い間預けておいた心を取り戻したのです。

「クリスマスの季節に叔母の家に招かれて行くと、田舎の家の素朴な天井から麦わらで作られたヒンメリが吊り下げられていました。宙をゆっくりと揺蕩うのです。大人たちはおしゃべりしていて、私はただヒンメリの動きを見つめていました。私を夢中にさせました。」

幼少期の思い出に掻き立てられたコスキさんはヒンメリワークショップに通い、ヒンメリの歴史を多面的に探究する旅を始めました。文献資料とともにあたったのは、美術館、特にヴァーサにあるポフヤンマー美術館です。それから古いポストカードなどが彼女の研究の裏付けにされました。

「ところで、私たちフィンランド人はすっかり忘れているのですが、クリスマスツリーは１００年ほど前までは私たちの家でクリスマスの主役ではありませんでした。以前はヒンメリが主役だったのです」

ヒンメリの歴史を探究する旅で、彼女はヒンメリがフィンランドの発明ではなく、全世界的なものであることを明らかにしました。

「麦と藁の作品は、世界で最も古い手工芸技術です。太陽のもとで（育つ、それ以外に）、新しいことは何もありません。現在も麦と藁の作品は国内外で流行しています。」

ポフヤンマー協会の文化委員会は、２０１７年１１月１５日、ヒンメリスト　エイヤ・コスキさんに文化賞を授けました。受賞理由として強調されたのは、コスキさんの成し遂げた、伝統的ヒンメリの刷新です。賞金３０００ユーロが贈られました。

エイヤ・コスキさんのヒンメリ作品はこちらのサイトからご覧いただけます。
www.ekoart.fi

「麦と藁の作品は、世界で最も古い手工芸技術です。」
「クリスマスの季節に叔母の家に招かれて行くと、田舎の家の素朴な天井から麦わらで作られたヒンメリが吊り下げられていました。」
「日本やスイスでヒンメリワークショップを開くときは必ず、私たちが収穫したライ麦の麦わらを使用します。」

「ヒンメリは《カレヴァラ》のようなものです。偉大な知恵が込められています。どうやってその扉を開けるかを知っているだけです。」
（ヘリさんとエイヤ・コスキさんのヴァラモ修道院でのヒンメリワークショップより）

「リトアニアのヒンメリ “ソダス” は、空と大地を繋ぐ《生命の木》に比較されます。フィンランドのヒンメリも空と大地の間にあって、それらを繋ぎ合わせる役割を負います。」（新著『Himmelin harmonia』より）

Kauppa Suomi　（2017年11月29日公開　文：Reetta Reinman）を翻訳

テキストでは、「エイヤさん」「コスキさん」「エイヤ・コスキさん」と主語が使い分けられていました。読みづらいかもしれませんが、記者に何か意図があったのかもしれませんので、「コスキさん」として紹介されている箇所はそのままにして翻訳してあります。

ヒンメリと暮らす
大地と暮らす

わたしとエイヤさん、パートナーのカリさんが語学クラブをはじめて半年が経ちました。隔週でZoomを繋ぎ、互いに、日本語とフィンランド語を教えあっています。

今回わたしにとって、この素晴らしいロングインタビューを翻訳することは、わたしたちのこれまでの何気ない会話ややりとりを答え合わせする機会にもなりました。その一部を皆さんにご紹介したいと思います。

例えば、エイヤさんに好きな花を尋ねたとき、彼女は少し考えて「kielo（スズラン）」と答えました。ひょっとしたら、その少しの「間」に、幼少時代におばあさまを訪ねた小道を頭に浮かべられていたのかもしれません。

また、エイヤさんに手仕事の喜びを教えたお母さまは、今なおご健在です。お母さまが暮らすクオピオのご自宅からエイヤさんとカリさんが暮らすムスタサーリの村までは４００キロ近く離れていますが、時々夫妻は車でフィンランドを横断してお母さまをご自宅に招待なさっています。わたしもタイミングがあって、パソコンの画面越しではありますが、ご挨拶することができました。

フード・エコノミーに関する考えも興味深かったです。
昨年のクリスマス、わたしたちはささやかなプレゼントを贈り合うことになり、張り切ったわたしは都内の店舗を探し歩いて見つけた、米ぬかで出来たキャンドルとチョコレート果子を選んだのですが、エイヤさんたちから届いたのは、自宅の庭で採れたキノコを粉末状にしたものでした。（さすがにそのまま送っては怪しまれると思ったのか、表書きを工夫なさっているところにもセンスを感じました。）こうした贈り物一つにも、自然に敬意をこめて、また自分たちの暮らしを遠く離れた日本で生活するわたしにも共有しようとしてくれた心配りを、なおさらにありがたく感じました。、わたしも何かそうしたものを差し上げたかったなぁ（きのこの山じゃなくってさ）、とちょっとだけ後悔しています。

第３回は、現代的ヒンメリに関する記事をご紹介できればと思います。どうぞお楽しみに 🌾✨