「上から書店員」12:アナログ万引き
いらっしゃいませ。
もう誰も信じてくれないだろうけど、子供の頃は引っ込み思案で人見知りで友達もいなくて本やマンガばかり読んでいて無口な女の子だったフリー編集者で野良な小説家の魚住陽向です。
今日はちょっと社会派。堅めだけど、ついてきてね♡
ここ20年、携帯電話が普及して、今ではスマホが主流となった現代社会の日常で「デジタル万引き」という言葉を一度ぐらいは耳にしたがあると思います。私も書店員になる前に本屋さんの店先で一度その現場を見たことがあります。
求人情報誌を手に取り、自分の興味のある求人情報の写メを撮るどっかの会社員です。近年、求人情報誌はフリーペーパーが主流ですが、その頃は求人情報誌は当たり前に有料でした。彼は1件の求人情報のために丸々1冊分の代金を支払いたくなかったのかもしれません。
でも、買えよ!
チンピラみたいなサラリーマンめ! おめーなんか転職しようと思っても面接で受かんねーよ! そんな心持ちじゃ、何やっても上手くいかねーよ!
でも、目撃した時は書店員でも警察官でもないし、相手のガタイがデカかったというのもあって怖くて注意もできずにただただ嫌な気分になりました。今だったら、お節介なおばちゃん炸裂させて乱闘です(ウソ)。
マンガ雑誌のデジタル万引きなんかも許せない犯罪です。
それはもう今や、誰もが犯罪と分かる行為になりました。
それでは、「アナログ万引き」という行為は分かりますか?
具体的にどんなことをするのでしょうか。
「いや、フツーの万引きに対して『デジタル万引き』という言葉が生まれたのだから、あえてわざわざ『アナログ』とつけるのはおかしい!」と思ったそこのあなた!
その通りです。これは私、魚住の造語です。前からあったらごめん。
でも、「デジタル万引き」に対して、一周回って「アナログ万引き」という行為が誕生したともいえます。
それでは、具体的にどんな行為が「アナログ万引き」なのか。上から書店員・魚住が有象無象書店ホルス無双店で巡回中に目撃した例を2つ挙げましょう。
●オバハン「ダメなの?」じゃねーよ!
毎日1時間ごとに行う店内巡回中のこと。
書棚の隅っこの方でしゃがんでるおばさん(もうおばあさんだね。70代前半ぐらい)の後ろ姿を発見した(以下、オバハン)。
▲この隅っこのあたり!
「立ち読み」の回で書いたように、座り読みは本当に多い。
「またかよ…」と半ば呆れながら注意しようと近づいてみてビックリ!!!
私「お客様…立ち読みは立って読……何をしてるんですかっ!!!」
そのオバハンは、なんと…!
売り物の「時刻表」を……書き写していたのです!!!
そんなの初めて見ましたよ。ド肝抜かれましたよ。前代未聞です。
私「お客様、時刻表を書き写すのをやめていただけますか」
オバ「あら、ダメなの?」
私「当たり前じゃないですか! これは商品なんです。調べたかったら買っていただけませんでしょうか?」
オバ「だって、知りたいのはココのページだけなの。他のページはいらないから無駄でしょ。ココだけメモしちゃダメ?」
私「ダメに決まってるじゃないですか? いいですか? これは万引きと同じですよ」
オバ「あら、そうなの? いいじゃない、ココぐらい。1冊丸ごと盗ったわけないし…」
もう会話が堂々巡り! 万引きの自覚なしだし、悪びれないし…もう頭キタ!
私「お客様…この1冊を作るためにどれだけの会社と人が頑張ったと思ってるんですか。いいですか? 何度も言いますが、これは『商品』なんです。それを買わずに書き写すのは泥棒も同じですよ」
オバ「だって、コレ高いでしょ。ココしかいらないし〜。お金払いたくないから〜」
私「お・きゃ・く・さ・ま! 即刻、や・め・て・く・だ・さ・い!」
オバ「おお、怖…はいはい、わかりましたよ」
と、やっとこさオバハンは「よっこらしょ」と立ち上がったので、魚住は「やれやれ」とその場を立ち去り、巡回を続けようとした。しかし、何だかイヤな予感がして振り返って……!!!
オバハン、元の位置に再びしゃがみ込んで、時刻表書き写し再開しとるやないかーい!!!
私「お客様! やめてくださいって言いましたよね! 何度言えば分かるんですか! 本当にやめてください!」
オバ「あらぁ〜、ダメなの〜お?」
……最初(発見時)に戻る。
なんと、これを3回ぐらい繰り返しやがったんですわ。
最後にはへとへとになって、
私「ぜえぜえ……そ、そんなに買いたくないんだったら、インターネットで検索すればいいじゃないですか。すぐに調べられます」
オバ「タダなの? それ、タダなの? どうやればいいの?」
私「家に帰って、お子さんにでも聞いたらどうですか? それもタダですから!」
もう、はらわた煮えくりかえる出来事でしたわ。
オバハン、列車に乗る時もキセルしそうな勢い。
いつか捕まれ ( ꒪⌓꒪)
皆さん、「時刻表」は情報で、鉄道文化です。ちゃんと購入しましょう!
●バカ男子学生
これも巡回中に遭遇した出来事です。
そいつは雑学やクイズ本の棚の前に立っていました。
20代前半ぐらいで学生だと思われます。
有象無象書店ホルス無双店は駅ビルの中にあるのできっと時間調整か暇つぶしで立ち寄ったのでしょう。
私がその書棚コーナーのあたりに接近した時にはそいつは書棚に向かって立っており、こちらに背中を向け、スマホで電話をしていました。
でかい声だったのでそいつの声が聞こえてきた時に「え?」と不信感が一気に倍増です。
バカ学生「○○はなぜいつも西を向いているでしょうかっ? シンキングターイム! ブッブー! 違えーよ、バーカ! 答えは○○だからだってさ。じゃあ、次の問題いくぞー! いいかぁー!」
……これはっ!?
立ち読み? いや、立ち読み聞かせ?
ちょっと違うな…立ちクイズ? 立ち出題?
そんなんあるかーーーっ!!! ボケーーーっ!!!
もう即座に注意です。
私「お客様、本の内容を電話で他人に伝えるのはおやめいただけますか!」
バカ学生「あー、ちょっと待ってー今、なんか言われたからぁ〜。なに?なに?」
電話でそのまま話すんかい!
私、もう一度同じことを繰り返す。
バカ学生「え〜、今ぁ〜怒られちゃったぁ〜。万引きしたわけじゃないのに電話で本を読むのもダメなんだってさぁ〜」
私「お客様、お友達と本の内容を共有するのなら、その本を買ってからにしていただけませんか」
バカ学生「え〜怖〜い! 立ち読みしてただけなのに怒られちゃってるよオレ〜。盗ったワケじゃないのにさ〜。おまえも謝ってくれよお〜(笑)」
私「物質としての本は盗んでいないかもしれませんが、あなたは今、その本に書いてある情報を盗んだんですよ」
バカ学生「何言ってんのコイツ〜(笑)」
私「お客様、情報はタダではございませんっ!!!」
よっしゃ、言ってやったぜ! と思ったら、そいつはまだ電話で話ながら何事もなかったかのようにスタスタと去って行ってしまった。
バカ学生「なんか〜本屋のうるせーおばさんがワケわかんねー!きゃはははは!」
おめーは一生マンガ読むな ( ꒪⌓꒪)
おめーの本だけ開くと真っ白になれ( ꒪⌓꒪)
これが魚住が遭遇した「アナログ万引き」の具体例です。
ご理解いただけたでしょうか。
しかし、こやつら万引き云々以前に、人として礼儀がなっておらん!
ああ、分かっていますよ、うるさいおばちゃんですよ、あたしゃ。
昔、下町にいたどこの子でも叱りつけるお節介おばちゃん。
あたしゃ、もうそうなってますよーだ!(CV:浦辺粂子)
ちなみに、私が書いた長編小説にも「情報はタダじゃない」というセリフがたびたび出てきます。これらの出来事に遭う前に書いた小説ですが、心底そう思っていたんですね。つい激怒してしまいましたよ。おほほほほ♪
(12話:アナログ万引き(了))
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?