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10月29日の手紙 混ぜるな欲望

拝啓

日常生活の人間関係でこじれていることの多くは、自分の欲望と他人の状態や他人の言動を混ぜているからなのではないか、とふいに思いつきました。

ただの思いつきではありますが、わりといい線をいっているような気がします。

ちなみに、これは欲望を否定しているということではありません。むしろ、欲望の重要性を鑑みて、そう考えています。

例えば、ある人が心の底では「ちやほやされたい」と欲望している(思っている)が、自分では気づいていないとします。すると、学校や職場で「ちやほやされている人」と自分が感じる人を何となく避けるようになるかもしれません。
もしくは、悪口を言うとか欠点探しをするかもしれません。
もしくは、テレビやSNSで「ちやほやされている」ように見える人たちが気になります。
皆は、ちやほやされている人たちに騙されているのだと思うこともあるかもしれません。
次第に、その人たちのすることなすことを確認しないと気が済まなくなります。最後には確認するだけでなく、いわゆるアンチと言われる存在になることもあるでしょう。

本当は自分自身が「ちやほやされたい」というのがまずあるのに、そこには目を向けず、他人の状況や言動を「ちやほやされている」という眼鏡で見る、混ぜ込んでいくからおかしなことになるのだと思うのです。

もちろん、おそらくほとんどの人が、自分の本当の欲望に気づいていないか誤魔化しています。
そのこと自体は一般的で悪いというわけではありません。
ここでいう欲望とは、例えば、「モテたい」とか「人より賢く見られたい」とか「美しくなりたい」とか、「お金持ちになりたい」というわかりやすいものをもっと掘り下げていってわかる、「愛されたい」「安心したい」とか、「認められたい」「変化なく暮らしたい」とか「傷つきたくない」「楽をしたい」というより原初的な欲望です。
先にあげた「ちやほやされたい」もよくある欲望のひとつだと思います。「かまわれたい」と言い換えてもいいかもしれません。ペットでもそういう気持ちはあるようですから、これも原初的な欲望と言えるでしょう。
ただし、この欲望について全く無自覚であり続けると人間関係で結構なトラブルが起こるか、人生に不満が募ってくるのだと思います。
だって、自分の欲望が満たされないのは辛いですからね。

こういった欲望を自覚している人は実は、少ないのだと思います。
これは文化的なものなのか、時代的なものなのかはよく、わかりません。
自分の欲望を知っている人たち、自分の欲望をわかっている人たちは、あっけらかんとして気持ちのいい人であることが多いような気がします。わがままだったり、頑固であったりしでどこか憎めないところがあります。それは、他人の存在に自分の欲望を混ぜ込むことをしないからでしょう。
さっぱりしているし、他人との距離がきちんとあります。

反対に、とても良い人であっても、自らの欲望についてあまりに無自覚である場合、一緒にいるうちに、どんどん辛くなってきます。
その人の無自覚な欲望に、巻き込まれていくことが多いからです。欲望に、無自覚であればあるほど、他人の状況や言動をその欲望の眼鏡で見て判断してしまうことが多いのだと思います。
「人に好かれたい」という欲望がある人が、それに無自覚だと、普通に暮らす人々に街中で出会っても「リア充め!!爆発しろ」とすぐリア充認定して呪うあの構造ですね。
でも、まわりの人が真に「リアルが充実している」かどうかはわからないのです、本当は。それに、皆がそれを望んでいるとも限りません。

まあ、そもそも「とても良い人」の「良い」は、「どうでも良い」の「良い」なのかもしれません。自分の欲望を捉えることを放棄してしまったという意味での「自分のことなどどうでも良い」人。良い人にはたまにそういう人が混ざっています。

欲望のさらに難しい点は、親子の間では、なおややこしくなるということです。
親が自分の欲望に無自覚な場合、その欲望に子どもは小さい頃から巻き込まれることになります。つまり、自分の欲望が何かわかる前から、ということです。こうなると自分の欲望を見つけるのは一筋縄では行きません。自分が本当は何を望むのか、自覚できるまでにはおそらく、長い時間がかかるでしょう。

個人的には、自分の欲望は「誰にも文句を言われたくない」さらに突き詰めると、「傷つきたくない」だろうと思います。まだ確信はありませんが、プライドが高いことと、関係しているはずです。
なかなか、文章を書き出さなかったことも突き詰めていくと「傷つきたくない」欲望が強すぎたからだと思うのです。
一方、「愛されたい」という欲望は、歳を重ねてかなり薄くなったように思います。

多くの人は自分の本当の欲望には目を瞑ります。そして、その欲望を他人の状況や言動に投げ込むのです。
「混ぜるな欲望 他人と自分は分別せよ」

「自分の欲望が何か、あなたは知っているのか?」と聞かれたら、何と答えますか。



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