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音楽家としての目標…(1)最終(2)中間(3)目下

楽器の習得と上達において、自分がどんな音楽家になりたいかというイメージを持っているのは大切だ。三つの種類の目標があるといい。

(1)最終的な目標(理想とする音楽、音、音楽家像)

(2)中間目標(実現したいステージ、演奏曲目、習得技術)

(3)すごく手近なスモールステップの目標


(3)すごく手近なスモールステップの目標

いつも最大の集中力を注ぐべきは「目下のスモールステップの達成」である。忍耐強く毎日コツコツ練習することなくして上達はない。

「出来ないことを出来るようにする。」これが練習である。
出来ないことを発見して、出来ない理由を細分化して、出来るまでの必要な練習の道のりを決定する。

トライ&エラーを重ねつつ、繰り返し取り組んでいると(「毎日、数分でもいいから楽器を持つ」ということがめちゃくちゃ大切です)、ある日それが出来るようになる。一つの技術が身につくというよりも、楽譜の見方、楽器の扱い方、身体全体のバランスなどが、ふさわしいところに落ち着くようになる。そして一度身についたなら、もはやそれは忘れられることはなくなる。ただ鈍くなることはあるので、感覚を取り戻す必要はある。いずれにしても、自分で考え試行錯誤したからこそ、感覚を取り戻すことも可能になる。自分で苦闘して身につけていない技術は、何の役にも立たないのだ。
練習とはこの繰り返しだ。

最終的には、出来るようになったことをもっと上手に滑らかに自然に出来るようにして、舞台で「音楽」としての喜びを共有する。これが演奏である。

(2)中間目標(実現したいステージ、演奏曲目、習得技術)

小さな達成を積み重ねて「自分なりの中間目標となる一里塚」をクリアしていくことも必要不可欠だ。スモールステップだけだと自分の立ち位置が分からなくなり、モチベーションを失ったり、ペースが遅くなりすぎたり、焦りすぎて空しくなったりしてしまうから。
達成度を人と比べる必要はない。しかし、自分なりの達成を喜び続けるためには、自分自身の一里塚を設定するのが良い。
具体的には、「半年後の発表会でこの曲を弾く」とか、「一応譜読みの終わったあの曲を、人前で弾けるレベルまで磨く。暗譜する」とか、「室内楽やオーケストラで演奏する曲を、より完成度の高いアンサンブルにする」とか。これは人それぞれで、「コンクールでこの曲を弾く」とかでもいい。でも、外的な目標(「他人から評価されること」とか「弾いたという事実」だけとか)ではなく、あくまで音楽家としての自分が自分自身に課す達成目標であると良い。

弾きたいけど弾けない曲がある時、そこに到達するためにはどんな練習を積み、どんな技術を身につけるべきなのかについては、先達のアドバイスがどうしても必要になる。知識がなければ、何を練習すればいいのか分からないから。
これは、誰でもいいから先生に習えばいいというのではなく、自分が必要としていることを教えることのできる先生に習わなくてはいけない。その見極めは、とても難しいことだ。

レパートリーをつくるためには、レパートリーの曲を練習するだけでなく、スケール、アルペジオ、重音などの基礎練習はもちろんのこと、様々な特色のあるエチュードに取り組むことも重要である。エチュードや基礎練習は、それだけやっていても上手くならないのだけれど、一度通っておくと確かなものが身につくという種類のものだからだ。逆に、有名な曲や技術的に派手な曲だけを弾いていても、確実な技術が身につかないこともある。

「危ない所もあるけどなんとか弾ける」というのと、「正確な技術に支えられて、磐石な演奏ができる」というのとでは天と地の開きがある。結局は、後者に到達することを目指さなくてはならない。
「弾ける」というのには、いろんな段階と中身がある。自分で苦労しながら納得しながら辿り着いた「弾ける」状態であれば、演奏にもその人なりの輝きが備わっているはずだ。
頭と身体(腕、肩、耳)と心が、知識と訓練と習慣によって、音楽家として成熟していくこと。

(3)最終的な目標(理想とする音楽、音、音楽家像)

そして、心の中にはいつも「最終的な目標」が輝いていていること。音楽を通してなりたい自分像。自分の理想とする音楽のイメージ。思った通りの音楽を奏でている自分は、何を考え、どんな暮らしをし、どんな言葉を使って生活しているか。

音楽への憧れと情熱を燃え続けさせるためには、いつも同じ情報ではなく、幅広い新鮮な情報にアップデートし続け、薪をくべるのが良い。
生のコンサートに足を運ぶのはもちろん、CDやDVD、インタビュー記事や書籍を読むのも良い。

人生を掛けて音楽と楽器を愛し続けた人たちの演奏姿は、心と目に焼き付けるといい。また、彼らの頭と心の中を覗くと(言葉を読んだり聞いたりすると)、そこに自分自身を投影することで「音楽を愛する生き方」というマインドセットをもらうことができる。
上手に楽器が弾けるというのは、独立した技術ではない。それは音楽を愛する生き方と繋がっている。

生き方と技術が切り離しがたくある。そうでなければ身に着けられない種類の職人の技術なのだ。そして、だからこそ人生を掛けて取り組む価値のある「深遠な芸術」だとも言える。

音楽に誠実に正直に素直に向き合えば、音楽家としての成熟がついてくる。それは生き方と呼ぶべきものになるだろう。

⑴も⑵も、一つずつクリアしていくだけでなく、少しずつレベルアップしていくものである。また、はっきりとした目標達成というより、6割くらいで合格して次の目標に進んで行き、三段くらい進んだ後に振り返ってみると6割だったものが8割くらいの達成度に上がっているというような感じ。
⑶の目標は、⑴と⑵が上がるにつれてより鮮明で詳細で個性的な目標へと変わっていくのではないだろうか。

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