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【読書で出会う人形浄瑠璃】畠中恵『まことの華姫』

「さぁ、note 始めるぞ!」と意気込んだのも束の間、久方ぶりの大阪の夏の暑さや職場の環境変化に負けて、なにもやる気が起きないナマケモノ期間に突入してしまいました。
そんなナマケモノ期間中の過ごし方の一つとして、積読本をせっせと消化しているのですが、
思いがけず、人形浄瑠璃や文楽と出会うことが多く、
暑さがおさまると同時に、なんとなく心の余裕も出てきたので、それをnoteに書いていこうと思います。

1冊目は、畠中恵さんの『まことの華姫』(KADOKAWA)です。

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基本情報

【発売日】
2016/9/28
※その後、文庫化(2019/6/14)
【内容】
人形遣い月草と姫様人形お華の迷コンビが江戸の事件を快刀乱麻!
江戸は両国。暮れても提灯の明かりが灯る川沿いの茶屋は、夜も大賑わい。通りの向こうの見世物小屋では、人形遣いの芸人、月草の名が最近売れてきている。
なんでも、木偶の姫様人形、お華を相方に、一人二役の話芸を繰り広げるのだという。それも、話芸が目当てというより、お華に会いに来るお客が多いというのだ。
何故なら。“まことの華姫”は真実を語る――
姉を殺したのは、実の父かもしれないと疑う、小屋一帯の地回り山越の娘・お夏。
六年前の大火事で幼な子を失い、諦めきれずに子ども捜しを続ける夫婦。
二年前に出奔したまま行方知れずの親友かつ義兄を探しにはるばる西国からやってきた若旦那。
そして明らかになる語り部・月草の意外な過去……
心のなかに、やむにやまれぬ思いを抱えた人々は、今日も真実を求めてお華の語りに耳を澄ます。
しかし、それは必ずしも耳に心地よいものばかりとは限らなくて……
快刀乱麻のたくみな謎解きで、江戸市井の人々の喜怒哀楽を描き出す、新たな畠中ワールド! (KADOKAWA公式ホームページより)

読んでみて

たまたま図書館で見つけたこちらの本。
元々、「しゃばけ」や「まんまこと」など、畠中さんの描く江戸時代の市井の雰囲気が好きで、「知らないタイトルだなぁ」と思い、借りてみました。
この時点で内容は知りませんでした。
表紙見て、お姫様が活躍するんかなー、気ぃ強そうなお姫様やなーって思ったくらい。

読んでみたら、主人公の草月は元人形師で、今は人形遣い(一人遣い)。
両国で人形を遣って話芸を披露する草月と、真実を見抜く目を持つと噂をされる姫様人形のお華(華姫)が、お江戸で起こる事件を解決していく話でした。
作中でお華は生きているかのように動くとされ、草月と漫才、もとい話芸を披露しています。
口の悪いお華とヘタレな草月のやりとりは軽妙で、読んでいて脳内で再生されました。
(『あやつり左近』という漫画を思い出しました。)

お華のもとには、「真実」を望むひとが訪れます。
ですが、「真実」がそのひとの望むやさしい「真実」とは限らず……。
ひとの心の綾とか襞とか、うすくらがりとか、そういうものがが白日に晒されて、
哀しいやら切ないやらそら恐ろしいやらで、なんとも言えない気持ちになり、胸が痛くなって涙がこぼれそうになる。
それでも、どこかに救いもあって、じわっと広がるような。
ああ、畠中さんのこういう感じが好きだなぁって、目を潤ませながら読み進めました。

人形浄瑠璃文楽と本作

生きてるかの様に動いて話すお華ですが、草月が腹話術で遣っているという設定なので、「しゃばけ」みたいにあやかしが出てきたり、なにかが取り憑いてたりというような摩訶不思議なことはないです。
生きてる様に動く人形、しかも姫だと、文楽見てるひとは、より違和感なく思い描けると思います。
あと、お華のおっかけの「お華追い」という集団がいて、草月とお華の話芸中に声をかけるのですが、娘義太夫の「堂摺連」を思い出して、おかしかったです。

最後の話には上方の人形浄瑠璃の座が出てきます。
ただ、そこで「人形浄瑠璃って文楽のこと?」みたいな言葉が出てきて、「人形浄瑠璃=文楽って、江戸時代には言われてへんのちゃうかなぁ。そもそも「文楽」って語は、まだ人口に膾炙していなかったのでは……」っていうのが気になってしまって、
草月が過去と向き合う一番クライマックスの話なのに途中の数ページは、話に入りきれませんでした。無念。
作中で描かれるのが江戸時代のどの時点なのか分からず、また、「文楽」(「文楽軒」「文楽座」ではなく)の語の初出をきちん調べてないので、断定は出来ないのですが……。
ですが、ラストで謎が明かされる部分は、お話に引き込まれてあっという間に読み終わりました。

おわりに

人形遣いと人形が探偵役の本作、当たり前ですが、人形浄瑠璃文楽を全く知らなくても楽しく読み進めます。そもそも草月の芸は人形浄瑠璃のものではないですしね。
ですが、文楽のことを知っていると、より楽しめるポイントが多いと思います。
お華ちゃんを思い描く時、ついつい推し赤姫で脳内再生してしまうとか。
まだまだおうち時間も多くある今日この頃。
夏も終わり、いつの間にか読書の秋となりましたが、読書で人形浄瑠璃文楽に触れるのはいかがでしょうか。

続刊『あしたの華姫』も出ているようなので、早速読みたいと思います。
(まだある積読から目を背けつつ)

おまけ

読んでから、知ったのですが刊行記念として、勘十郎師と畠中さんの対談があったようです。
好きな人×好きな人とか、なんて私得なんだ……!

人形の何が人を惹きつけるのか――〈刊行記念対談〉畠中恵『まことの華姫』×桐竹勘十郎(文楽人形遣い)

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このお話ができたきっかけは、なんと! 文楽とのことです。
好きな人が好きなものに触れてるを知ると、嬉しくて心が震えますね。
……知った時は、「なんと!」と興奮したんですが、記事書いていたら「そら、そうか。作中にも語が出てくるもんな」と思い至りました。
勘十郎師のお話を拝読して、それを頭に浮かべながらもう一回読みたい。

書評

東えりか氏「人形遣いと姫様人形が市井の謎を解く『まことの華姫』畠中恵」

末國善己氏「“まこと”を語る姫様人形が、謎を解き心を癒やす」

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