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パーソンズ美術大学留学記シーズン3 Week6 #247

まだ10月に入ったばかりなのに、手袋なしでは手がかじかむほど寒い日もありました。ダウンジャケットを着ている人もちらほら。ニューヨークの冬はもうすぐそこかもしれません。

Superstudio

まずは、Transdisciplinary Designらしさについての講義から。ここではコンサルティングのように「相手は困っていて自分たちが答えを知っている」と自他を区別をするスタイルは推奨しないとのこと。これまでの対話(Narratives)を重視するという姿勢からは納得のアドバイス。この授業も同様に先生と学生という関係性ではなくてともにデザインを語り合う仲間でありたいのだそう。

また、"Design really great questions"というのが今回の授業のメインメッセージで、答えや解決策を考えようとするよりも、より良い切り口・視点・問いを模索するようにという話もありました。デザイン思考における問題解決至上主義に疑いの目を向けるのは、Transdisciplinary Designらしいと感じます。

デザインツールとしては、Value Mappingを教わりました。Valueとは価値観であり、トレードオフが生じた時に何を優先するのかとも言い換えられるでしょう。この価値観は文化によって異なる(個人主義か集団主義か等)ので、自分が題材とするコミュニティの文化をその都度理解しなければなりません。そこで登場するのがValue Mappingです。

まず、そのコミュニティの関係者(ステークホルダー)をできるだけ列挙します。次に、ステークホルダー間のお金の流れを明らかにします。そして、ステークホルダー同士の関係性を明らかにします。こうしてコミュニティ内の相関図のようなものを可視化することにより、どこに既得権益があるのか、どの関係性を強めたり弱めたりすればいいのかといった解決策のヒントが見えてきます。


Professional Communication

今週の課題は「将来につながる過去の業績をポスター1枚で表現する」でした。個人的には過去の業績に縛られたくないという思いが強い(だから留学してデザインを学んでいる)ので、「昔は褒められたいとか表彰されたいと思っていたけど、今は自分が好きなことをしていける人生にしたい」という内容でポスターをつくりました。課題の詳細については以下の記事にまとめているので、この記事では自分が授業中のディスカッションで思ったことを中心に書きます。

話題になったのは、誰に見せるのかで伝える内容や伝え方が異なるのではないかということ。これまで作成してきたポスターはあくまでも授業内で同じTransdisciplinary Designの考え方に慣れ親しんだ人たち向けであり、そのまま初めて会った人に見せたとしても伝わりにくいのかもしれません。

先生が紹介したのはブッダのエピソード。ブッダは相手の理解度や立場に合わせて伝え方を変えながら教えを授けていたようです。また、ブッダが話すことは彼が理解している膨大な真理の中から必要な分だけを選びとって伝えていたという話もありました。仏教から伝え方のコツまで学べるとは。

この授業を取っているのは担当の先生が禅に詳しいからというのもありました。授業の始まりには必ずみんなで簡単な瞑想をして気持ちを落ち着ける時間を設けるなど、授業に集中できる環境づくりをするスタイルも好きです。

あと印象的だったのは、自分が他人にするフィールドバックは自分が気にしていることの投影かもしれないという話。自分のことを振り返れば、「このポスターで一番大切な部分はどれ?」とか「あなたが本当に興味があるのはどれ?」といった質問をよくしています。自分がエッセンシャル思考やミニマリズム的な考え方を好んでいるゆえの質問ですね。


Anthropology and Design

今週は『Ethnography by Design: Scenographic Experiments in Fieldwork』の著者である、Luke CantarellaとChristine Hegelをゲストに招いての講演&ディスカッションでした。テーマはデザインと人類学のコラボレーション

デザインと人類学の協力関係は2010年代から活発になっているようですが、その方法論はまだ確立していません。『Design Anthropology: Theory and Practice』で指摘されているように、変化を好み相手に介入しようとするデザインと保守的で相手に干渉しないようにする人類学という性質の違いをどうすり合わせるかという課題があるようです。

こうした課題がある中で、今回のゲスト講師らが行っているSpeculative DesignとEthnographyを掛け合わせるスタイルが印象的でした。たとえば、地球温暖化が進んだ世界ではホッケーなどのウィンタースポーツはどうなっていくのかをテーマにしたプロジェクトなどが紹介されました。

「非日常の中の日常を描いて記録する」というスタイルは面白そうです。Transdisciplinary DesignではSpeculative Designを学ぶ機会があり、私たちは「Times Squareの未来をデザインする」をテーマに取り組んだ経験があります。そこで感じたのは、Speculative Designだけでは作品を観た人からのフィールドバックを得にくいというものがありました。Speculative DesignにEthnographyなどの人類学の手法を取り入れて、未来の日常を記録するという形式は試す価値がありそうです。

また、デザインと人類学など異なるジャンルを掛け合わせる場合、そこには「正しい」やり方は存在しないので自分なりに試してみるしかないとのことでした。まさにデザインが大切にするプロトタイプ精神、とりあえずやってみる精神が必要になりそうです。


まとめ

デザインの名を冠する学部でありながら、ビジネス、アート、仏教、人類学を学んでいるという不思議な一週間でした。いずれにせよ古今東西の人生の先輩たちの知恵を学んでいることには違いない。どうすればこれらの知恵を組み合わせて新たな知恵を生み出せるのかが問われています。

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