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大学授業一歩前(第142講)

はじめに

 今回は書評専門紙「週刊読書人」と書籍を刊行している出版社の読書人様にインタビューをしました。是非、今回もご一読下さいませ。

概要

Q:自社の概要を教えてください。

A:書評専門紙「週刊読書人」と書籍を刊行している出版社です。今年で創刊64年を迎えました。「週刊読書人」は毎週金曜日発売で、8頁だての通常版は約12本の書評を掲載しています。巻頭では対談やインタビューを企画しており、年間で、約1000冊の書籍を紹介しています。「書評キャンパス」という、学生が書評を書く連載コーナーもあります。
 また、昨年から日本財団さんとともに、読書人カレッジという新規事業を立ち上げました。「若者の本離れ」に対して読書人として何かできないかと考え、本を読む楽しさや意義を大学生に広めたく、各大学に協力をお願いし、読書の講座を行っています。新聞、イベント、出版の三つが事業の主体となっています。

オススメの一冊(読書人の中から)

Q:読書人様から出版された本の中でオススメの一冊を教えてください。

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A:宮台真司・苅部直・渡辺靖著『 民主主義は不可能なのか? コモンセンスが崩壊した世界で』(読書人、2019年)です。
 「週刊読書人」では年末に、その一年の出来事を三名に振り返ってもらう鼎談を掲載しています。本書には、2008年から2018年までの鼎談が収録されています。この本の中で議論されている問題は、「民主主義は現在、本当に機能しているのか」ということです。多数決の場合、51対49であれば後者の意見はなかったことにされてしまうが、本当にそれでいいのか。果たしてそれは、民主主義と呼べるのか。今の社会でも注目されている問題を、著者がそれぞれ専門の分野から議論しています。

オススメの一冊(他の出版社の中から)


Q:オススメの一冊を他出版社の中から教えてください。

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A:平野啓一郎著『死刑について』(岩波書店、2022)です。
 死刑制度は、国というものの根幹にかかわってくる制度です。日本は死刑を存続させていますが、世界的には廃止している国の方が多い。この違いなどを含め、死刑制度について平野さんが詳細に論じています。
 平野さんは、この制度について「ある事情のもとでは人を殺すことのできる社会」にしてしまっている、それでよいのかと問います。ですが、以前は、どちらかといえば死刑制度に賛成だった。けれど、ヨーロッパの作家たちと交流する中で、また『決壊』という小説を書くことを通して、考え方が変わっていったんですね。その経緯が、本書には記されています。
 読んだ後、それでも死刑は必要だと考える人はいるでしょう。それはそれでいいと思います。大事なのは、本書が死刑という制度を考えるきっかけを、私たちに与えてくれるということです。

メッセージ

Q:最後に大学生に向けてメッセージをお願いします。

A:正直、出版――中でも人文系の編集は、あまり学生に人気がないと思います……。活字文化が衰退している影響もあるでしょう。今は、読書よりも魅力的なコンテンツがたくさんあります。けれど、たった一冊の本が、ひとりの人間の人生を変えることもあれば、歴史を大きく動かすことだってある。書物が持つ影響は、非常に大きいんですね。そういうものと関われる編集という仕事は、とても魅力的で楽しいです。
 また、編集者は本を通して多くの人の出会うことができ、いくつになっても学ぶことができる。そんな仕事は他にはないと、個人的には考えています。少しでも興味があれば、ぜひ出版や編集の門を叩いてみてほしいですね。

おわりに

 今回は書評専門紙「週刊読書人」と書籍を刊行している出版社の読書人様にインタビューをしました。お忙しい中お時間を設けて頂きありがとうございました。
 インタビュー最中に大変痛ましい事件が起きてしまいました。まさに事件が起きたのと同じタイミングで宮台真司・苅部直・渡辺靖著『 民主主義は不可能なのか? コモンセンスが崩壊した世界で』(読書人、2019年)のお話しを伺っており、「民主主義は不可能なのか」という問いの重大さを改めて認識しました。
 民主主義と読書の関係性については個人的にも引き続き考えていきます。次回もお楽しみに。



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