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【小説】ヴァルキーザ(ルビ付き版)

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小説『ヴァルキーザ』本文にルビを振った版のマガジンです。(本文の内容を少し改変しています)
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2022年8月の記事一覧

小説『ヴァルキーザ』 22章(3)

小説『ヴァルキーザ』 22章(3)

こうしてエルサンドラ軍の前線基地・ローレリア鉱山は、ライゼルとマーガス、南部都市同盟(イリスタリアの植民都市)、西方に棲むミリヴォグ族たちが結成した連盟大軍を前に陥落した。

基地に駐留していたエルサンドラ軍は全滅し、本拠からの増援部隊もそのほとんどが討たれた。
北から侵攻してきたそれら敵のうち、生き延びた少数の者たちは、再び北へ敗走していった。

このとき、ローレリアは、晴れて忌まわしきエルサン

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小説『ヴァルキーザ』 22章(2)

小説『ヴァルキーザ』 22章(2)

それを見て、白馬に騎乗していた騎士スターリスがランス(長い槍)を腕に抱え、巨大な竜のゲルグースに突撃していった。

ゲルグースは後脚で彼をなぎ払おうとしたが、騎士団長ローレットが援護のために射ってきた矢に一瞬、気を取られた。

その隙にスターリスは竜に接近し、その脇腹に深くランスを突き込んだ。

痛さのあまり、ゲルグースは絶叫して飛び上がり、その場から逃げ去った。

グラファーンたちが鉱山の入口ま

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小説『ヴァルキーザ』 22章(1)

小説『ヴァルキーザ』 22章(1)

22. 飛竜の洞窟

エルサンドラ軍の前線基地・ローレリア鉱山の前方に集結している魔の兵団に対抗してライゼル騎士団および民兵団、マーガス国軍、南部都市同盟軍、西方ミリヴォグ軍が同盟して結成した連盟大軍。

彼ら連盟大軍は、鉱山の南方に横に拡がる、荒涼たる平原の南端に陣を敷いた。

空は灰色で、やや濃い霧がかかっている。

エルサンドラ軍からの正面攻撃に備えて陣形を整えた連盟大軍は、槍と盾、鎧を装備

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小説『ヴァルキーザ』 21章

小説『ヴァルキーザ』 21章

21. ライゼル

ロータールの野で、ライゼル騎士団のスターリスを仲間に加え、7人となったユニオン・シップは、騎士団の本拠地の自由都市ライゼルに向かった。

そこは一種の自治都市のような場所だが、もとは或る騎士団の駐屯した砦に由来する都市である。その或る騎士団というのが、他ならぬライゼル騎士団の元型となった、東方由来の宗教騎士団だった。

現在、ライゼル騎士団はマーガスと盟約を交わして共存しており

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小説『ヴァルキーザ』 20章

小説『ヴァルキーザ』 20章

20. ロータール

マーガス国の都アルカンバーグを発った冒険者たちは、旅を進めるうちに広い野原に入った。

この一帯は、ロータールと呼ばれる場所だ。

野には風が強く吹いている。

自由都市ライゼルに着くまでには、まだしばらく、このロータールを歩き行かねばならない。

凹地にさしかかったとき、イオリィが、野のただ中にぽつんと立つ一体の人影を認めた。

それは、全身を甲冑で覆った騎士だった。

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小説『ヴァルキーザ』 19章(7)

小説『ヴァルキーザ』 19章(7)

翌朝、宿所でグラファーンは目覚めて、タイモス王の親書を受け取った後のことを考えた。

親書をすぐにイリスタリアに持ち帰る者たちと、「自由の宝冠」の探索を続けて先へ旅する者たちと、団を二手に分けなければならない。

そのことでグラファーンは思いをめぐらせた。

誰をイリスタリアに還すか、
誰を宝冠探索のさらなる旅に随かせるか、

・・・

グラファーンは悩み、そのことをアム=ガルンに打ち明けて相談し

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小説『ヴァルキーザ』 19章(6)

小説『ヴァルキーザ』 19章(6)

翌日、グラファーンたちは朝早く起き、タイモス王に傍聴を勧められた裁判に出席するために、王立裁判所に向かった。

グラファーンたちが裁判所に到着し傍聴席に座り、だいぶ時間が経ってから、タイモス王が臨席のために現れ、場内の奥まった席に着いた。

そして開廷の宣言とともに、裁判が始まった。

正面中央真向かいの席に裁判官が座り、その左右に陪席裁判官が座る。

法廷にはじつに多数の聴衆が詰めかけており、ま

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小説『ヴァルキーザ』 19章(5)

小説『ヴァルキーザ』 19章(5)

アルカンバーグ地下牢の脱走モンスターたちを見事に退治したグラファーンたちは、地上に通じる、もと来た扉を開いて外へ出た。

グラファーンは、牢番であるマーガスの兵士たちに、王が与えた、牢破りを討つ使命を果たしたことを伝えた。

牢番のアレンとシャバットが確認した後、非常警戒体制が敷かれていたアルカンバーグ地下牢は再び、もとの通常の警備体制に戻された。

グラファーンたちを牢まで案内した役人のヨークか

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小説『ヴァルキーザ』 19章(4)

小説『ヴァルキーザ』 19章(4)

翌日、グラファーンたちは、ヨークという名の役人に案内されて、アルカンバーグ地下牢の方へ行った。すると、アレンとシャバットという名の二人の牢番が、巨大な地下牢の大きな扉の前で会話をしていた。

「こら! 勤務中におしゃべりなんかするな!」
ヨークは二人の看守を戒める。

アレンとシャバットは何か言い返そうとしたが、ヨークに連れられてきた6人の冒険者たちを見て、黙った。

「この方たちを、地下にお通し

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