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『ミーツ・ザ・ワールド』

金原ひとみ『ミーツ・ザ・ワールド』を読んだ。

「死にたいキャバ嬢と 推したい腐女子」というキャッチコピーがついている。

自分がこの世界から消えていなくなることが自然で、当然の摂理だという死にたいキャバ嬢。

自分の好きな物に囲まれた世界で幸せなんだけど、でもほんの少し外の世界(恋愛とか結婚とか)にも未練がある腐女子。

キャバ嬢の死にたい気持ちが全く理解できない腐女子が、歌舞伎町というまちでキャバ嬢の周りの人と関わり、キャバ嬢の「死にたみ」をなんとかしたい、生きて欲しいと思うようになり、「世界」を知っていく話。

「世界」というのは、お互い全く理解し合えない人の集団でできている。意見の違う人、価値観の違う人、常識の違う人、幸せの意味が違う人、生きている意味が違う人……。

私は、このキャバ嬢の「死にたみ」が何となくわかる気がするし、腐女子の自分の中だけで世界が完結し、自分の偏見や色眼鏡(自覚があるなしを問わず)を通してしか世界を見られない不自由さや、逆にその安定した、ブレない心地良さも知っている気がする。

他人から見てどうだとか、常識に照らし合わせてどうだとか、そういう定規や、自分が持っている価値観が通用しないとき、人は初めて混乱して、孤独を感じる。全否定された訳でもないのに、全否定された気分になって、自分を全肯定してくれる奇跡のような人を、求めてしまいがち。

でも、「世界」で生きるということは、理解されないことだらけだ。そういう意味で、そもそも人というのは孤独なものだと私は思う。

完璧に誰かに理解されることは永遠にないし、一方で全く理解されないというものでもない。自分が自分のことを100%理解できているとも限らない。

でも、誰しも理解できなくても、許容はできるグレーゾーンみたいなものを持ち合わせていて、そこに被れば、全部が理解できなくても、理解できたような気になれる。そこに若干の救いがあるわけだけど、完璧じゃないから、そこにはどうしようもない寂しさや苦しさもある。

誰かのために何かをしたいという気持ちは、本当に誰かの何かのためになるとは限らない。誰かは私じゃないし、私はその誰かの本当の心や気持ちを、理解できるとは限らないから。

誰かのために何かしたい。時に人はその言葉を口にする。

それは、本当に誰かのためなんだろうか。誰かという方弁を使った自己満足なんでは。エゴなんでは。その誰かの本当の願いと、自分のしたいことは一致するのか。一致しない場合、その行動がその誰かを傷つけたりすることはないのか。

「世界」と出会うというのは、とても難しく、そして同時に簡単なことだ。「世界」を拒み続けていれば、病むかもしれないけど、平和な部分もある。「世界」を逆に、全て受け入れてしまうと、自分と他者との境界が曖昧になって、自分がわからなくなることもある。

「世界」が、自分を丸ごと受け入れるとは限らず、丸ごと勘違いされて拒絶されるかもしれない。

死にたいキャバ嬢の掴みどころのなさと、どこを掴んでも個性がはみ出て、溢れんばかりの自分語りになってしまう腐女子。

両極端な存在で、交わるところのないように見える2人だけど、この2人には大概の人には、自分は理解されないだろうという予見を、自分の中に持っているようなところがあり、似たもの同士だ。

腐女子の、キャバ嬢の「死にたみ」を軽減もしくは、無くす、「生きたい」思いへと変えさせたいという願いは、無力感との戦いでもある。相手は一貫して死にたいわけだから、完璧な一人相撲だ。

現実問題として、人との関わりの中で、自分と価値観や、生き方すら違う人々との出会いは必ずある。どんな近しい距離感の人間関係でもある。親子であれ、兄弟姉妹であれ。

違和感や自分との違いを見つけて、受け入れてもらえないと「世界」に失望するのか、その中でも「世界」との共通点を見つけて、生きていくのか。またその共通点だけで「世界」を生きるのか。

排他的で、分断の進む世の中では、誰とも理解し合えないと嘆くよりも、理解し合える人とだけ繋がって、その他と自分を区別する。自分とは違うというだけで、一方的な拒絶をしたりする。

そんなんで、いいの?

それで、あなたは幸せになれる?

そう問いかけるような本だった。

そんな「世界」は、狭くないですか?

最後に。
キャバ嬢が生きていて欲しいという感想もありだと思うけど、私はもし死んでしまったとしても「世界」は変わらず(残酷に)あり続けるという現実を、腐女子が受け入れ、それでも生きていこうとする姿の方が、「今」を生きる上で必須の覚悟ではないかと思う。バットエンド(?)がバッドだけでないという作品だと思う。もちろんハッピーではないけど。


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