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つまらない地図

現代は、科学が進歩し、世界は著しく都会化している。あちこちでビルが立ち並び、ゲーセン、映画館、博物館などの娯楽施設も増えてきた。この世界の地図はどんどん彩られ、豊かになっていく。

でも僕の地図をみてくれ。

無題2075

これが大学生の私の地図だ。なんにも無いんだ。つまらないのだ。
周りのビルはみんなハリボテ。
駅ですれちがう人はみんな無機質なロボット。歩く障害物。
そいつらを避けて避けて電車に乗るゲーム。それが通勤、通学。
とにかく毎日が単調な繰り返し。

つまんないなぁ。

ある日の夕暮れ、寂しさに飢えた僕は、駅の近くの飲み屋に無意識で飛び込んだ。
ちっちゃな飲み屋。女店主が一人で切り盛りしていた。客は僕だけ。注文をし、ぼーっとした。狭い空間の中でたった2人の世界。

…気まずいなぁ。と思ってたら、向こうが話しかけてきた。

(女店主)「何ヲ方シテル方ナンデスカ?」
(僕)「あ、あの・・・、えっと・・だ、大学生です。」
(女店主)「若イデスネ。ナニヲ勉強シテルンデスカ?」

こうして僕が大学で勉強していること、僕が一人好きなこと、でも時には寂しいと思っていることなど、少しずつ会話が弾み出す。だが、どこか乾いた空間を感じていた。
その時だった。

(女店主)「私ハ『カーラ』ト言ウノ。フィリピンカラ来タ。」

(*店主)「・・・ガチャッ」
(カ*主)「・・・」
(カー*)「・・・」
(カーラ)「・・・」
(カーラ)「それでね、私は35歳。家族が12人もいるの、多いよね(笑)、私の家族は、貧しかったから、出稼ぎで、ここに来たの。もう11年になるから、日本語話せるよ。あ、あと実は私は、バイトでこの店で働いてるの。え、店主だと思ってた?違うよー、よく間違われるの(笑)」

突然、生命の産声が聞こえた。今、この目の前にいるロボットから。
「女店主」という聞き役に特化したロボット。
それが今、「カーラ」という一人の人間に融解していった。
軽い衝撃を受けた。そして想像した。「カーラ」の人生を。僕が生まれる前から、「カーラ」は確かに存在し、人生を刻んでいたことを。
そして、その生命は今も進行していて、僕の目の前にいる。決して、ロボットなんかじゃない。
目の裏側で涙が出てきた。
ロボットが人に融解する決定的な瞬間、それは僕にとってあまりにも大きな感動だった。

ふと気づけば周りは真っ暗になっていた。
だが僕の地図は、夜が明けようとしている。
生命という太陽が顔を出し、笑っている。
その太陽は次第に小さくなり、地図のマークになった。


やぁ僕の地図を見てくれ。

無題2079

ちょっと地図が元気になってきた。
そして、僕は開拓者だ。
今日は何を見つけよう?


無題2083

星ピン一 Hoshi Piniti

1925年9月8日、東京生まれ
本来は絵を描く方が得意。でも文を書くのも好き(初心者)。


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