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【小説】弥勒奇譚 第十九話

「色付けはやったことがあるのか」
「はい、像本躯にしたことはありませんが修理の手伝いで台座や板絵の色付けはかなりやりました。
顔料の配合も一通りは理解しているつもりです」
不空は暫し考え込んだ末に小さく溜め息をついた。
「お前がそこまで言うのなら好きにしてみなさい。
この仕事はお前の言う通り最後までお前の手でやった方が良いのかも知れんな」
「ありがとうございます」
「絵師には私から話はしておく。顔料はここでは手に入らないが京から送らせるか」
「そうすると時間が掛かりますので山を下りて買い求めて来たいと思います。初瀬まで行けばあると思いますので」
「では帰りがてら初瀬まで一緒に行くことにするか」
不空が京に戻るまでの数日間、台座と光背を師匠と
二人で造ることは弥勒にとっては自分でも不思議なほど嬉しい時間であった。今までさほど気に留めてもらっていなかったと思っていただけに、本躯の制作ではないこの仕事が貴重に思えるのだった。
蓮華座と七仏薬師の光背が完成して不空と弥勒は
連れ立って山を下った。
初瀬の街で必要な物を買い揃えて不空は京へ、
弥勒はまた室生の里へと別れて行った。
「開眼供養にはまた来るつもりだから身躯に気を付けて励めよ」
「はい、師匠も道中お気を付けて」

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