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あなたの体は9割が細菌 アランナ・コリン

あなたの体は9割が細菌 アランナ・コリン
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☞微生物との共生
微生物は腸管内だけで100兆個(4000種類)存在します。
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例えば、ダンゴイカは下腹部の体腔に光る細菌を住まわせながら身の安全を確保しています。つまり、ダンゴイカは細菌に住処を提供し、細菌はダンゴイカに偽装手段を提供していることになります。
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また、牛は草食動物ですが、牛の遺伝子だけでは繊維質の草から栄養を取り出すことができません。そこで、牛は繊維質から栄養を取り出す仕事を微生物に外注し、胃の中で微生物酵素による化学的な分解作用を受けます。
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そう考えると、人の体でも同じような状況が起きていると考えても不思議ではありません。
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☞消化器と微生物
医学の進歩において、マウス実験は極めて重要です。特に、有益な菌とも有害な菌とも接触させないで育てた無菌マウスの存在が、医学の発展に貢献してきました。その研究の中で、微生物が腸内環境だけでなく腸の形態まで変えることや、微生物がいると腸壁の表面積が大きくなるので食物から効率的にエネルギーを得ることができることを明らかにしてきました。
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かつて、細菌による感染症で亡くなることら珍しくありませんでしたが、現代ではあまり起きない事例です。一方で、花粉症、喘息、食品アレルギー、犬猫アレルギーなどのアレルギーが普通になってきてしまっています。
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1930年代の喘息の子供は学校に1人いるかいないかのレベルでしたが、現在では4人に1人の子供が喘息持ちです。これは普通なのでしょうか。
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アレルギーにとどまらず、肥満や心の病気も増えています。
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これらに共通するのは、消化器障害であることです。
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例えば、自閉症の人は慢性的な下痢であるし、うつ病は過敏性腸症候群は連動して起こるし、肥満も腸内を通過する食べ物が原因です。
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実は、免疫細胞が1番集まっている場所が腸です。なんと免疫系組織の60%が腸にあるそうです。
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そして、過敏性腸症候群は、微生物の存在量比率が不安定な場合に起こる可能性が指摘されています。
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また、別の視点から見ると、12000人を32年に渡って体重と対人関係を分析したところ、家族や親友の体重増加と強い相関があったそうです。配偶者が肥満になった場合は37%、親友が肥満になると自分が肥満になるリスクが171%も上昇します。これは、同じものを食べてるかどうかは関係ないそうです。それだけ人は周りの影響を受けるのですね。
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腸内環境は、自閉症の原因にもなっています。腸内細菌の組成が異なるだけで、脳にまで影響してしまいます。また、自閉症の子は下痢を伴っていることが多いため、腸内環境を整えると症状が改善した事例もあるそうです。
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恋愛でも細菌が影響しています。男性が一晩身に付けたTシャツの匂いを女子学生に嗅がせて、どの匂いを好ましく思うか選ばせた実験があります。その結果、女性は自分と免疫型が似ていない男性の匂いを好んだそうです。つまり、自分と遺伝子の似ていない相手を直感的に匂いで判断していると考えられます。
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匂いのもとは皮膚の細菌です。その細菌を、消臭剤や抗生物質、避妊薬が破壊してしまいます。ピルを常用する女子学生は、自分とよく似た免疫型を持つ男子学生の匂いを好んだそうです。キスも、結局は唾液に含まれる細菌の交換ですので、本能的に細菌で判断しています。そして、細菌によってセロトニンが作られる(厳密には複雑なメカニズム)ので、気分も良くなります。良いことだらけです。
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☞抗生物質とアレルギー
10人に1人の子供が喘息で苦しんでいることや、無害な粒子(花粉)に40%の子供と30%の大人が拒絶反応を起こすのはおかしな現象です。
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アレルギー患者は、免疫力が活発すぎて本来敵ではないものまで攻撃してしまうために起こります。
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通常のモルモットが赤痢菌に感染してもなんともなりませんが、無菌(細菌を持たない)モルモットが感染すると必ず死んでしまいます。そんな無菌モルモットに、通常のモルモットからたった1種類の細菌を与えただけで、赤痢菌に感染しても死ななくなります。
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また、通常の腸内細菌を持つマウスに抗生物質を与えると、感染症になりやすくなるそうです。つまり、抗生物質を飲んで1つの症状を抑えたとしても、かわりに他の感染症に対して無防備になってしまうということです。
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これについては、抗生物質が保護役の微生物を減らすのではなく、細菌種別の組成比が変わってしまうためのようです。
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85000人を対象にした試験では、ニキビ治療に抗生物質を長期間服用した被験者は、抗生物質を使わなかった対照群と比較して2倍も感染症にかかっていました。また、別の試験でも、4倍も風邪を引いていました。
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抗生物質とアレルギーの関係については、抗生物質の治療回数が多い子供ほど、喘息や皮膚炎、花粉症を発症しやすかったそうです。
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☞リーキーガット
リーキーガットは、腸の透過性が上がる(腸に穴があく)症状です。腸壁には多くの細菌が張り付いていますが、その細菌同士を繋いでいるのはたんぱく質です。その繋がりが弱まるとリーキーガットになってしまいます。
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例えば、肥満は血液中のリポ多糖濃度が高くなることに関係しています。ちなみにリポ多糖とは、細菌の皮膚細胞のようなものです。
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リポ多糖は比較的大きな分子で、通常は腸壁を通過できません。しかし、腸の透過性が上がると、リーキーガットになると隙間を通って血液中に入ります。すると、見張り役の受容体が刺激され、免疫系に警告します。免疫系は指令を受け動き出します。この過程で炎症が起こります。
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炎症が起こると、免疫細胞の1つの食細胞が脂肪を蓄えている脂肪細菌の周りに集まり、脂肪細胞を肥大化させます。こうして太ります。
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☞ニキビ
途上国の若者にはニキビはほとんどありませんが、先進国では90%以上の人が人生のどこかでニキビに苦しみます。
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ニキビはこれまでアクネ菌が引き起こすとされていましたが、近年ではアクネ菌はあまり関係ないことが明らかになりつつあります。
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ニキビ患者の皮膚には免疫細胞が過剰に存在するので、アクネ菌を含む皮膚常在菌を敵とみなすのではないかと考えられています。
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また、ニキビに抗生物質を塗布する治療が一般的ですが、抗生物質は免疫系の組成比を変えてしまうので、むしろ逆効果かもしれません。
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☞抗生物質がなぜ処方されるのか
風邪を引いて病院に行くとほとんど抗生物質が処方されます。そもそも、抗生物質はウイルスを殺す薬ではなく、過剰に機能している免疫系細菌の活動を抑える薬です。
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ではなぜ医者は抗生物質を処方するのでしょうか。医者にしてみれば、病んでいる患者を手ぶらに帰すわけにはいかないのと、万一細菌による合併症が生じると困るため、念のため処方するそうです。なので、多くの場合は不必要な場合が多いのです。
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軽症患者に救命用の抗生物質を使うと、抗生物質耐性菌が生まれます。すると、耐性を持つ細菌が生き残るようになり増殖します。将来的には抗生物質の影響でちょっとしたかすり傷でも死者が出る可能性があるそうです。抗生物質を否定するわけではなく、必要以上にむやみに抗生物質を服用しないことが大切です。
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抗生物質を頻繁に服用すると、抗生物質耐性菌が生まれるだけでなく、副作用も出ます。副作用とは下痢などの症状なので、この時すでに腸内細菌の組成比が変化しています。そして抗生物質の服用が終わった時、腸内細菌は元に戻るでしょうか。
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答えはNOです。1度抗生物質を投与すると、2年経っても微生物の元の存在量比率には戻らなかったそうです。また、乳児に限っては、1度抗生物質の治療を受けると、DNAを検出できないほど僅かな細菌しかのかっていなかったそうです。
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こうした影響は、普及率の高い抗生物質薬の6種類で確認されています。最低量しか使わなくても、影響があるようです。
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ただし、全ての抗生物質が悪いわけではなく、事実としてこれまでたくさんの命を救ってきましたので、抗生物質のメリットデメリットを天秤にかけ、服用を選択することが大切です。
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☞抗菌剤入り製品
現代では、抗菌を謳う石鹸やシャンプーなどを使う人が多いです。しかし、抗菌剤の入っていない石鹸と温水だけで皮膚の細菌は十分洗い流せます。また、抗菌作用があっても菌を殺すわけではありません。
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抗菌のテストは、大量の細菌を直接、現役石鹸で満たした容器に入れ、一定時間(ずっと長い時間)放置した場合に、どれだけ細菌が生き残っているかを調べています。
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抗菌物資のトリクロサンは、細菌による汚染を取り除く効果で言えば、普通の石鹸と変わりません。しかし、トリクロサンを使うとそれが水源に流れ込み、淡水の生態系バランスを乱し、巡り巡って人体にも入り込みます。
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トリクロサンについてはまだ研究されている真っ只中ですが、尿から排出されるトリクロサン濃度とアレルギーの重症度には明白な相関関係があるそうです。まだ具体的なメカニズムは明らかになっていないが、抗菌物資はデメリットの方が多そうです。
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米国食品医薬品局(FDA)が米国で販売されている19種類の殺菌成分(トリクロサン、トリクロカルバンなど)を含む薬用殺菌洗浄剤の有効性や安全性が検証されていないとの理由で、販売禁止措置の発表がされたことを受け、日本のメーカーも商品に使用しなくなってきています。
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☞栄養の吸収
これまでは、胃で消化・栄養吸収し、大腸で水分を吸収すると考えられていました。しかし、正しくは胃で人間自ら分泌する酵素で分解・吸収し、残りの多くは大腸へ移動します。大腸では微生物が待ち構えていて、自分に必要なものを吸収します。さらに残った物の分子と水分が吸収されます。
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このように、微生物なくしては食べた物の多くを分解できないそうです。
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過去数十年の栄養摂取の統計を見ると、食物繊維の摂取量が落ちていることがわかったそうです。かつては、現在の2倍の量の食物繊維を摂取していましたし、痩せ型の人の腸内細菌は食物繊維を餌にします。
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実際に、ビフィズス菌に食物繊維を与えたところ、ビフィズス菌の量が増えたことを実験で確認されています。また、高脂肪食を続けたマウスに食物繊維を与えると、腸壁が塞がれコレステロールの低下や体重増加速度が低下したことがわかりました。
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☞プロバイオティクス
毎日良い細菌を一定量摂取することをプロバイオティクスと呼びます。プロバイオティクスは、抗生物質等で腸内細菌が居なくなってしまった場合には一定の効果があります。抗生物質服用者の中でおおよそ30%が下痢を発症しており、そのうちプロバイオティクスで50〜60%の確率で効果が確認されています。
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しかし、プロバイオティクスが最も効果を発揮するのは、治療よりも予防です。
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プロバイオティクスで注意すべきポイントは3点あります。
①どんな菌種の菌株が入っているか
→明記されていないことが多いので、なるべく多様な細菌が入っていることが好ましい。
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②どれだけの量の細菌が入っているか
→新しい細菌は既に腸内に住む100兆個の細菌と戦うため、なるべく多い方がよい。
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③細菌のパッケージ方法
→ヨーグルトの形をしたプロバイオティクスの多くは相当量の砂糖が加えられているため、健康的な方ではなく不健康なほうに傾ける恐れがある。
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これらは、菌を入れる方法ですが、毎日取り続けなければなりません。これに加えて、腸内で自ら良い細菌が増殖する環境を整えてあげることが大切です。
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方法としては、水溶性食物繊維を摂取することです。簡単に言うと、野菜をたくさん食べましょうということです。
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プロバイオティクスにしろ食物繊維にしろ、もし仕事が忙しかったり、時間がなくて難しい時は、サプリメントに頼ることも大切です。
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「あなたの体はあなたの食べたものでできている。」という言葉もあるように、まずは食事が基本なんだなと思いました。
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他にもおもしろい内容がたくさん書かれていました。腸内細菌に興味のある方にはおすすめしたい1冊でした。

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