見出し画像

【小説】弥勒奇譚 第二十七話

「ご覧くだされ見事な虹じゃ。唐の国では虹と龍は同躯であるとか化身であると言われておる。
間違いなく龍神様は開眼供養を喜ばれておるのじゃ」
「これで龍穴社も末永く安泰じゃて」
不動は嬉しそうに笑い声をあげるのだった。

その夜、弥勒は夢を見た。
それは今までと違い短いものだった。
龍穴社の薬師如来が収められた厨子の前で普賢が
一心不乱に祈りを捧げている。こちらに気が付いたのか振り向くと一言「ありがとう」と言い微笑みながら天を指して昇って行く。
そしていつの間にかその姿は龍となり、名残惜しそうに何回も旋回したかと思うと一気に空を駆け上り消えて行った。
夢はそこまでだった。
外はまだ真っ暗で夜が明ける気配は無かった。
ふと隣で寝ていたはずの文殊の姿が無いのに気が付いた。
そのまま寝ていたがなかなか戻らないので外に出てみると文殊がぼんやりと星空を眺めて立っていた。
「どうしました」
「つい今しがた夢をみて目が覚めてしまってな」
「そうですか私もいま普賢の夢を見て目が覚めました」
「普賢が龍となって天に昇って行くのです」
「そうか、もっと詳しく話してみてくれないか」
文殊は少し驚いたような顔をして弥勒の顔を見た。
弥勒が初めから詳しく夢の内容を話すと文殊はなぜか安心したような表情をした。
「私の見た夢も全く同じだったよ」
「私も兄上が夢を見たと聞いたときにそうではないかと思いました」二人は中に戻って床に入ったがもう寝付けそうも無かった。
「弥勒よ起きているか」
「はい、眼が冴えてしまいました」

この記事が参加している募集

#歴史小説が好き

1,242件

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?