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📝 フィンランドっぽい = フィンランド ?

フィンランドセンターは3月6日ー3月20日まで、東京・表参道にあるアルスギャラリーで「日本文化を尊重したフィンランドスタイル 〜 カイヤ & ヘイッキ・シレン」を開催中です。

17日の夜には、本展のキュレーターを務めるフランス・アウティオさんが現地からオンラインで参加なさってのトークイベントがあり、展示の見どころや、カイヤさんヘイッキさんご夫妻のプロジェクトなどについてお話を伺うことができました。

わたしがnoteで更新している「等身大のフィンランド vol.11 アヌさんと巡る冬戦争の記録」はまだまだ連載の途中ですが、今回の展示内容を通じて、アヌさんの言葉を日本語に翻訳して記録することは、フィンランドの文化、とりわけ、〈人〉を研究対象にしているわたしにとって、必要な体験なのだと確証を得ることができました。語学は、ある国の文化を理解することと強く結びついていると感じたからです。

「等身大のフィンランド vol.11 アヌさんと巡る冬戦争の記録」では、位置関係の把握や見慣れない軍事用語の翻訳に手間取り、ひとつの記事を公開できるまでには少し時間がかかりますが、皆さんにご紹介することをモチベーションに、わたし自身張り切ってこのプロジェクトを進めていこうと気持ちを新たにできました!

せっかくなのでギャラリーで作品を鑑賞した感想を綴ってみたいと思います。

人生のパートナー 
カイヤ & ヘイッキ・シレン


まずは、この展示の主人公について簡単にご紹介します。

カイヤ・シレンさん(1920-2001)、ヘイッキ・シレン(1918-2013)さんは、ともにフィンランドでは有名な建築家です。フィンランド南東部にある港湾都市コトカで生まれ育ったカイヤさんと、首都ヘルシンキ出身のヘイッキさんは、ヘルシンキ工科大学で出会い、キュレーターのフランスさんのお話によると、学生結婚をなさったのだそうです。戦火に追われた青春時代に生まれた愛を実らせたお二人は、仕事でもプライベートでも良きパートナーとして、長く人生をご一緒に歩まれました。

お二人のプロジェクトで有名なものをいくつかご紹介します。

1956年、カイヤ & ヘイッキは、二人の母校ヘルシンキ工科大学敷地内の森にひっそりと佇む礼拝堂「オタニエミ礼拝堂」を設計しました。正面の大きな窓ガラスの向こうに十字架が設置されていることから、自然と建築が互いに対峙しあうものではなく、寄り添いあう関係でありたいと考えてデザインされた印象を受けます。


1968年、カイヤ & ヘイッキはヘルシンキのハカニエミにある円形のオフィスビル「ユンピュアタロ」を設計しました。

思わず「!!!」と驚いたのは、はじめてフィンランドを訪れた際に、面白い建物だなと思ってカメラに収めた1枚だったからです。ドーム状で、迫力がありますが、地元の人々が行き交うマーケット広場や公園のなかにあっても、周囲から浮いているようには思えませんでした。

奥に見える建物  Ympyätalo

こうした「大きな」作品を手がけて名前が知られるようになる一方で、二人の関心は、「小さな」ものに向けられていたというのも興味深いお話でした。

異文化を俯瞰し
異文化に寄り添う


国内の建築専門誌『近代建築』1965年8月号には、カイヤ & ヘイッキの建築( シレン建築)に関する膨大な数の記事が収集されているのだそうです。二人の考えと日本建築への理解が重なり、その後も60年以上に渡って、シレン建築は日本の建築雑誌で紹介され続けます。1974年に軽井沢ゴルフクラブのレストラン、続いて1976年に北海道にある大沼ゴルフクラブ、と夫妻は国内でもいくつかの木造建築をデザインしました。

と、ここまで前置きがだいぶ長くなりました。今回、表参道のアルスギャラリーでは、カイヤ & ヘイッキ・シレンがフィンランドと日本で手がけた木造建築をそれぞれフォーカスしながら、会場を訪れた人たちに、カイヤ & ヘイッキと日本の関係を考える機会を提供しています。わたしにとっては、「フィンランドっぽい」「日本っぽい」の概念を考えるきっかけになりました。

例えば、この写真をご覧になって、皆さんはどこで撮影されたものだと思われますか?

わたしにははじめ、この写真がフィンランドで撮影された写真に思えました。フィンランドの建築家に関する展示であることに加え、偶然、一時期居候させてもらっていた当時エスポーに住んでいた友人の家がこの写真のような平屋建てで森の中にあったので、アンコンシャス・バイアス、無意識の思いこみが働いたのだと思います。

建物の後ろに駒ヶ岳が映っていなかったら、軽井沢で撮影されたものだと聞いてすぐに信じることはできなかったかもしれません。でも不思議なのは、そうと知ったときに、「そっか、軽井沢か」とそれはそれでしっくりくる感覚を覚えたことです。

写真の軽井沢ゴルフクラブのレストランのほか、カイヤ & ヘイッキが手がけた休暇村などの国内の施設の一部は、実際にはフィンランドの木材を使って、フィンランド式で組まれた建築物だそうですが、ギャラリーに展示された写真からは、まわりにうまく溶け込んで、調和している風に見えます。

このことから、以前、等身大のフィンランドプロジェクトでインタビューさせていただいた、フィンランド在住のノンフィクション作家、モニカ・ルーッコネンさんがおっしゃっていた「日本とフィンランドはどちらも素晴らしい国で共通点もあるけど、社会の在り方が全く異なる。だから、フィンランドの文化をそっくりそのまま日本の土壌に移植するやり方だと、うまく育たないかもしれない」という言葉を思い出しました。新しい文化が根付いて、芽を出し、花を咲かせるまでには、もちろん時間がかかりますが、一方で、調和、バランスをとりながら、文化を育てるといった意識が非常に大切だと感じました。

「日本っぽさ」と「フィンランドっぽさ」がちょうど心地よく重なるところに着地すると、カイヤ & ヘイッキの作品に感じるような、「日本っぽいフィンランド/フィンランドっぽい日本」になって、面白い化学反応が生まれるのでしょうか。

フィンランドっぽい ≠ フィンランド?


もう一つ、わたし自身ちょっと気をつけたいなと思っているのが、世の中で「フィンランドっぽい」とされているものを過信しないことです。例えば昨日も、国連が発表する World Happiness Report のランキングで、フィンランドは5年連続で世界一幸せな国になりましたが、幸せな国=フィンランドっぽい、という概念は、なるべくなら、わたしは手放したいなと思います。フィンランドに限らずですが、声の大きな人やマスメディアの理解=本当のこと、とは限らないじゃないですか。本当のことが知りたいから、一歩でも真実に近づきたいから、わたしは文化を理解したいし、そのための語学を学びたいです。

先に紹介した、カイヤ & ヘイッキが手がけた軽井沢の施設は既に解体されているそうです。もし、彼らの作品が「もっとわかりやすいかたちで」「もっとフィンランドっぽかったら」、違う結末もあったんじゃないかなと思います。そして、もしそうだったとして、フィンランドっぽさを演出した作品に価値を見出せるかどうかは全く別の話だとわたしは思います。

「日本文化を尊重したフィンランドスタイル 〜 カイヤ & ヘイッキ・シレン」は、明日20日まで、東京・表参道のアルスギャラリーで開催中です。建築は詳しくないので、正直はじめはパスしようかと思っていましたが、いざ足を運んでみると、身近なことに置きかえて考えることもできる楽しい展示でした。小さな空間で展示数も限られているので、気負わずにリラックスできたのも個人的にはもう一つの見どころでした。

日本っぽいフィンランド ≒ フィンランドっぽい日本


会場のアルスギャラリーから徒歩3分(とは知らずにぐるりと一周してしまった私です)にあるラプランカンクリさんでは、今月いっぱい「Sauna kauppa/サウナとリネン」イベントを展開なさっています。ギャラリーをあとにした余韻に浸りながら、ふらりと立ち寄ってみたら、天井から吊るすスタイルのヴィヒタを発見!

たまたま少し前に新潟の塩引鮭を見る機会があったからか、「日本っぽいフィンランド/フィンランドっぽい日本」が感じられる風景で、異文化の理解の楽しさを追求できた1日となりました。

新潟村上の塩引鮭はこちら(笑)











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