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【読書ノート】1「山怪 山人が語る不思議な話」田中康弘

本書はフリーカメラマンの著者が地方に住むマタギやその他老人から山の怪異譚の経験を集めたものである。読んでまず思い浮かんだのは柳田の「遠野物語」。戦前、中央省庁の官吏だった柳田は怪異譚を含む各地の伝承や習俗などを丹念に集めて行き、それがやがて民族学という学問を確立するに至った。もはや絶滅寸前の老人の怪異譚を時間と手間をかけて収集して本にまとめた著者の姿勢と努力には敬意を表したい。このような作業は誰かがやらなければ自然消滅してしまい永遠に失われてしまう。この本が売れ続けていることが本当に嬉しい。 

あとがきより:
「本来、怪異譚は地域の大事な「語り遺産」だと思う。しかしながら、それが語られる場が今は消えつつある。長い冬場、囲炉裏端で飽くことなく繰り返された語り。テレビもない時代には語ることで繋がった人々。孫と爺婆の大事な接点であった語り。」

山怪

「語り継がれることで話しそのものが進化し、さらに様々な要素を取り込んで成長する生き物でもある。語りとは人間にとって大切な知的作業なのだ。私が語りの重要性を認識し、貴重な遺産だとみなす理由はそこにある。」

山怪

(2017年7月7日)


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